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63 国境

 さて、協力を取り付けたところで僕たちには早急にやることがある。

 いくらここが街の郊外だといっても、流石に爆発を起こしたので騒ぎになるのは免れないだろう。

 二人は兎も角、僕が指名手配である以上早急にこの場から離脱しなければいけない。


「そうでござるな……」


「私たちは街に荷物が残ってるし、あとで指定した場所で待ち合わせっていうことでどう~?」


「分かった」


 即答し、僕はべりあるを引っ張って近くの森に身を潜めることにした。

 茂みから様子を窺っていると、暫くして街から住民が出てきた。彼らはしげしげと現場を見ると、何事もないことを確認して散り散りに戻っていく。

 なんというか、またか……。と言った感じの表情だ。冒険者なんていう職業がある以上、狼藉を働く荒くれ者が多い所為なのかもしれない。

 大事にならかったようで何よりだ。






 それから数時間。爆発のほとぼりが冷めた頃を狙って僕たちは再び顔を合わせた。

 指定された場所は街から少し離れたところにある小高い丘。敷設された公道に近く、よく目に付く場所、尚且つ平地からでは窺うことのできない角度にあるといったら今の僕にとって渡りに船なスポットだ。

 ただひとつ難点を挙げるとすれば、暑さが問題だ。指定された待ち合わせ場所には避暑地がなかった。


 異世界にも四季というものがあるのか、うだるような熱気だ。乾いた暑さではなく、湿気を伴ったものだから質が悪い。

 日本と違い、道は熱気を吸収し放出するアスファルトではなく整備された地面というのが救いか。

 それでも暑いのに変わりはないが。


「異世界にも四季はあるでござるよ」


 影宮は唐突に現れた。

 その後ろに追従するように、荷馬車の御者台に乗った相方の女性……不動瀬奈(ふゆるぎせな)だったか、が巧みに馬を操っている。  


「四季があるということは、この星の地軸は傾いているということなのか」


「そんな難しい話はどうでもいいでござるよ」


「どうでもいいのか? もしかするとここは地球と同じ宇宙系列にあるのかもしれないのに」


「恭平殿は夢がないでござるなあ……」


 元々現実を直視する傾向が強かったのが、この世界にきて増したのが原因か。

 影宮がやれやれと首を振る。


「夢がなくて悪かったな。それは兎も角、馬車をもっていたんだな」


「ええ、長旅だったからね~。それなりに用意もあるのよ~?」 


 二人が所持する荷馬車というのは、一般的に馬車と聞いて想像されるものを体現化したようなものだった。

 馬を軛に据えていて、御者台があり、本丸である筐体には白い幌が掛かっている。

 全体的に木造りで、テンプレな感じが何とも言い難い。中は十分にスペースがありそうで、日本人が使っている以上それなりに快適に過ごすための処置もとられているに違いない。


「うおぅ!? 恭平、こん中すげーぞ!」


「お前はいつの間に……」


 エーテルの空き瓶を片手に興奮気味にブンブンと腕を振り回すべりある。

 彼女は無許可で馬車の中で寛いでいた。

 人、それを不法侵入と呼ぶ。


「おい、戻ってこい」


「あら~。別にいいのよ? これからこの馬車を使って旅をするわけだし」


「僕としてはべりあるで移動した方が早い。あいつには変身能力があるから、グリフォンに変身させると空を高速移動できる」


 事実、べりあるを呼び出してから僕の旅程は格段に素早さを増した。

 馬車で旅をするのも悪くはないが、速効性を鑑みるとべりあるに軍配が上がるだろう。

 しかし影宮が異を唱える。


「国境の検問はどうするのでござるか? それを無視することはできないでござろう」


「帝都の情報屋から入手した情報によれば、検問の兵であるアロインツの弱みをちらつかせ賄賂を握らせれば――」


「アロインツはひと月ほど前に帝都に栄転したでござるよ。その賄賂のおかげで」


「となると、僕一人じゃ突破は無理だな」


 あのまま一人で国境を越えようとしたら、間違いなく力ずくになっていた。

 出来れば大量虐殺はしたくない。

 落ち着いている二人の様子を見る限り、手段はないわけじゃないんだろう。


「安心なされ恭平殿。拙者達には通行証があるでござる」


「エセ忍者の言う通り、心配しなくてもいいのよ~」


「え、エセッ!?」


 流石は王国の後ろ盾があるだけはある。通行証くらい余裕ということか。


「それなら問題はなさそうだな」


「せ、拙者がエセ忍者だという疑惑があるでござるよ!?」


 まあ、ござるござる言ってるだけだからな。

 着てる服装も忍者というよりアサシンといった感じだし。

 ここはひとつ試してみよう。


「じゃあ問題だ。よく漫画なんかで忍者が手裏剣を何枚も投げつけるシーンがあるが、あれは本当に有り得たか? また、手裏剣の主要目的を答えよ」


「本当に決まってるでござる! 手裏剣は殺傷武器にござるよ!」


「おめでとう、君はエセ忍者だ」


「ファッ!?」


 あんなかさばるようなモン何枚も持ってるわけがないだろ。実際所持していたのは一、二枚ほどで石垣を登ったり穴を掘るために使っただけだ。そもそも、忍者の本分は戦闘じゃなくて情報収集だからな。

 やはりこいつはNINJAだったな。 


「う、嘘でござるよ。忍道を極めれば、きっと螺○丸や千○だって使えるはず……」


 これがゆとり教育の弊害か……。

 僕は憐れむように打ち拉がれる影宮を見下ろす。


「柊君の方が詳しいのね~」


「グハッ!」


「やめろ、それ以上傷を抉ってあげるな」


「うふふふふ~」


 不動は震える影宮を見て扇情的な笑みを浮かべている。

 僕は名状し難い寒気を覚え、その話題に触れることをやめた。

 それよりも、だ。


「結局この馬車で行くんだよな?」


「そうなるわね~」


「だが、このままじゃ遅いだろ。僕はべりあるを使うことを奨める」


「あたしを使うって言うな!!」


 馬車から這い出てきたべりあるが弾丸のような頭突きをかましてくる。

 だが渾身の頭突きは常時張られている【断罪の盾】を前に敗れた。

 頭をおさえるべりあるを抱え上げ、不動に見せる。


「こいつならどんな地上生物にもなることができる筈。一番早い種に変身させれば旅程も早まるだろう。もちろん、馬は売り払うことになるが」


「馬は構わないわ~。レンタルだし、放っておけば勝手に帰るから。

 そうね~。人目についてもいいものだと、アースリザードとか? 劣化ドラゴンって感じで、たまに行商が使ってるわよ」


「べりある、いけるか?」


 べりあるは頭を持ち上げ、不敵に即答する。


「あっっったりまえだ! あたしを誰だと思ってる!」


「アホ幼女」


「なめんなぁぁぁぁぁ!!」


 雄叫びを上げ、べりあるがポンと可愛らしい音を立て変身する。

 アースリザードと言ったか。

 見た目は羽根のない小型のドラゴンで、体色は地味な色だ。

 まさに劣化ドラゴンだな。

 ただ、上級悪魔が変身している以上本物以上のスペックを発揮してくれるだろう。


「それじゃあ、道中互いの事情を話しながら、それでもってこいつのレベルも上げながら行こうか」   


 隅っこで体育座りしている影宮を無視して僕は言った。

 不動は頷くと、御者台に戻り僕が乗り込むのを確認すると馬車を爆走させ始めた。


「ちょっ、拙者を置き去りにしないでえぇぇぇぇ!」


 背後で何か聞こえたのは気のせいだな。







「全く酷いでござるよ……」


「いやごめん。転移を封印してるの忘れてたよ」


 一応裏切られた時の保険として【断罪の剣】が封印した影宮のユニークスキルはそのままにしておいた。

 転移しようとした影宮が露骨に慌てているのをみて思い出した。

 それでも封印は解かなかったけど。


「正直、追いついて来られるとは思わなかったわよ~」 


「あたしと互角に戦えるなんて、お前やるな!」


 転移を使えないと判断した影宮は、陸上選手のようなフォームでべりある率いる爆走馬車についてきてみせたのだ。

 並列して走る速度は最早人間のものではなく、僕は軽く引いた。

 馬車を牽引するべりあるは、そんな影宮の走りに触発されたのか速度を上げ影宮もまた追従し、二人はデッドヒートを繰り広げた。

 僕が影宮を束縛し、べりあるを止めなかったら今頃馬車は速度に耐えられず木っ端微塵になっていただろう。

 僕は改めて日本人の化け物じみたスペックを思い知らされた。


 その後は普通に馬車を進め、互いに情報を交換したり影宮がトレインしてきた魔物を魔法で射撃して倒しべりあるのレベル上げに勤しんだ。

 因みに、トレインというのはモンスターを引っ張ってくることだ。公道にはモンスターが出ないので、連れてきてもらった。

 おかげでべりあるのレベルは早くも6だ。

 雑魚に変わりはないが。


 情報交換において得た最大の情報は、彼らが日本人であっても勇者でないことだ。 

 『勇者の窓』について尋ね、二人が疑問符を浮かべたのでまさかと思いきや、二人はやはり知らなかったようだ。

 女神にユニークスキルは貰っても、勇者の窓は貰わなかったらしい。

 一年この世界にいるのにも関わらず、僕の方が強いのはそこに起因している。




「そろそろ国境に差し掛かるわよ~」


 数日後。

 べりあるを休めたり、魔力を与えたり雑談したりレベル上げをこなしたりしているうちに旅の関門に辿り着いた。

 王国との国境にある砦。そこに検問所がある。 

 平素は数兵から何言か質問され、通行証を見せれば通行の許可が下りるらしい。

 だが、今回に限ってはそうでなかった。


「あー、ただいま国内で逃走中の犯罪者がいるため警備を強化しております。皆様、検察にご協力くださいー」


 やる気のない声で帝国兵がのたまう。

 しかも、その中には……。


「グライン将軍……!」


 かつて僕をダンジョンに強制的に送り込んだ、仇敵が混じっていた。

 緊張する中、前の行商が門を潜っていきとうとうお鉢が回ってきた。

 グライン自ら御者の不動に声を掛ける。


「すまないが、馬車の中を見させていただきたい」


 当然馬車の中には僕がいる。

 静かに冷や汗を垂らす僕を余所に、グラインはゆっくりと馬車の幌を剥がしていった。

影宮が似非忍者なのは偏に僕の知識不足です(笑)

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