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62 日本人の実情2

「…………」


 無言を貫き、申し訳なさそうにこちらを見る。

 その目を見たことがある。

 自分の無力の所為で他人が傷ついた、贖いようのない罪悪感を感じた目だ。

 こいつも僕と同じなのか。そう思うと無性に腹が立ってきた。 


「おいNINJA。なんとかいったらどうだ?」 


「拙者は影宮聡でござる。……柊恭平殿」


 真摯な目つきで見据えてくる影宮。

 一拍間を置いて二の句を継ぐ。


「この世界はとても残酷で理不尽で、敵が多過ぎる。真っ先に人質を取りにいった恭平殿ならば分かるでござろう」


「……ああ」


 痛いほど理解している。

 狡い真似をしてでも勝利を掴みとらないと生き延びていけないことを。

 影宮もそれを重々承知しているのだろう。


「最初に女神に召喚された時。日本人は総勢100人もいたでござるよ。しかし、今生存しているのはその半数にも満たないのでござる」


「…………」


「女神から貰った力に溺れ、過信したものから死んでいった。チートをひけらかせば要らない嫉妬を買い、その力目当てに数々の組織に追い回される。捕まれば先はない。死ぬまで玩具にされる。それでも腐敗した世界を変えようと、拙者達はチート(個人の力)を振るってきて……気付いたのでござる」


 視線を落とし、俯きがちに告げる。


「一人の力じゃ世界は変えられない」


「当然だ。個より群の方が強いに決まっている」


「気付くのに遅かったのでござるよ。その時には既に日本人は召喚時の半数を切っていた。だから拙者達は残った日本人を集め組織化し王国に助力を願ったのでござる。この世界においてのチートは武力ではござらん。群を支配する権力でござる」


 影宮の言うことは正しい。

 この世界において僕らのチートは一騎当千の力を秘めている。だが、それは個対個であった時に限定されるし、いくら大勢を相手取る力があったとしても限度がある。

 個より群が強い世界におけるチートが権力。確かにその通りだ。

 でも、


「それは言い訳か?」


「そう聞こえるかもしれないでござるな。……拙者はこの手で悪政を敷く領主を殺したことがあるでござるよ。この世界に来たばかりの頃でござる」


「……」


 なんとなく、話が見えてきた。

 僕は黙って続きを促す。


「領主は殺され、無辜の民が感謝する。そんな構図を思い浮かべていた拙者に向けられたのは侮蔑の目でござった。領主を殺したところで、根本的なところは改善しなかったのでござるよ」


「国自体が腐ってるから、替え玉を用意されて悪政が引き継がれる。そういうことだろ?」


「その通りでござる。一部を変えたところで意味はない。でも、拙者達には国を相手取るだけの力はない。今は王国に庇護してもらい、力を溜める時期。そんな折に帝国に調査に来た拙者達は恭平殿のことを知ったのでござる」


「だから僕を追っていたのか」


「見つけ出して殺す、というのは対外的な理由でござる」 


 そういえば、こいつらは戦闘になっても僕らを攻撃してこなかったな。

 今までの話を鑑みる限り、辻褄は合っている。

 影宮が手を差し出してくる。


「この世界を変えるため、拙者達に協力してはいただけまいか」


「女神が言ったのは滅びの運命っていうのだけだろ? それが世界の腐敗と関係している確証はない」


 女神がどのような意図をもって言ったのかは分からないが、明確に言及したわけじゃないんだろう。

 それはもしかすると王道的な魔王の復活かもしれないし、なにか他の突拍子もないことかもしれない。

 証拠もないのに、何故世界を変えようなどと思えるのだろうか。


「それでも、諸国の現状を見ると変えようと思うのでござるよ」


「正義感からか?」


「そうでござる」


「僕がその対極にいる者だとしても?」


「日本人が魔に染まるのはよくある話でござるよ」


「そうか」


 僕のユニークスキルの発現条件もネガティブなものだったし、そういうことも多々あるのだろう。

 僕は微笑を浮かべるとゆっくりと手を差し出す。


「ああ、助かるでござ――」


「嘘だよ」


 言って、足払いを掛け影宮の体勢を崩す。


「え――?」


 瞠目する影宮。

 しかし流石は日本人。影宮は動揺することなく体を捻って体勢を立て直そうとする。


『呪痺(カース・パラライズ)』」


 そこを久方ぶりの魔法で麻痺させ、無力化した。

 地に落ちた影宮の後ろ手を片腕で固定し、躊躇なく【断罪の剣】を突き刺す。


「【断罪の剣】、ユニークスキルを封じろ」


 こいつの転移スキルは厄介だ。早いとこ潰すに限る。


「聡!」


「安心しろ。この剣は肉体に害をなさない」


 影宮の相方の女の悲鳴に簡潔に答えてやる。

 【断罪の剣】を引き抜き、空いた片手をべりあるに突き出す。 


「短刀を寄越せ」


「ほいほい」


 受け取った短刀を影宮の首筋に突きつける。


「くっ……」


「そう簡単に信じられるわけがないだろう。そんな都合の良い話」


 良い話には裏がある。有名な言葉だ。

 僕はこの世界に来た初日に嫌というほどそれを味わった。


「目的はなんだ? 懸賞金か?」


「金なんかチートで幾らでも稼げるでござる」


「じゃあ何のために僕に近づいた?」


「言ったでござろう? 勧誘でござる」  


 地に臥したまま影宮が答える。

 意外なことに、その表情には全く焦りがみられない。

 僕は彼の首筋に擬した短刀により一層力を込める。

 僅かに皮膚が裂け、血が露出する。 


「本当のことを言え」


「恭平殿の勧誘。それが真実でござる」


「話さないと殺すぞ?」


 紅く輝く右眼で影宮を睨む。

 この至近距離からでは『魔王の右眼(グリムアイ)』の威圧からは逃れられない。

 影宮の右目が僕の右眼を捉え、目を細める。

 しかし、続く言葉は僕が望むものとは違った。


「拙者は自衛や正義の為とはいえ、数え切れないほどの人を殺した。死んで当然でござる」


「それが報いだと?」


「恭平殿も同じでござろう?」


「ああ、僕も人殺しだ。殺されても文句は言えない。だが、僕にはまだやることがある」


 短刀を振り上げる。


「これが最後だ。本当の目的はなんだ?」


「勧誘でござる」


「そうか、死ね」


 短刀を振り下ろす。

 目掛けるは影宮の首。

 この安い短刀でも首を刈り取るには十分だ。


「……」


 その当人の表情は酷く穏やかだった。

 死を拒否することなく、受け入れる。そんな老成じみた雰囲気すら感じられる。

 僕は本気の殺気を出し、首筋目掛けて短刀を――


「……恭平殿?」


 ――振り下ろさなかった。

 短刀はべりあるに向けて投げ返した。

 不思議そうな顔をする影宮に僕は一言告げる。


「だから言っただろ、嘘だって」


 そう、これは嘘だ。

 影宮を殺すというのも、話を全く信用していないというのも。

 確認する必要があったから、敵対した振りをして脅していただけに過ぎない。


「こっちが嘘っていうことでござるか。回りくどいでござるな」


「本当よ~。びっくりしちゃったじゃない~」


 影宮と相方の女性の拘束を解く。

 二人はホッと息を吐くと朗らかに笑いを上げた。

 てっきりもっと恨まれるものかと思ってたんだが……。


「真偽の確認のためでござろう?」


「結果さえよければ文句はないわよ~」


 意外と納得してもらえた。

 きっと僕らと似たようなことがあり、疑り深いのは当然という共通の認識があるのだろう。

 彼らだって僕らと同じくらい労苦を重ねている。

 その苦しみを知っているからこそ、僕は怒るのではなく手を組むべきだと判断した。

 少々やりすぎた気もするが……。

 まあ、何はともあれ理解してもらえたのなら幸いだ。


「信用してもらえたということは、協力が得られると考えてもいいでござるか?」


「ああ、僕も君に協力しよう」


 僕から手を差し出し、その手を影宮が取る。

 今度こそ、僕は影宮と硬い握手を交わした。

恭平が疑り深くて二人を仲間にするのに手こずりました。

もっと素直になろうぜ!←おい


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