61 日本人の実情1
そもそも、僕は説明してやったはずだ。僕が絶賛指名手配中であることを。
べりあるに説明しても理解が得られない様子だったので、その話題に触れるなと僕は厳命したのだ。
にも関わらず、べりあるは無垢な瞳に疑問をのせて問うばかり。子供故の純粋な眼差しがこんなにもウザイとは思わなかった。
更に、だ。二人が声を掛けてきた際、僕はべりあるを咄嗟に背後にかくまった。べりあるは僕と同様翼は消せるが、小ぶりな角だけはどうにもできない。だから幅広のローブの背に隠してやったのにのこのこと出てきやがった。
結果、二人は僕の正体を知ってしまった。
「ねえ、貴方本当に柊恭平なの~?」
いや、まだだ。まだシラを切る余地はある!
僕はすまし顔で首を振った。
「いや、本物ならうんと頷くはずがないでござろう。すまぬが、その覆いを取ってもらえぬか?」
NINJAの癖に鋭い。
なんとかフードを脱がずに済まないかと思惟していると、べりあるが一歩前に出た。
「なんか文句あんのかコラぁ! ぶっこおっそ!」
ぶっ殺すぞと言いたかったのだろうが、生憎べりあるは舌足らずだった。
僕は慌ててべりあるを背後に隠そうとしたが、NINJAが足元で喚く幼女を見て
「よ、よ、幼女っフウウゥゥゥゥゥゥゥ!! 超エキサイティン!」
何故か分からないがラリった。なんだコイツ、危ない薬でもキメてるのか!?
相方の女性の方はそんなNINJAに馴れた様子で、無視を決め込んでべりあるを見つめていた。
最早隠すにも間に合わない。
逃走しようにもべりあるが変身してない以上不可能だ。この場で変身させたら注目を集めてしまうので、それもできない。
八方塞がりだ、ツイてない!
「あら? 何かしら~、この子の頭の上についてるの。角~?」
それに気づかれた時点で、僕が指名手配であろうとなかろうと犯罪者であることが露見した。
悪魔なんて連れていたら牢獄行きは免れない。慣れてはいるが。
「なっ! まさか人外幼女でござるか!? 拙者ロリBBAだけは勘弁でござる!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ~。この子悪魔でしょう? 悪魔なんて召喚できるのは日本人くらいよ。確定ね~」
「クソッ!」
視界を妨げるフードを外すと後方に飛び退いて無詠唱の『風刃』を多重展開、同時放出した。
魔法による弾幕が張られ、郊外に爆発を撒き散らす。粉塵が吹き上がり視界が煙る。
「べりある! 逃げるぞ!」
「おう!」
だが、先鋒は逃がす気がないようだった。一歩踏み込んだ途端、【魔王の右眼】が前方に魔力を感知した。
同時に気配が出現、躊躇なく踊りかかってくる。
「少し待ってほしいでござるよ!」
「転移系の能力か!」
流石は日本人。チートだ。
だが、それはこちらも同じだ。
「『影縛り【裏】!』」
不明瞭な視界の中、後方に向かって鎖を放った。
一見砂しかない空間。でも、僕の右眼はきちんと対象を捉えている。
「キャアッ!」
NINJAの相方の女性を縛り上げる。
ユニークスキル持ちなので、暫くしたらレジストされるだろう。僕はその前に彼女に駆け寄り、片手で上半身を持ち上げると余った手で【断罪の剣】を首元に押し付けた。
砂塵が晴れると同時に僕は声を張り上げた。
「「動くな!」」
……え?
見ると、前方ではNINJAがべりあるの首に腕を回しガッチリとホールドしており、黒光りする短刀を喉元に突きつけていた。
べりあるは涙目だ。
迷わず人質を取るとはコイツ……。
「「この外道が!」」
またしてもハモった。
なんだふざけてるのかコイツ。
「「…………」」
お互い無言のまま時間が過ぎていく。互いに人質を取られている以上下手には動けない。
このままでは膠着状態が続く。
爆発を起こした以上、直ぐに街の人間がやってくるだろう。早くに逃げなくてはいけない。
だが、これを脱するには何かキッカケが必要だ。
頭中で色々と思案してみたが、これといったものが浮かばない。魔法なんてぶっぱなしたらレベル1のべりあるじゃ耐えられない。
どうする、べりあるを見捨てるか?
懊悩していると、べりあるがぐずりはじめた。
「ふぇっ、ふぇっ……。ふぇええええん!!」
緊張に耐えられなかったのか、べりあるはNINJAの懐で泣き出した。
悪魔とはいえ、べりあるはまだ子供だ。極度の緊迫状態に耐え難いものがあったのだろう。
そんな幼女の居た堪れない姿を見て何を思ったのか、NINJAが狼狽する。
一瞬の間、拘束が緩む。
瞬間、べりあるの双眸がにやりと輝いた。
「嘘じゃコラァァァ!」
ブスっという効果音がつきそうな勢いでNINJAに短剣を突き刺す。
レベル1の攻撃なので、然程威力はないだろうが衝撃はあった。
思わぬ手のひら返しに瞠目するNINJA。
形勢逆転だ。
「悪いが、見られたからには消えてもらう」
無詠唱で魔法を発動しようとして、僕は目を疑った。
「…………」
NINJAは潔く両手を上げていた。日本人なら分かるであろう、降伏のサイン。
同じ日本人だろう、と僕の情に訴えているつもりなのか。だがお生憎様、僕にそれは通用しない。
何人も無責任に同胞を見殺しにしてきた。帝国兵とはいえ、沢山の人を殺した。
目的のためとはいえ、それだけのことを僕はした。
もう、戻れないんだ。
「案外抵抗しないんだな」
「話があるだけでござるよ」
短刀は地に落ち、既に武器はない。
両手は上がっており、降伏の意思を示している。例えそれがブラフだとしても、【魔王の右眼】はあらゆる魔法・スキルを看破する。転移術式を起動しようとした瞬間にこいつの首を飛ばすだけだ。
だが、それでも聞く耳はもたない。僕を止めようとしても無駄だ。今更止まる足など持ち合わせてはいない。
「聞く気はない」
「知りたくはないでござるか? 何故この世界に日本人がいるのか」
「……」
僅かに眉間に皺が寄った。
思えば不可解だった。何故この世界に僕や愛莉達以外の日本人がいるのか。何故彼らは事情を知っていて、僕らは知らないのか。
僕らはイレギュラーなのか?
いや、この思考こそが罠だ。無駄だ。
僕は正面の男を見据え、冷然と言い放つ。
「興味ないな」
「拙者らは女神に召喚された。この世界は今危機に瀕していて、あと数年もしたら消えてしまうそうでござる。その滅亡の運命を変えるため、拙者達日本人はこの一年間活動を続けていた。来たる日に備えて。どうか、お主の手も貸してはもらえないでござろうか?」
これ以上話を続ける気はなかった。
だが、理性では分かっていても感情では納得がいかなかった。
――つまりこの男は、一年間ぬくぬくと異世界を満喫していたと? 世界の危機に備えるとは随分と格好の良い言い訳だ。どうせチートを駆使して俺TUEEEEEだろ?
「くだらない」
僕を殺そうとした癖に命乞いか? 見苦しい。
温室育ちは言うことが違うな。
激情が理性を蝕み燃やしていく。
「くだらない? お主にそんなことを言える――」
「ならば何故この国は腐っている!?」
「――――!」
「何故国の上層部の連中は手を拱いている!?」
僕は知っている。
この国が本当に腐っていることを。
帝都から遠ざかれば遠ざかるほど市街の治安は悪くなり、重税が課せられ多くの浮浪者と死者を出している。平然と賄賂が横行し、奴隷が売買される。それがこの国だ。
金や技術、価値のあるものはは全て帝都に吸い取られる。帝都のために他の街があるようなものだ。
ここの街は比較的マシなようだが、他はそうでもない。
べりあるで空を飛んでいた時に色んなものを見た。
馬車で連行される奴隷達、放置された死骸、飢えた帝民。
帝国には心底怒りを覚える。
でも、この気持ちは偽善だ。きっと義憤だ。僕が勝手に自分と重ねて勝手に共感しているだけだ。
だから、僕の本心はこの言葉にある。
「何故、僕らは虐げられなければならなかった!? お前らは何をしていたんだ!?」
「――――」
眼前の男は、ただ唇を噛み締めていた。
NINJAさんは悪くないんですけどね(苦笑)
ちなみに、彼らの難易度は
恭平達召喚組:エクストリームハード
忍者達女神トリップ組:ベリーハード
現在出ている登場人物の中での強さ比較は
謎の男>>>慎太 (闇堕ち)>兎さん(元アラサー日本人。現ウサギ)=恭平 (伸び代あり)?三将軍(直樹含む)>冥爛>他の日本人
三将軍が日本人より強いのには帝国の実情が関係しています。




