60 ☆アホの子
後書きにてべりあるのイラストを載せています。
翌日の朝。
何故か自分の寝袋から抜け出し僕に巻きついていたべりあるを引き離し、僕は朝靄の残る空気を大きく吸い込んでのびをした。
ひんやりとした冷気が肺を満たし、意識がより鮮明になる。
生活魔法で顔や寝汗で湿った身体を洗い、寝袋を折りたたみ朝食の用意をする。
べりあるはまだ起きる素振りを見せない。
幸せそうにエーテルの空き瓶を握りしめている。
その寝顔を見て、静かに微笑を浮かべると僕は朝食が出来上がるまでの時間を利用して薬を作ることにした。
今の僕の錬金術のスキルレベルは、表が4裏が3。スキルレベルは5が最大なので、結構熟練しているといっても過言ではない。
普通の錬金術だと表のレベル5が限界で、エーテルやポーションの上位互換は出現しない。だが、裏スキルを取得した僕は例外だ。
早速作ったエーテルを鑑定してみる。
『ハイエーテル 品質:極良』
僕の作るエーテルは、見ての通り上位互換であるハイエーテルだ。
品質は極良、通常のハイエーテルの2倍の効果がある。
とは言っても、これを作れるようになったのはつい最近のことでアイテムボックスに溢れてるエーテルは極良エーテルだったり並や良のハイエーテルが殆どだ。
魔力切れの心配はしなくていいだろう。
次のレシピに移行したいのだが、これがなかなか上手く行かない。
「万能薬ねえ……」
劣化エリクサーみたいなものだ。
四肢欠損なんかは無理だが、あらゆる状態異常を治すことができる。
ハイエーテルとハイポーションの複合体と考えたら簡単だろうか。
素材は揃っているのだが、失敗続きで気が滅入る。スキルレベルが足りないのではなく、素材に理由があると僕は推測している。
恐らく、薬に使用する魔物の血の品質が薬に追いついていないのが原因。一応魔宮内のボスの血を使っているのだが、どうも万能薬にふさわしくないらしい。
万能薬を作ろうとなれば、もっと深い階層の魔物の血が必要なのだろう。
それこそドラゴンレベルの血が。
今はそんなものを持っていないのでどうしようもない。
「う、ん……」
べりあるが身じろぎした。
そろそろ起きる頃合だろう。
僕はハイエーテルを隠し、代わりにエーテルを10本出した。
ハイエーテルなんて与えたら今後もそれをねだられるに違いない。
子供には幼いうちから我慢を覚えさせた方がいい、というのをどこかで聞いた覚えがある。
「おはよぉ……」
「おはよう。朝食はできてるから早く着替えろ」
「んにゃ……」
寝ぼけ眼を擦るべりある。
彼女はのそのそと起き上がり、緩慢な動作でドレスを着始めた。
町娘の衣装を着ろと言いたかったが、別に街に使いに出すわけではないのでいいかと思い直す。
「終わったぞ……」
「じゃあほら、朝食だ」
悪魔というのは朝に弱いのだろうか。
僕は魔族だが別段朝が弱いというわけではない。日差しを浴びても灰になるなんてこともない。
べりあるを見ていると個人の問題のように思えてくる。
「はむ……」
僕が出した朝食は非常に簡易的なもので、食用のナニカの卵を目玉焼きにし乾パンに乗せただけのものだ。
料理はあんまり得意じゃない。家庭科の成績は常に2~3を行き来していた。
意外なことに、慎太は得意だったりする。誰得だよ。
べりあるが朝食をかじり、じろりと僕を見る。
「マズっ!」
否定のしようがない。
牢獄に居た時の食事よりかは遥かにマシだが、宿屋にいた時の食事とは比べるべくもない。
それでも、食えるだけマシだろう。
「……」
うん、不味い。
「目が覚めたぞ!」
「そりゃ良かったな」
こんなんでも食っとかないと体力がもたない。
べりあるにも無理矢理食わせ、焚き火を消し出立の準備をする。
支度の最中にべりあるがエーテルを飲みながら尋ねてきた。
「恭平は人気なんだな」
「いきなりどうした?」
「街中に恭平の顔が沢山貼ってあったぞ?」
もうこの街にまで指名手配状が及んでいるのか。
腐ってるくせに仕事は早いな、帝国。
多分、早馬による伝達を行っているのだろう。
帝都から東西南北あらゆる方面に早馬を出し、街についたら別の急使と馬にバトンタッチ。それを順繰りに繰り返せばこの速度にも納得がいく。
王命だから、断ることもできないしな。
だがその指名手配が及ぶ範囲は帝国だけだ。王国にこの情勢を知られたいとは皇帝も思っていないだろう。
王国まで逃げ込めば安全だ。
「さて、それじゃあ行こうか」
僕はフードを被り、エーテルを飲み干したばかりのべりあるを見た。
「おかわり!」
「1日10本までだ」
「ケチ! おたんこなす!」
「なんとでも言え。行くぞ」
不承不承頷くべりある。
昨日と同じようにグリフォンに変身してもらおうと思った矢先。
「すいませ~ん」
背後から声が掛かった。
間延びした女性の声。
僕は振り返ろうとする自分を抑える。なるべく他者とは関わらないようにしなきゃいけない。
「すいませ~ん。聞こえますか~?」
悪いけど、返答はできな
「少し良いでござるか?」
――ござる!?
僕は反射的に振り返ってしまった。
「あ、ああすいませんね。耳が遠いもので」
「それならしょうがないですね~」
目の前に居たのは男女ひと組のペアだった。
女性の方は魔法職なのか、僕より上等なローブを羽織っている。ピンク色の長髪が特徴的で、目はとろんとしている。まるで寝起きみたいだ。
一方で男性の方は僕と同じ黒髪で口許を黒のマスクで覆っている。全身を黒装束で包んでおり、忍者(というかNINJA?)を意識したスタイルだ。なんだか痛々しい。
その二人を見て、僕は舌打ちしたい気分になった。
二人とも日本人だったからだ。
―――――――――――――――
不動瀬奈 18歳 女 レベル43
人族
職業:召喚師
称号:異世界人
―――――――――――――――
―――――――――――――――
影宮聡 18歳 男 レベル47
人族
職業:暗殺者
称号:異世界人
―――――――――――――――
日本人だが、勇者じゃない。これは一体どういうことなんだ?
いや、今はそれよりこの状況を何とかしないと。
「それで、私にどんな用事ですか?」
「ええ、それなんですが……」
「この人相書きに描かれている人物に心辺りはないでござるか?」
NINJA気取りの男が僕に指名手配状を突きつけた。
柊恭平、100万ルド。間違いない、僕を指名手配した手配状だ。心辺りどころか当人だよ。
「柊恭平、と言うらしいのですが。私達、たぶん同郷の者なので~」
「故郷を同じくする者として罪を雪ぎたいのでござるよ」
二人のレベルは40代。56の僕なら倒せるかもしれない。
だが、二人共ユニークスキルを持っていた。僕の方が上位のユニークスキルを持っているらしく鑑定はできたが、油断はできない。
流石は異世界人といったところか。
ここは知らない振りをするのが得策だろう。
「いえ、知りませんね……」
僕はフードを目深に被ると声のトーンを落として言った。
二人は肩を落として残念そうに礼を告げた。
「なら仕方ないでござるな」
「そうだね~。ありがとうございました~」
「いえ……」
二人が僕に背を向け、僕は安堵の息を吐く。
ああなんとかなった、と。
しかし、この時僕は忘れていた。
自身がとてつもない爆弾を抱えていることに。
思えば、いつになくべりあるは静かだった。
茶々ぐらい入れてくるかと思ったが、彼女は何も言わずに話を聞くのみ。
会って一日だが、それが不自然なのは理解できた。
べりあるが不思議そうに僕を見上げる。
「なんで教えてやらないんだ?」
「おい、おまっ黙れ――」
僕の静止を聞かずにべりあるが首を傾げ、禁句を口にする。
「お前、恭平だろ?」
瞬間、前を歩いていた二人が驚愕に目を見開き振り返った。
「は、ハハ……」
「おい恭平。何笑ってるんだ?」
べりあるはアホらしく僕に尋ねるのだった。
……やっぱこいつアホだわ。




