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06 牢獄

 硬い感触が側頭部に走り、僕は目を覚ました。


「ここは……?」 


 酷く悪い寝覚めを迎えた僕が見たのは、僅かにヒビの入った石畳に寝転がるクラスメイトと、所々窪みが見受けられる石壁、そして無窮の暗闇を写す鉄格子だった。

 僕はあまりにも急過ぎる展開に頬を引きつらせる。


「牢獄ねえ……」


 僕らの居る場所は端的に言って牢屋。ジェイル。

 先ほどまで豪勢な貴賓室に居たのが信じられないくらい、見事なまでに牢屋だった。


 それに加え、着ていた制服は影もなく、貫頭衣らしきものを着させられている。


「嵌められたな……」


 起き上がった慎太が呟いた。僕はそれに同意する他ない。


「強かったね」


「俺たちはまだレベル1だ。向こうが何レベか知らねぇが、あれは当然の結果だろ」


「随分と潔く認めるんだね」


「こうなっちまった以上、どうしようもないからな。せめて次の機会に備えるとしよう」


 と、そこで僕らは首元の違和感に気付く。


「これって……」


 慎太がいつになく沈痛な面持ちで頷く。

 僕は首元のソレに触れてみる。硬い感触が返ってきて、嫌気が差した。


 ――僕らの首には、鉄製の首輪が付けられていた。


「犬に首輪でもつけた気になってんのかよ」


「そうなんだろうねぇ……」


 鑑定を発動して首輪を見る。



 ――――――――――――――― 

 隷属の首輪

 『聖呪』レベル20

 ―――――――――――――――



 『聖呪』は聖職者が罪人に施す呪いのようだった。解呪するには特定のスキルか魔法がいるが今はまだ取得出来ない。


「まあ、無骨なチョーカーとでも思っておこう」


「レスラーの腕くらいあるんじゃね、これ」


「ん……ここは?」


 僕たちに続いて他のクラスメイト達が次々に目覚める。その中には姫もいた。


「ちょっ、ここどこよ!? なんであたし達こんなとこいるの!?」


「ここは牢屋で、僕たちは騙されてここに居る」


「だ、騙され……!?」


 姫が絶句する。

 しかし直ぐにいつもの調子を取り戻して傲然と言う。


「馬鹿じゃないの? そんなわけないでしょ。私たちは勇者なのよ? こんなことされるわけないじゃない」 


「いや、それが事実なんだよ。僕と慎太は神官長が裏切るところを見た」


「抵抗もしたんだがアイツの前じゃ悉く無駄になったな」


 姫は僕らの言葉に顔を顰めると一言。


「じゃあ、あんたらが何もできなかったから私たちはここにいるわけね。ったく、とんだ無能ね」


「「は?」」 


 とんだ責任転嫁だ。

 それなら抵抗すら出来なかったそっちは何なんだよ?


「『光の勇者』なんて見掛け倒しじゃない」


「テメェ……!」


「慎太、抑えて!」


 今ここで姫をどうにかしたところで事態が解決するわけじゃない。


「クソッ!」


「ふん!」


 姫はそっぽを向くと床に横になった。




 それから暫くして皆月さんが起き上がった。


「あれ、ここは……?」


「皆月さん、おはよう」


「私たち、なんでここに?」


「神官長に騙されました」


 二回目の説明となると手馴れたものだ。

 僕は先ほど姫に話した出来事を一から再生する。

 話しを聞き終わった皆月さんはうんうんと頷いた。


「許せないね!」


「そうだね。次あったらぶっ殺したいよ。こんな衛生環境の悪いところにいたくないし」


「衛生環境……?」


 皆月さんは辺りを見回し、次の瞬間、雷撃に打たれたかのように驚愕した。


「ここ、トイレもシャワーもないよ!?」


「そりゃあ、ないでしょ」


 普通牢屋にそんなもの常備されてない。


 え、え!? と目を回す皆月さんは僕と慎太を前に再度紛糾する。


「じゃ、じゃあどうやって身体洗うの!?」


「舐めてあげよっか?」


「ふざけないで! これじゃあトイレにも行けないよ!」


「隅っこでしろや」


「ふ、ざ、けないで!」


「「ふざけてないヨ?」」


「ふざけてるでしょーー!!」


 ガーッと小動物のように怒りを露にする皆月さんに、僕と慎太は思わず顔を見合わせて笑ってしまう。


 ……こんな悪ふざけをしている僕にだって恐怖心はある。今にも狂いそうだし、それこそ姫みたいに人に怒鳴り散らしたくもなる。これから何をされるか分かったもんじゃないのだ。


 だが、同時にそうしたところでどうにもならないことも知っている。仮にも余裕ぶってる僕が恐怖心から泣き喚けば、それはパンデミックのように周囲に明確な恐怖を伝染していくだろう。負の感情を撒き散らすだけの行為に、一体どれほどの価値があるだろうか。


 だから、僕はこうしてたわいもない会話や、状況の分析をすることで恐怖心を抑え込んでいる。それはきっと、慎太も同じだと思う。


 僕は掻き乱された集中力を研ぎ澄まそうと目を瞑り、『勇者の窓』を起動する。


 先程の『隷属の首輪』には呪いが掛けられていた。初級の鑑定ではその内容まで把握できなかったが、大方、反抗の禁止など呪いを掛けた者の意に反する行為はできないようなものに違いない。


 『解呪』スキル。若しくは『呪療師』の専用魔法である『呪解』魔法。これら二つのスキル及び魔法だけが呪いを解除することができる。ヘルプによれば、上級職にクラスアップし、且つその職業の派生先に専用の魔法やスキルを保有する職業があれば、その魔法またはスキルを取得することが可能になるという。


 例えを上げると、『戦士』と『剣士』の派生先に『騎士』という職業がある。『戦士』と『剣士』の上級職業に『騎士』が当たるわけだが、『戦士』は『戦士』のスキル、『剣士』は『剣士』のスキルしか扱うことができない。だが、『騎士』は自分の持つスキルの他にも『戦士』と『剣士』のスキルも取得することが出来るのだ。つまり、上級職にクラスアップすればするほど、取得出来る専用魔法・スキルが増えるということになる。


 僕が現在取得可能な専用魔法・スキルは『呪術師』に加え『妖術師』と『魔法使い』のものだけだ。残念ながら『呪療師』は含まれていない。僕が『呪解』魔法を取得したければ、『呪療師』を派生先にもつ上級職にクラスアップしなければいけないことになる。それは余りにも非現実的だ。必然的に『解呪』スキルの方に目が行く。

 だが、『解呪』スキルも取得条件は厳しい。



 ―――――――――――――――

 ◇1件の該当


 ・解呪クリア・アウト

  取得条件:魔力パラメータが100以上

       レベル20以上

       魔法職であること

 【効果】 

  あらゆる呪いを解除する可能性を秘める。使用者のレベルによって解除出来る呪いのレベルが変化する

 ―――――――――――――――



 結構キツイ。三つ目の条件は満たしているが、他二つはそう簡単に達成出来ないだろう。


 首輪に掛かっている『聖呪』のレベルは20。それを解除するには使用者のレベルがそれ以上であればいいので、(この場合はスキル獲得の条件に20以上のレベルが指定されているので)スキルさえ取れればこの問題は解決したも同然だ。


 どうやら神官達は『勇者の窓』の存在に気付いていなかったようだ。そうでなければ、こんな抜け道を残すわけがない。


 この最大限のメリットをどう活かすべきか……。

 思案していると、格子の向こう側から足音が聞こえた。

 コツコツと回廊に足音が響き、暖かな明かりが近づいてくる。


 クラスメイトたちはそれを救出の手と思ったのか、口々に「助けて」と叫び格子に群がる。


 だが、僕と慎太は確信していた。これは、決して救いの手なんかではないと。


 改めて獄内の様子を観察してみる。さっきは敢えて言わなかったが、明らかに一人欠けているのだ。


 こんな極限状態に置かれて皆そこまで気が回らなかったのかもしれない。或いは忘れてしまったのか。本来であれば、救出の手よりも真っ先に生徒たちを助けようとする人物が居ることに。


 ――僕らの担任、榛美琴先生。


 恐らく、彼女は……。


「いいとこで人質、最悪拷問に掛けられて洗いざらい異世界について吐かされた後で死んでるかもしれないな」


 僕たちの中における唯一の成人にして年長者。狙われるのは自明の理だ。


「生きていると願いたいね……」


 ふと、足音が止んだ。

 朧々と揺れる松明の明かりが僕らを照らした。


「……来い」


 その男は、勇者たちの哀切に答えることなく、懐から鍵を取り出すと牢獄の鍵を外し背を向けた。言外に着いて来いと語っている。


 クラスメイトたちもそれを理解したのか、再び澱んだ空気を醸しだし男の後に従っていった。


 回廊を抜けた先は広大なホールだった。円上のスペースから、幾つかの分岐に分かれている。


 先の牢獄と違い、ここには光が満ちていた。故に、事ここに至って漸く自身の姿に気付く者が続出する。


「ちょっ、なによこの服! スマホもないんだけど!?」


「ふっ、ふえぇぇ……。ちょっとこの服胸元キツイよ~」


 一部の人は大して動揺していないようだけど。起伏の激しい皆月さんはさぞ苦労することだろう。


 男――どうやら神官の一人のようだ――は、分岐点の内の一つを指して言った。


「入れ。夕刻まで出てくるな」


 慎太が得心のいかない様子で挙手する。


「ちょっと待てよ。せめてこれから何をさせられるのかぐらい教えてくれても……」


 だが、言葉は最後まで続かなかった。


「黙れ、『聖呪』」


「――グッ!?」 


 恐らくあらかじめ施されていた『聖呪』を起動したのだろう、慎太が首を抱くようにして蹲る。

 男は蛇蝎の如く慎太を睨むと、次いで瞠目する一同を一瞥して言った。


「貴様らは余計なことを言わず、言われたことに従っていれば良い」 


 差し詰め、慎太のソレは見せしめだったのだろう。皆怖々と首肯する。


「わかったなら、いけ」


 男の号令に震える足を動かしていく。震える我が身を抱く者、歯の根が合わない者、血の気が失せていく者、それぞれだ。


 僕は慎太を立ち上がらせ、蒼白な表情を浮かべるクラスメイトたちの後を追った。

訂正、感想をくれると狂喜乱舞します!

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