58 悪魔召喚
悪魔召喚。死霊術師にクラスアップしたことで新たに取得可能になったスキルだ。
召喚師と呪術師の粋を集めた儀式、その原理は酷く単純。
魂で悪魔を釣る。それだけだ。
餌の量や質が高ければ高いほど実力のある悪魔が出てくる。
今回僕が用意した魂は30ほど。これくらいなら低級、よくて中級悪魔が出ると思われる。
召喚にはユニークスキルも加味されるので、一概にそうとは断言できないのだけど。
多分、出てくるとしたら中級かな。
魂喰いした魂を解放したので、僕のステータスが若干弱体化する。これであまりにもショボイ悪魔が出てきたら萎えるな。
精々小間使いに使えれば十分程度に考えておこう。
「――我が声に応え姿を現したまえ!」
簡略した詠唱を唱え、血で描いた魔法陣の前で腕組みする。
あとは悪魔が釣れるのを待つだけだ。
と、思いきや予想以上に早く魔法陣が輝きだした。
仄暗い闇が鈍い光を放ちながら魔法陣の中枢に集約していく。悪魔が出現する兆候に、自然と肌が粟立った。
渦を巻くように一箇所に闇が凝り固まり、その余波でローブが波を打つ。
前髪が跳ね、視界不良の中、全身が吹き飛ばされそうになるのを懸命に堪える。
これは、もしかして凄いのが出てくるんじゃ?
期待する僕を余所に、勢い良く収束した闇は悪魔の形を象り、直後に発破するかのように四散した。
闇の波動が僕を覆い、一面がぬばたまの色に染まる。
その最中に耳朶に触れたのは悪魔の声。
「お前が呼んだのか……?」
悪魔らしからぬ高い声。
怪訝に思い、慎重に目を開ける。
「ああ、僕が呼ん……」
返答しながら開けた瞳には、想定外の姿が映し出された。
頭頂部には悪魔らしい双角がちょこんと居座り、背中からは漆黒の翼が生えている。血のように紅い髪はまさに悪魔そのもの。
しかし、その全身は130cm程といったところで、顔つきはあまりにも幼い。
フリルとドレープをふんだんあしらった黒のドレスを矮躯に纏い、口許から八重歯を覗かせ笑みを咲かせている。
長い紅髪を靡かせながら腕組みし、凛然とした双眸でこちらを見据える彼女は傲然と口を開く。
「あたしはベリアル! お前があたしを呼んだんだな?」
居丈高に甲高い声で言い放った悪魔を見て、嘆息する。
「なんで幼女が出てくんだよ……」
僕が魂を消費して召喚した悪魔は見るからに低級っぽく、しかも幼女だった。
小間使いにさえできるか怪しい。
「おい、なんで溜め息ついてんだよ! 殺すぞ!」
「黙れ低級悪魔。お前如きが僕を殺せるわけがないだろ」
「ぶっ殺す!」
俄かに悪魔が吠えると、瞳を赤色に変色させ襲いかかってきた。
普通の冒険者ならともかく、僕を殺すには動きが遅すぎる。
瞬時に【断罪の剣】を発動し、サクッと悪魔の胸に突き刺す。
「お、おおっ!?」
「動くな、これはお前の魔を殺す」
それで悪魔にはこれがどんなものか分かったのだろう。傍目からでも分かるほど顔を青ざめさせる。
「す、すいませんでした! ちょっと調子乗ってただけなんです! ごめん許して下さい! 殺さないでええぇぇええぇぇ!」
「……分かればいい」
重い息を吐き、泣き喚く悪魔から【断罪の剣】を引き抜き背を向ける。
すると悪魔は、
「隙あり! 死ねバーカ!」
「馬鹿はお前だよ」
サクッと。
リプレイのように【断罪の剣】が悪魔に突き刺さる。
「あんまり僕をナメないでほしい」
「う、うん」
頷いたところで剣を抜き解放してやる。
念の為に『影縛り【裏】』を発動し簀巻きにする。
ぐるぐる巻きにされた悪魔が恨めしげに僕を睨む。
「おい悪魔」
「ベリアルだってば!」
八重歯を剥き出して威嚇してくる。
幼い外見から、『ベリアル』というよりか『べりある』という感じだ。
よし、今後はそう呼ぶことにしよう。
「なあ、べりある」
「なんだバカ」
「チェンジできないのか?」
「一度召喚した悪魔は戻せない。残念だったな!」
ワハハハ! と心底楽しそうに笑うべりある。
残念なのは、僕と一緒にいなくてはならないそっちも同じなんだが。
こいつ、馬鹿なのか?
「ああそうだ! 言っとっけど、あたしは低級悪魔じゃないからな!」
「超低級か?」
「違うわバカ! 上級だ!」
……は?
こいつ僕を馬鹿にしてるのか?
僕は怒りを露に【断罪の剣】を取り出す。
「次馬鹿にしたら殺すぞ?」
「嘘じゃない! あたしは魔力さえあれば変身できるんだよ!」
要は、その魔力がないわけだ。
MPが足りずに呪文が発動できないドラ○エの某悪魔を彷彿とさせる。
「魔力があればいいんだな」
一応試してやろうと、べりあるを解放しアイテムボックスからエーテルを取り出す。
それを見たべりあるが目を輝かせる。
「何だソレ!? ジュースか!?」
「エーテルだよ。飲めば魔力を補給できる」
「マジか!」
僕の手からひったくるようにしてエーテルを取ったべりあるは、勢いよく中身を嚥下する。
ゴクゴクと息継ぎせずにエーテルを飲む音が閑散とした荒野に響く。
やがてエーテルを飲み干すと、ぷはぁ~っと満足気な声と共に空になった瓶を地面に叩きつけた。
「おかわり!」
「ない。それより早く変身してみせろ」
「しょうがねえなあ……」
誰のためにやってると思ってるんだこいつは。
【断罪の剣】で斬りつけたい衝動を抑え、べりあるを見守る。
「それじゃ行くぞ! ほいっと!」
言って、べりあるの体が闇に包まれる。
その像はみるみるうちに肥大化していき、一体の魔物の姿を象った。
漆黒の両翼に鋭利な爪牙、頑丈そうな鱗、そして蜥蜴のような顔。
闇色の姿はドラゴンとなって焦点を結んだ。
鑑定を発動してみる。
―――――――――――――――
ベリアル ???歳 女 レベル1
上級悪魔 (ドラゴン)
未契約
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なるほど、変身時には一時的に種族の表記が変わるんだな、って――
「レベル1!?」
「あたしはまだ生まれたばかりだからな!」
ぽんっと可愛らしい音を立ててべりあるがドラゴンから幼女の姿に戻る。
「レベル1……まあいいか。レベルなんてこれから幾らでも上げられる」
それより、べりあるのステータスには 未契約とあった。冥爛の時と同じく、召喚しただけでは契約したことにはならないみたいだ。
僕は視線をべりあるに戻す。
「次は契約だな。何か手順はある?」
「そうだな、まずはあたしがお前の実力を計る」
「間違って殺してしまうかもしれな――」
「よし契約しよう!」
【断罪の剣】をちらつかせると、べりあるはいとも簡単に契約してくれた。
―――――――――――――――
ベリアル ???歳 女 レベル1
上級悪魔
柊恭平の使い魔
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ステータスにもきちんと反映されている。
年齢が不明なのは悪魔に年齢の概念がないからだろうか。
まあ、そこはどうでもいい。
問題はこの幼女悪魔が使えるかどうかというところだ。
「これでお前は晴れて僕の使い魔になれたわけだ」
「嫌々だけどな!」
幼女のくせに皮肉る悪魔の頭を軽く殴った。
頭を抱えて蹲る悪魔を見下ろして本題に入る。
「そんなお前に初の命令を下す」
「あたしは優秀だからな! どんな命令でもドンと来い!」
アホみたいに笑うべりある。
こんなアホで大丈夫かな……。
いや、でもこいつしかいないし仕方がない。
僕は不安を振り払うように頭を振ると、視線をべりあるに合わせて告げた。
「お前に下す初めての命令は『おつかい』だ」
「おつかいってなんだ?」
べりあるの顔がアホみたいに固まった。
幼女且つアホの子。
アホなキャラがどんどん増えていきますね。
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