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勇者な僕らは異世界牢獄から這い上がる  作者: 結城紅
間章 余人たちが築く物語
56/89

55 直樹の決意

お待たせしました

 ――リンドニア帝国、皇城。玉座の間。

 恭平が脱獄してから少しのこと。


 崩壊した玉座の間にて意識を取り戻した皇帝、アルベルト・グランドロス・リンドニアは一人の少年を見下ろしていた。

 記憶を失った皇帝は誰が城に破壊行為を行ったのかを覚えていない。そして、同時に起きた第一皇子、小城小百合の廃人化については知る由もない。

 前者は慎太が、後者は恭平が行ったことなのだが、都合のいいように記憶を失くした皇帝はその二つの出来事を同一犯によるものだと考えていた。


「陛下、彼が犯人を証言する者に御座います」


 傍らに立つ紅髪の女性。三将軍の一角を担う将軍ベルベナの言葉に皇帝は思考を中断される。

 ベルベナの視線が向けられているのは、一人の茶髪の少年。

 皇帝は玉座から少年を俯瞰する。

 無骨な首輪を付けた少年は、片膝をついたまま顔を伏せている。


「しかし、陛下。本当によろしいのですか? 奴隷の言葉に耳を傾けるなど。私が聞き出すこともできますが」


 ベルベナが視線を皇帝から少年へと移して言った。

 少年は微動だにせずに敬意を表する姿勢を崩さない。

 この状況は、少年がベルベナを通して上申した結果出来上がったものだった。

 真実を知るのは少年たち勇者だけ。彼らは姫の配下として、直接皇帝の耳に事実を入れたかったとのたまった。

 そして皇帝はそれを是として受け取った。

 ベルベナはその皇帝らしかぬ決定に困惑する。

 皇帝は片手でベルベナの言葉を制すると、額に皺をつくった。


「良いのだ。汝を信用せぬわけではないが、余は自分の耳で聞きたいのだ。誰が息子を壊したのかをな」


「左様で御座いますか。では――」


 皇帝は鷹揚に頷くと、視界をベルベナから少年へと切り替える。

 その双眸に捉えられた少年は僅かに身じろぎすると、身を固くして王の言葉を待つ。


「面を上げよ」


「……」


 スっと、少年の顔が持ち上がる。

 その顔に浮かぶのは凛然とした表情。 

 皇帝はただ真実を知るべく口端を持ち上げる。


「達賀直樹、といったか。お前の口から何があったか聞かせてほしい」


「はい」


 少年、達賀直樹は語りだす。

 恭平が愛莉と共に脱獄したこと、愛莉が死亡したこと、将軍を含めた帝国兵が恭平の魔法によって全滅したこと。そして、禁呪と呼ばれる呪いで姫と皇子の精神が破壊されたこと。

 内心忸怩たる思いで事実を告白する。


 彼は力がなかったが故に同志を裏切ってしまった。そうするしかなかったとはいえ、その行為を悔いている。

 恭平は許してくれたが、彼の中には未だ形容し難い罪悪感が心の奥底に凝りとなって残っていた。

 それを取り除くには、恭平に報いるしかない。

 その一歩として、彼は今過分なまでに事実を話していた。

 恭平はいずれ戻ってくるといった。ならば、その時こそ力になれるように。

 今、恭平を売ることも恭平自身のためになると言い聞かせて、彼は語る。


「――これが、私の知る全てです」


「そうか。では、ひとつ問おう」


 皇帝が傲然と構え、直樹を見据える。

 射抜くような視線に思わず直樹が唾を嚥下した。


「何故、お前は逃げなかった? その気になれば城から抜け出すこともできた筈だ」


 最も、いずれ捕まることにはなったがな。皇帝はそう付け加えると、返答を促すように直樹を睥睨する。


「それは、私が帝国に忠誠を誓っているからです」 


「ほう? お前らは余を恨んでいると思っていたが」


 直樹は皇帝の皮肉に笑みを浮かべる。

 内心毒づきたいのは事実だ。

 直樹達勇者は今でも皇帝を恨んでいる。

 だからこそ、きたる日に恭平と共に報いを受けさせるためにも、ここは耐え忍ばなければならない。

 感情を殺して、皇帝に取り入る必要がある。


「私は小城百合の配下でしたが故。いずれアルセム様の私兵として仕えることを約束されておりました」


「だが、今それはかなわない」


「はい。ですから、陛下にひとつ具申したいことが御座います」


 次の言葉を溜めるようにして、直樹は辺りを見回す。   

 この場には皇帝とベルベナ以外には誰もいない。勇者は帝国内でも非公認の存在とされているため、表沙汰にならないように人払いがされている。

 誰かが隠れている様子もない。  

 それを確認した直樹は、呼吸と共に言葉を落とす。


「私を三将軍の一角に加えてもらえないでしょうか」


 自然と告げられた申し出に、皇帝は目を細め、ベルベナの目が見開かれる。

 アルフィトが欠けた将軍の座を、彼は寄越せと言っているのだ。

 確かに帝国の将軍が欠けるという事態は好ましくない。

 だが、それを勘案しても眼前の少年に任すのは得策とは言い難かった。


「貴様、御前に出れたことに飽き足らずそのような愚案を申すか!」


「ベルベナ、よい。しかし、直樹よ。お前が余を裏切らないという証拠がどこにある?」 


 皇帝が試すように直樹を見つめる。

 片膝をついたまま、直樹は平坦な口調で答えた。


「お言葉ですが、私が逃げ出さなかったことこそが何よりの証拠かと」


「なるほど。それも道理だな」


 頷く皇帝にベルベナが口を挟む。


「しかし陛下。この者が将軍にふさわしい器かどうか――」


「私のレベルは35です。勇者でないもののレベルに換算すると70はあることになりますが、それでも足りないでしょうか?」


 言い募るベルベナを牽制するように言い放つ。

 尚も苛立ちを募らせるベルベナに、皇帝が下知を下す。


「確かお前は『鑑定』が使えたな。この者を鑑定してみよ」


「陛下、それはつまり力さえあればこの者を認めるということですか!?」


 ベルベナが動揺する。

 それは、自分が見下していた存在が同等の地位につくことであり、何らかの報復を受ける可能性も示唆していた。


「……」


 黙って彼女を見つめる皇帝に、ベルベナは慌てて鑑定を発動させる。

 


 ―――――――――――――――

 達賀直樹 16歳 男 レベル35

 人族

 職業:聖守護騎士(パラディン)

 ―――――――――――――――



「――っ!?」


 予想以上の結果に、ベルベナが歯ぎしりする。

 皇帝はその様子を一瞥して、直樹に向き直り告げる。


「よかろう。達賀直樹、お前を第三将軍に命じる」


「有り難きお言葉」


 直樹が頭を下げると同時にベルベナの声が飛ぶ。


「陛下!」


「セレモニーが行えなくなった今、勇者を公表する良い機会だ」


 皇帝は不満げなベルベナにそう告げる。

 皇帝とて、自身の息子を廃人にした者と同じ存在にあまり良い感情を感じていなかった。

 だが、将軍の不在と感情とを天秤に掛ければ答えは明瞭だった。

 隷属の首輪がある以上、万が一にも対応できる。

 それに、


「友を裏切り地位を手に入れるか」 


 滑稽だと、皇帝は笑いを零す。

 いつしか、皇帝の内にあった少年への悪感情はなくなっていた。


「気に入った。お前には勇者も加えた軍勢をくれてやる」


「ありがたき幸せ」


 目前の道化を見遣り、皇帝は笑みを深め――直後に険のある表情を浮かべた。

 その変化した雰囲気を感じたベルベナは開いた口を閉ざす。

 皇帝の口が重々しく開かれる。


「近々、帝国は王国に宣戦布告する。勇者の軍勢が整った今、我が国は無敵。今こそ大陸を統一しよう。故に直樹よ、先の戦争にあたって戦果を上げ余に忠誠を示してみせよ」


「ハッ! 必ずや陛下のご期待に沿って見せましょう!」


 少年は一層頭を垂れ、偽りの忠誠を誓った。



 この日、少年は足りなかった力を手に入れた。

 友を売り友のために手に入れた力。

 姫が手に入れるはずだった地位を、少年は自らを貶めた帝国に服従することで手に入れた。

 今度こそ彼の力になれるよう願って。

次話主人公視点に戻ります。

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