52 制裁
一話じゃ長すぎるので、二部に分けて投稿しています。
二話連続投稿です。
前の話を読んでいない方は前の話からどうぞ。
「ハァ? あんま調子にのんなよ、そいつが殺せないならオレっちが殺す! 『雷轟』!」
極大のスパークの渦が放たれる。
僕はそれを見据えて、しかし避けない。
避ける必要がない。
「ハハッ! ビビっちゃって避けれ――」
アルフィトが大笑を上げた瞬間、『雷轟』が僕の手前で弾かれた。
「無駄だ」
多重障壁【断罪の盾】、【断罪の化身】の派生スキルのひとつ。
弱い僕を守る盾。
僕は右眼を開く。
「【魔王の右眼】」
この眼の能力は単純だ。
魔力を知覚し識別する。
僕は辺りを見回す。
そして、見つけた。
アルフィトが発動したという結界を。
視認できたそれに歩み寄ると、アルフィトがあからさまに動揺した。
「ま、まさかそれが見えて――」
「【断罪の剣】」
血のように紅い魔法陣が出現し、その中枢から赤黒い剣がゆっくりと姿を現す。
僕の身の丈くらいはある、魔力で構成された長剣。
僕はそれを手に取ると、結界を横薙ぎに斬る。
たったひと振り。だが、それで十分だ。
パリィンと硝子が割れたような音が辺りに響き、結界が破壊される。
「う、嘘だr」
アルフィトが最後まで言葉を紡ぎ終わることはなかった。
彼の首が消し飛ぶ。
僕が魔法名すら宣言せず、魔法を放ったからだ。
詠唱簡略ではなく、詠唱破棄。魔王の右眼により魔力を感知できるようになった僕だからこそできる芸当。
無論、ある程度までの魔法に限定されるのだが。
「ぜ、全軍突撃!」
危機感を覚えた皇子が帝国兵に出撃を命じる。
慌てて武器を取る彼らに、僕は赤く輝く右眼を開いて微笑む。
魔眼による威圧。僕の眼を見た悉くが固まって動けなくなる。
「ど、どうした!? 早くアイツを殺せ!」
「なんで動かないのよ! このクズ共がッ!」
皇子と姫にだけは威圧をかけていない。
彼らには、そんなものでは足りないほど屈辱を味わせられている。
死なんかでは生ぬるい。死を越えた恐怖を与えよう。
「『集え死霊。暗魔の柱』」
死霊術師になったことで新たに習得した魔法の詠唱を開始する。
その詠唱を聞いて皇子が顔を青ざめる。
「ま、まさかそれは禁呪……。お、おい今すぐ詠唱をやめろ!」
皇子が苦し紛れに魔法を放つも、全て【断罪の盾】に弾かれる。
詠唱は止まらない。
「『我が身は呪怨に焦がれ、彼の者たちを呼び起こす。
願うは呪。
死を越える怨嗟の痛み。
さあ、愛されざる亡者たちよ。その身に刻まれた傷を唄え』」
「やめろおおぉぉぉおお!!」
皇子が必死の形相で叫ぶ。その傍らで、何かがゆっくりと形を成していく。
皇子にはそれが分かっている。自分の傍にソレが沢山いることも分かっているのだろう。
だから彼は端正な顔を歪めて慟哭する。
「悪かった! 私が悪かった! だからもう許してくれ!」
僕はそれを見下して、聞き入れずに詠唱を続行する。
「『呪い呪い呪い呪え。
一切の慈悲なく一滴残さず生を吸いつくせ。
ただひとつ、確かな自我の元に復讐を。
今、ここに永遠の悪夢を体現する』」
「やめてくれえええぇぇええぇえぇ!!」
「我が魔をもって禁呪とする。
死者恐怖体現」
詠唱の完成と同時に、皇子と姫の周囲にソレが出現する。
否、見えるようになった。
ソレは浮遊していた。人の形を取り、二人の間を徘徊し恨み言を吐く。しかしソレには何かが足りていなかった。
ある者は、足。ある者は手。ある者は目がなかった。
内蔵が露出している者すらいる。
血に塗れた者もいる。
人の形すら留めていない者も見えた。
ソレは、死者。
二人に殺された亡者にして、かつてのクラスメイトの姿。
彼らは常に二人の周りに漂っていた。いつか復讐を果たすために。
そして、今がその時だ。
「コロスコロスコロスコロス」
「シネシネシネシネシネシネ」
死者は生者に触れられない。
それどころか、本来は姿さえ見えない。
だが、僕の魔法はそれを可能にした。生者に触れられないのは変わりないが、その姿を、声を響かせることはできる。
「カエ……シテ。ワタシノ、アシ。カエ、シテヨ」
「オレノ、テ。オレノテ、ドコ?」
「ナンデ、ワタシニハメガナイノニ、オマエニハアルノ?」
「チョウダイ」
「チョウダイ」
「アシチョウダイ」
「テヲチョウダイ」
「メヲチョウダイ」
「うわああああぁぁぁああぁぁぁ!?」
亡者が皇子の足、手、目に群がる。視界が死者で埋め尽くされる。
目のない眼窩が闇を映し皇子に迫る。
「オマエハナンデイキテルノ?」
「シネバイイノニ」
「あ、あ、ああああぁぁぁあぁぁ!!」
皇子が白目を剥いて気を失う。
だが、気を失っても恐怖からは逃れられない。
「ユルサナイ」
死者が皇子に取り付く。
「言っただろう。終わらない恐怖だと」
これから彼は延々と悪夢を見続ける。
永遠に覚めない悪夢を見続ける。
これが、この呪術が禁呪指定された所以。この魔法は対象者の精神を破壊する。
「う、うう……」
気絶した皇子が呻く。
彼の精神はこれから徐々に削れていき、いずれ廃人と化す。
彼は人から恨みを買いすぎていた。
そして、それは姫も同じだ。
「あんた、私の皇子様になにしてんのよ!?」
ああ、やっぱり効いてないか。
ユニークスキルは保持しているだけで、大抵のスキル、魔法に対する耐性がつく。
僕の魔法も彼女には効果が薄かったのだろう。
「仕方ないな」
僕は【断罪の剣】を構える。
姫が一歩後退する。
「な、なんのつもりよ」
「君の存在価値を壊す」
僕は一気に姫との距離を詰め、彼女の胸に剣を突き刺す。
トスっという軽い音と共に姫が瞠目する。
だが、血は流れない。これはそういう剣じゃないからだ。
この剣が斬るのは魔だけ。
故に、僕が破壊するのは姫の中にあるもの。
「【断罪の剣】、スキルを殺せ」
彼女の災禍の種を撒く者。
「い、いや! や、やめて、やめてよおぉぉぉ!!」
これがなくなれば、姫はただのクズの勇者だ。
なんの力もない低レベルの、この世界の人間でもあっさり殺せてしまえる雑魚。
帝国が彼女に見出す価値がなくなる。
彼女は裏切られ、見捨てられ、絶望の淵に死ぬ。
スキルが破壊される。
「あ、あ、ああぁぁ……」
姫が膝を落として涙を流す。
視線は既に虚ろで、目に見える亡者すら捉えていない。
これが僕が彼女に与える罰。
これから彼女に続く死者による責め苦と帝国の手のひら返し。
自分が如何に矮小な存在かを思い知るだろう。
そして、死ぬまで苦しむ。
「さて」
僕は硬直する帝国兵たちに振り返る。
彼らが一斉に顔を強ばらせる。
僕が彼らに下す罰は単純だ。
「死ね」
背後に数十もの魔法陣が出現し無数の『風刃』が放たれる。
魔法の多重展開。
今の僕にはこのくらい容易い。
刃が帝国兵たちの首を寸分違えず切り落とし、辺りに血の花が咲く。
鮮血が迸り、僕の顔まで血が飛ぶ。
顔に付着した血を拭い、掌を見る。
瞳に血が映る。
僕が殺した人の血だ。
手を汚してしまった。人を殺してしまった。
だが、何の感慨もない。
「殺したから殺される。そのくらいの覚悟はあっただろ。なあ?」
僕は新たに生成された死者の魂を見て言った。
今しがた殺したばかりの帝国兵の魂。
首がないそれらは恨めしげに僕に近寄ってくる。
「僕は死んでも君らを許さない」
言って、手を突きつける。
『死霊術師』のスキルを発動させる。
「君たちは、僕の糧となる」
僕の手を起点に、不可視の引力が発生し帝国兵の魂を吸引する。
魂を取り込む度に僕は強くなる。
それがスキル『魂喰い』の力だ。
抵抗は許されない。
全ての魂を取り込み終わり、僕は背後を振り返る。
「終わったよ」
生き残ったクラスメイト達が僕を見て恐怖する。
当然だ。今の僕は窮地を救った英雄ではなく、敵を殺し尽くした悪魔なのだから。
直樹が一歩前に出てくる。
僕は彼に判断を促す。
「大きな魔力が二つ。恐らく将軍が二人、城に近づいてきてる」
今回の戦闘は相手が魔法使いだからこそ成り立った。だが、残りの二人はきっと違う。
盾を得たものの、僕は相変わらず物理に弱い。盾がなくなったら一巻の終わりだ。
僕が知る限り、常に僕らを監視していた将軍、グラインは物理系だ。魔剣の能力も未知数な以上、下手に関わり合いにならない方がいいだろう。
「得体の知れない敵を相手にするのは分が悪い。逃げるなら今のうちだけど、どうする?」
その際は傷ついた仲間を置いていくことになる、と言い含める。
「……悪い。仲間を置いてはいけない。それに、俺はお前を裏切った。着いていく資格なんてない」
「そうか。じゃあこれを」
慎太から託された牢の鍵を放る。
「牢にいて、逃げたのは僕一人だと証言すれば君たちの身は保証されるだろう」
「……すまない」
「僕はいずれこの国を相手取るだけの力をつけ、戻ってくる。だから、それまで死ぬな」
愛莉を殺した帝国を許さない。
僕はいずれ帝国を潰す。
まだ復讐は終わっていない。
だから、
「まだ死ぬわけにはいかない」
僕は振り返らずに駆け出した。
愛莉の無念を晴らすために、慎太を探すために。
僕はまだ終われない。
次話、愛莉が落ちた先では……。




