49 脱獄4
いつもより短めです。
「え、嘘だろ?」
目の前で起きた現象を信じることができなかった。
アルフィトが何らかの魔法を行使した瞬間、僕の放った『影縛り【裏】』が効力を失って消滅した。
あの、冥爛でさえ屈服させた魔法がいとも容易く無効化されたのだ。
アルフィトが八重歯を覗かせて無邪気に笑う。
「残念。オレっちには魔法は効かないんだよ!」
仮にも【裏】化した魔法だ。レベルや装備に差があろうと全く通じないなんてことはありえない。
きっと、彼が使った魔法に原因がある。
こうなったら、もう一度攻撃して検証してみるしかない。
杖を突き出して叫ぶ。
「『影縛り【裏】』!」
漆黒の魔手が放たれる。
蛇のように虚空をのたうち鞭のようにしなり、不規則な動きでアルフィトに迫る。
アルフィトはそれを一瞥し、僅かに口許を吊り上げる。
迎撃するような態勢は取らない。
あまりにも無用心で、不自然な態勢。僕は思わず顔を顰める。
彼は指揮者のように指を振り、一言。
「『魔法支配』」
瞬間、『影縛り【裏】』が空で反転。弧を描きこちらに直進してきた。
「なっ!?」
さっきと効果が違う。
放った魔法は消滅せずに返ってきた。
このままじゃ僕が束縛され身動きがとれなくなる。
僕は『影縛り【裏】』の発動を解除しようとして、解除できないことに気付く。
「くっ、『影縛り【裏】』!」
同じ魔法をもう一度発動して相殺を試みる。
金属質な音をたて、辺りに煤けた闇を残して魔法が消える。
攻撃はやはり通用しなかった。だが、魔法の正体は分かった。
彼の魔法は――
「他人の魔法を支配する魔法」
「ピンポーン! 正解!」
耳聡い将軍が僕の呟きを拾い、肯定した。
彼は嬉しそうにニコニコと笑いながら捲し立てる。
「いやー、よく支配するってとこまで分かったねぇ。凄いよ、君。みんな魔法を操るとか勘違いして死んでくからさ。ねえ、どこで気がついた?」
彼は心底嬉しそうに笑って言った。
自分の魔法が看破されて喜ぶやつがいるなんてな。酔狂な奴だ。
気付いたのは、自分の意志で消えるはずの『影縛り【裏】』が消えなかった時だが、何もそんなこと喋る必要はない。
時間が押してるんだ。先に進ませてもらう。
「魔法が駄目なら物理で行くしかない。愛莉、冥爛を!」
「うん、分かった!」
同時に、アルフィトに向けて再三の鎖を放つ。
彼の魔法の射程がどれくらいあるか分からない以上、囮を出すのは必然だ。
迫る鎖にアルフィトは顔色ひとつ変えない。
これは二択だ。
僕の放つ鎖を支配するか、それとも冥爛の召喚を阻止するか。
どっちに転ぼうが、僕の優勢は変わらない。
しかし、依然アルフィトは泰然と佇んでいる。子供のような笑みを浮かべて僕を見る。
「何がおかしい」
「君ひとつ勘違いしてるよ。確かに、オレっちの魔法は魔法を支配する。でもね、対象を指定して発動する魔法じゃないんだ」
無邪気な笑みが一転、獰猛な笑みを浮かべる。まるで肉食獣が手負いの獲物を追い詰めたような、悪寒が止まらないゾッとする笑み。
瞳に宿るのは、殺意、狂気、敵意、歓喜、正と負が綯い交ぜになった混沌そのもの。
彼の瞳に映っているのは、果たして同じ人間なのか。ただのエサにしか見えてないんじゃないだろうか。僕は彼と同じ土俵に上がれているのか。
壮絶な不安が全身を血のように駆け巡る。
アルフィトがカッと目を見開いて叫ぶ。
「『クラフトォォォ!』」
幼さの抜けきらないソプラノが絹を裂くような絶叫へと変わる。
発動された魔法は全く同じもの。だが、僕はどこか底知れない不安を感じられずにはいられなかった。
そして次の瞬間、アルフィトの叫びに呼応するかのように大気が震動した。
同時に何かが広がっていき、覆われていくような奇妙な感覚。
狼狽した愛莉が指示を求めて僕を見る。
「構わない! 召喚を――」
「できないの! 召喚が発動しない!」
召喚が、発動しない……?
あいつは鎖を無効化しなかったのか?
慌てて視線を戻すと、何事もないアルフィトが視界に入った。
馬鹿な、召喚を無効にしたなら鎖が有効になるはずだ。
「だからそれは勘違いだって。オレっちの魔法は範囲指定なんだよ」
「嘘だ! ならお前は最初から使っているはず――」
「オレっちは物理攻撃に弱いからさ、物理強い奴を見極める必要があったんだよ。そのためにわざわざ能力まで明かしてやった」
肝心の、範囲指定だけは明かさずに。
クソッ、騙された! 自分で解明したものかと思い込み、深読みしなかった。
もう冥爛は召喚できない。
僕は物理攻撃に特化していない。クラスメイトは帝国兵を牽制してくれている。
動けるのは僕と愛莉だけ。どちらも物理に特化していない。
どうすれば、どうすればこの状況を打開できる!?
「『魔法支配』は通路全体に及ぶ。君たちはもう魔法を使えない。そして――」
不意に、アルフィトが懐から長杖を取り出した。
一分の隙もない流動的な動きで杖を構える。
「お前らの切り札も終いだ! 『雷轟』!」
言葉と同時に一筋の閃光が放たれる。
狙いは僕じゃない、雷の矛先は僕の後ろにいる――
「愛莉!」
彼女だった。
因みに、もし慎太がアルフィトと戦った場合。
ア:クラフトォォォ!
慎:リライトで改竄、無効化! グングニル!
一発KOですね。
無効化を無効化です。スキルなんで発動できます。
スキル改竄って書いてリライトですが、魔法も改竄できます。ただ、攻撃魔法とかだと改竄する隙がないですね。
慎太マジチートですね。恭平、主人公の座がやばいよ!




