47 脱獄2
活動報告にもある通り、前話にモブ勇者たちの葛藤を追加しました。
姫の偽装も変更しました。
よければ見てください。
姫を片付けた後、真っ先に向かったのはレベル50の聖呪が施された鉄扉。つまり、慎太が隔離されている牢だった。
早速解呪を試みる。
本来なら解呪スキルは使用者よりもレベルの低い呪いしか解除できないのだが、裏スキル化した僕の解呪にはそんな概念は存在しない。
数秒もしないうちに鉄扉が開く。
「お、おい。今のなんだよ?」
「解呪スキル。知りたければ勇者の窓を見ればいい」
驚愕の声を上げるクラスメイトに適当に返した。
彼らは必要以上に勇者の窓を使ったりしないのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、慎太を助けることだ。
「慎太! 聞こえる!?」
扉を開けると目の前に広がっていたのは薄暗い視界。返答がないのを怪しみ、少し進むと天井に穴が空いているのを見つけた。
恐らくは人為的に開けられたであろう風穴は、城の上層部にまでつながっているであろうことが容易に想像できる。
城内の光が微かに牢内に差し込み辺りを照らす。
「さっきの音は誰かがこの穴を空けたからなのか?」
確かに、上方へと果てなく続く円状に抉り取られた空間は、先の音に見合うだけの規模の破壊を起こしたに違いない。
では、誰がなんのためにそんなことをしたのか。
最悪の予想が脳裏を掠め、背筋を冷やす。
「まさか、誰かが慎太を連れ去っていったのか?」
何故わざわざそんなことを?
僕たちは既に帝国の手中にあったはずだ。ここから慎太を出すにしても、やりようならいくらでもある。とすると、第三者が介入してきたのか? ……考えても分からなくなるばかりだ。
僕は暗視のスキルを発動させる。
もしかすると、慎太が返事ができないほど衰弱しきっているなんて可能性もあるかもしれない。
それにしても、なんだか臭くないか? ここ。
「なんというか、悪臭っていう感じだよね。私もあまり長居はしたくないな」
僕と愛莉がのんびりと感想を言い合っていると、クラスメイトの連中が俄かにざわめき始めた。
「何があった?」
すぐ傍の奴に聞いても歯をガチガチと鳴らすだけでまともに取り合ってくれない。
他のクラスメイトも同じようだった。皆歯の根が合わず、膝をガクガクと震わせている。
ただ、達賀直樹だけは違うようだったが。
「なあ、これは一体……?」
「ああ、柊たちは知らないかもな。でも、俺達にとっては親しく、そして最も忌避する臭いなんだよ」
臭いのする方向に指が差される。僕はそれを追うようにして、あるものを視界に捉えた。
「ああ……確かにこれは」
死屍累々という表現がまさに的確な光景がそこにあった。
虚ろな瞳に腐り始めた肉、腸を食いちぎられ臓物を盛り返す肉塊、脳漿が飛び散り糞尿は垂れている。俗に言う、死体の数々。
中には造形を留めていないものや、致命的に何かが足りない者、穴という穴から赤黒く変色した血を吐き続けるものもある。
屍山血河、地獄絵図なんていう単語が頭中を過ぎる。
「魔宮内に死体を残してはいけない。だから、俺たちは姫に洗脳されるがままに死体を入口まで運び続けた。弔ってやりたかったけど、帝国が研究に使うとか言い出しやがった所為で取り上げられてたんだ。まさか、こんなところで捨てられてたなんて……」
「人の形じゃないのもあるんだけど……」
「……きっと解剖でもされたんだ。だって、俺たちが運んだ死体は全部人の形をしていた」
「そうか……」
どうやら帝国の連中、勇者を召喚するだけでは飽き足らず研究までする腹積もりのようだ。
まったく、度し難い連中だ。一体何を企てているのかは分からないが、どうせロクでもないことに違いない。
僕はふと死体の奥を見る。
そこには、手錠の残骸らしきものが散らばっているだけで他に何も残されていなかった。
他の牢と違って鎖があった跡があるのは、つい先日までここに誰かがいたことを証明するものに他ならない。
「やっぱり、連れ去られたのか」
諦念と共に息を吐く。
何者の仕業なのかは分からないが、慎太が光の勇者である以上価値が高いのは確かだ。
慎太にはここを脱獄できるだけの力はなかったので、僕の見解はおおよそ正しいだろう。
慎太がいないのならここには用はない。
「僕は暗視のスキルを使ってるから見えるけど、君たちは見えてないんだろ? いずれ闇に目が慣れると見えてしまうから早いとこ退散した方がいい」
「ああ、そうだな。パニックを起こされてもな……」
今ここで足止めをくらうわけにはいかない。慎太の安否が不明な以上、即刻ここから立ち去るべきだ。
「行こう」
達賀直樹に他の皆の行動を促させ、僕は愛莉と共に牢獄を後にした。
彼らは終始震えっぱなしだった。
一分もしないうちに僕らは城内へと続く白亜の門へと辿り着いた。
ここの解呪も容易に行える。問題はそこから先だ。
門に手を当てて、少し逡巡してから皆を振り返った。
「これから僕らは城内に入る。城内の地図は頭に入ってるから心配しなくていい」
問題は、大勢で移動することで生じる騒がしさ。兵を避けることは不可能だ。
故に、
「見かけたら、躊躇せず殺せ。手加減している余裕はない。初撃で潰すんだ」
これを言うのは少し酷かもしれない。僕や慎太、愛莉と姫ならまだしも普通の範疇から抜け出せない彼らにとっては耐え難いものがあるだろう。それは、元いた世界での倫理だったり人として越えてはいけない一線だったり。でも、殺すしかない。束縛系の魔法も使わない。人を呼ばれるわけにはいかないからだ。
だから、殺す。
生き残るために殺す。
殺すことを強いる。
それが、弱肉強食であるこの世界では当然のことだから。
「覚悟はいい?」
普通でいられるのならそれが一番だ。
でも、僕は普通でいられなかった。きっと、どこかすでに人間でなくなっているのかもしれない。
みんなはそうなる必要はない。僕が自分の手を汚すことで済むのなら、率先して行おう。
だが、僕ひとりじゃ全員を守れない。
だから、ここで不退転の意志を見せてほしかった。
もう、後には引けないから。
「俺は大丈夫だ」
達賀直樹が一歩前に出た。
それを見た他のみんなも、彼に倣うように足を踏み出す。
……覚悟は出来ているようだ。
「よし、行こうか」
僕は決然と言うと、思い切り扉を開いた。
続く道は一本。
17人は優に通れるほどの横幅があり、縦長に広がる通路。
視界の奥には城内へと通じる通路がある。
およそ地下とは思えない潔白なまでに白い通路を僕らは全力で駆ける。
これ以上、時間を無駄にはできない。
道の半ばに差し掛かった頃、不意に前方から多数の足音が聞こえてきた。
無闇に接近するのはマズイ。そう判断した僕は後方の仲間を手で制する。
やがて、視界に現れたのは帝国の紋章があしらわれた鎧を着込んだ十数人の帝国兵と、軍服を着込んだ藍色の髪の少年を引き連れた銀髪の見目麗しい男だった。
男の傍らに控える少年は、確かアルフィトとかいう三将軍の一人。
銀髪の男が口を開く。
「やあ、初めましてだね。憐れな勇者諸君」
僕は静かに杖を構えた。
カタルシスも近くなってきました。




