40 脱獄の機会は
四日連続更新。
脱獄する際には外の世界のことも知っておかなくてはならない。
逃走経路の確保、外界の情勢、知らないでいるのと知っているのとでは脱獄し逃げきれる確率は段違いだ。
僕たちは帝国に召喚され、それ以降は情報が途絶された牢の中で過ごしてきた。唯一の情報源である『勇者の窓』でも詳しいことは分からない。生の情報は必須。
そんなわけで、僕は危険を冒してでも情報を収集することに思い至った。
万が一の時のためと慎太から手渡されていた合鍵で牢の扉を開錠。みなづ……愛莉がついていくと聞かなかったが、一人の方がやりやすいと諭すと大人しく従ってくれた。
愛莉に見送られて牢を発つ。
気配感知を発動し、警邏の兵を避ける。
僕の記憶によれば、ホールを抜けた先に宿直室があったはずだ。そこに罠を仕掛けようと思う。
ホールを通過するにあたって、気配遮断と暗視のスキルを追加で発動させる。これで見つかったら口封じするしかないだろう。最も、衛兵にはレベルの高い奴はいなかったので見破られはしないだろうけど。
夜になると将軍が居なくなることは確認済みなので、比較的安心して行動することができる。
音をたてないように細心の注意を払い、ホールを足早に抜けた。
足を止めて呼吸を整える。
……誰かが気付いた様子はない。
「クソッ、緊張するな……」
小声で毒づく。
魔宮を探索する時よりも緊迫感がある。脱獄が掛かってるというプレッシャーが否応なく実感できた。
ゆっくり息を吐き、緊張をほぐしてから歩みを再開する。
幸い、宿直室はすぐ側だ。
明かりがついているが、中に人の気配はない。
おそるおそるドアノブを回し、僅かな隙間から中を覗く。蝶番が軋む音が耳障りだ。
「いないよな……」
案の定、中には誰もいなかった。今巡回している兵がここを使っているのだろう。
いつ誰が帰ってくるか分からないので、僕はすぐさま行動を開始した。
部屋を見回し内装の把握に努める。狭い個室の中には質素なテーブルと二脚の椅子、そして簡素なベッドと帝国のレリーフが入った軍旗くらいしか置かれていなかった。
この中で一番撤去されにくいのは軍旗かな。
僕はそれに手を翳して魔法を行使する。
「『発信呪』」
これは、名称通り対象に発信機を付与する魔法だ。解呪または自然消滅しない限り、ここで話すことは全て僕に筒抜けになる。呪術師の専用スキルにしては珍しく便利なスキルだ。
だが、これにはひとつ欠点がある。それは、一日しかもたないこと。さすがにこのスキルを毎晩付与しにくるわけにもいかない。そこで、更に魔法を使う。
「『呪弱』」
魔法やスキルの効果を3分の1にする凶悪な魔法。裏スキルを取得すれば他人のステータスを下げることもできるようになるだろう。
何故こんなことをするのかというと、それは次の魔法に起因する。
「『効果反転』」
呪術でもない、ただの魔法。付加された魔法の効力を反対にする効果をもつ。これ単体だと何の意味もないパルプ○テのような謎魔法だが、他の魔法と組み合わせることによって強力な効果を発揮する。
自身に弱体化の魔法を掛けたあとに使えば強化の魔法と同等の効果を得られることになる。
これによって、先程付与した『呪弱』は効果が『3分の1』から『3倍』へと変わる。
『発信呪』の効果が3日続く計算だ。
これが今日僕がやろうとしたことの全て。
後は待つだけで情報が手に入る。
僕は会心の笑みを浮かべて部屋を去った。
翌日、魔宮地下五層。
僕は探索しつつ、宿直室の声に耳を傾けていた。
既に昨夜のことは愛莉と冥爛に話してあるので、怪しまれることはない。
目の前の戦闘に集中しつつ、重要な情報を頭に留める。
「き、恭平……君。何かいいこと聞けた?」
愛莉が剣先を振るい血払いしながら聞いてきた。
彼女は僕を呼び捨てにすると言っていたにも関わらず、気恥ずかしいのか名前から『君』が外せないようだった。
「末端の兵から聞けるものだから、あまり大した情報はないんだけど……」
殆んどが下世話な話だし……。
でも、その中でひとつ重大な情報があった。
「三日後に、帝国が国民の前で大々的なセレモニーを行うらしい。その内容は、第一王子の帝位継承」
二人の顔が緊張に固まる。
僕はそれに追い討ちをかけるように二の句を継いだ。
「僕は、脱獄するならこの時だと思う」
ようやく脱獄が見えてきました……。




