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勇者な僕らは異世界牢獄から這い上がる  作者: 結城紅
第1章 異世界召喚編
4/89

04 不遇な職業選択

 端的にそこを表すとしたら、闇という言葉がしっくりとくる。

 辺りは一面真っ暗であり、ともすると方向を見失うかもしれない。暗闇に慣れた瞳は横目に石柱があるのを捉えるが、それ以外にめぼしいものは殆んどない。


 神殿に踏み込み、歩き始めてから数分しか経っていないはずなのに既に何時間も歩き続けているような錯覚に陥りそうになる。

 闇しか写さない視界とコツコツと響く足音にうんざりしてきた頃、前方に薄い光が見えてきた。


 僕は思わず目を奪われる。それは一目で神々しいものだと理解できた。 

 それの周囲は祭殿らしきもので囲まれており、それの神秘さに拍車を掛ける。


 ――立体的な、ひし形の水晶体が台座の僅か上の宙空に浮かび光を発していた。

 強くもなく、弱くもない、抱擁感のある優しげな光が僕を照らす。


「これは……クリスタル?」


 某ファイナルなファンタジーの水晶体を想像して頂ければ理解できると思う。

 だが、平面で見るものと違って、言葉で言い表せない凄みがある。

 感嘆の息を零す僕に、水晶体の内側から声が掛かる。


『ようこそ、【選択の間】へ。ここでは私が提示する貴方の可能性を、あなた自身が選ぶことになります』


「く、クリスタルが喋った!?」


 突如として発せられた声音に全身が竦んだ。

 さすがファンタジー、なんでもアリですね。


「それにしても、職業は選ばせてくれるんだね」


 問答無用で一方的に職業を言い渡されるのかと思っていた。


『一度選択を行うと、他の可能性は消えてしまいます。貴方は自身の選択を後悔しませんか?』 


 某RPGと違って転職はできない仕様らしい。それでも、いくつか職業が提示されるのであればマシなものもあるだろう。

 僕は大仰なまでに頷く。


「はい、誓います」


『本当に後悔しませんね?』


「はい」


 再度、大きく首肯する。


『では、これから貴方の可能性を提示します。目を閉じて下さい』


 言われたとおりに目を閉じる。

 すると、脳裏に五つの選択肢が浮かんだ。


『貴方の可能性は…… 「呪術師」「詐欺師」「賭博師」「ホスト」「教主」                        の五つです』


 ……どうしよう、ロクなものがない。

 『勇者の窓』で検索してみてもロクなスキルが見つからない有様だ。


『貴方は人の光りの面、闇の面のうち闇の方が濃いようです。きっかけさえあれば豹変してしまいます。そんな貴方に一番向いているのは「呪術師」です。貴方の掛ける呪いは簡単には解けない強固なものとなるでしょう』


 褒められてるのか貶されてるのかよく分からない。

 正直呪術師なんて選びたくないんだけど……。

 でも、この中で戦闘に向いている職業と言えば「呪術師」しかあるまい。女神様の太鼓判もあるし。


「じゃあ、呪術師でお願いします」


『本当に後悔しませんね?」


「……はい」


 まともなのがひとつしかない時点で後悔も何もないと思う。


『では、キョウヘイ・ヒイラギよ。貴方に「呪術師」としての道を授けます』


「ありがとうございます」


 女神様の言葉と同時に溢れんばかりの光が僕を照射する。眩しい、目が痛い。

 光が治まると、頭中に弾けるように文字が浮かんできた。


『「呪術師」の補正

 

 ・状態異常付与の成功率が上昇します


 ・付与した状態異常の効果時間が長くなります 


 ・状態異常に耐性が付きます 


  これらの補正はレベルが上がるにつれ上昇します   』


 親切設計で有難い。最後のは重宝しそうだ。

 でも……。

 こういうのはもっと早く出してほしかった。







 職業を賜った後、僕は神殿を出る前に『勇者の窓』を開いて取得できる魔法やスキルに変化がないか調べることにした。


「おお……。結構増えてる」


 スキルは……例えば『魔力上昇【小】』のようなステータスに補正を付けるものが多く見られる。しかし、依然として慎太の『殴打』のような直接敵に攻撃できるスキルは存在しなかった。


 だが、僕のステータスが魔力に偏っているおかげか魔法の方は幅広く揃っていた。

 ウィンドカッター(名称通り風の刃で敵を攻撃する魔法)を始めとする攻撃魔法から種々雑多な魔法。その中には状態異常を掛ける魔法も存在する。

 カース・パラライズといった、麻痺を与える状態異常系の魔法は取得条件が呪術師であることから呪術師専用の魔法であると思われる。この様子だと他の職業にも専用のスキルや魔法があってもおかしくないだろう。


 取り敢えず、レベル1から取れる呪術師の魔法だとカース・パラライズしかないのでスキルポイントを消費して取得しておく。

 残りの2ポイントは後々の為にも残しておこう。

 僕は踵をかえし出口に向けて歩き出した。




 神殿を出るとそこは喧騒の嵐だった。

 一人の人物にクラスメイトを始め、神官達も群がっているようだ。

 呪術師だなんて胸を張って言える職業ではない、神官に聞かれずに済んでよかった。実際は呪いではなく、主に状態異常を掛けることを得手しているのだが、まあ響きの問題だ。


「あ、柊くん!」


 声のした方に振り向くと、ソバージュの茶髪にリボンを着けた少女が目に入った。皆月さんだ。彼女は手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。

 その上下バランスの取れていない態勢に不安を覚えた直後。


「あうっ!」


 可愛げのある声を上げて彼女は顔面から地面にダイブした。

 野球で言うならヘッドスライディング。

 何にもない平らな地面で転倒する、漫画でしか見たことのない奇行に僕は思わず顔を引きつらせた。

 わざとか?


「うっ、うぅ……」 


 呻きながら皆月さんが顔を上げる。

 臥せられた顔を上げた彼女の顔は鼻血に塗れていた。お世辞にも綺麗とは言い難い。

 どうやらわざとじゃないっぽい。

 僕は彼女の手を引いて立たせる。そして、ふとポケットにハンカチが仕舞ってあったことを思い出した。


「ほら、使いなよ……」


 あまりの哀れさに情を誘われた僕は、ポケットからハンカチを取り出し彼女に差し出した。


「柊くん……!!」


 何故か感極まった彼女は僕のハンカチをひったくるようにして取り、ゴシゴシと顔を拭く。そしてついでとばかりにチーンと鼻をかんだ。

 ……この子、人のハンカチで何してんの? 


「あ、ありがとうございました」


 ペコリとお辞儀して、皆月さんが鼻血やら鼻水やらでべちょべちょになったハンカチを差し出してきた。

 なんか、もう色々と酷い。


「…………」


 僕がさりげなく視線を逸らすと彼女は漸く自分の失態に気付いたらしく、慌ててハンカチを神殿の壁面にこすり始めた。

 いや、違うでしょ、洗って返せよ。っていうか、神殿汚したら神官たちに怒られるぞ。


「柊くん、ハンカチありがとう」

 再び差し出されるハンカチ。最早筆舌に尽くしがたい状態になっている。

 この時僕は貸したハンカチは戻らない運命と知った。

 僕はスっと視線を人だかりに逸らす。


「ところでさ、この喧騒は一体何なの?」


「柊くん、ハンカチ……」


「この喧騒は何かな?」


「あ、うん。えっとね、四条くんが貰った職業が凄いって皆言ってたよ」 


 神殿から出てきた慎太の様子がおかしいとは思っていたけど、それが原因なのか。

 慎太を囲んでいる取り巻きが多い所為で慎太自身が見えない。これじゃあ『鑑定』が使えない。

 手持ち無沙汰になったので皆月さんの方を見る。彼女は落ち着きがなく、忙しなく視線を喧騒の隅の方に送っていた。


「ん? ああ……」


 皆月さんの視線の先を見て、僕は得心のいった声を上げた。

 彼女の瞳に映っていたのは、慎太を妬ましそうに見つめる姫の姿。皆月さんは彼女がいつこっちに来るのかとビクビクしているようだった。

 まあ、妬まれているのは確かだ。でも、この世界に於いて僕らは平等。あんな理不尽なことは起きないだろう。

 最も、そういう物理的な問題より心情的な……所謂トラウマの所為で彼女は怯えている感じだ。


「ところで、皆月さんの職業は何?」


 僕は少しでも彼女の不安を和らげようと話を変えてみる。『鑑定』を使えば済む話だが、そうすると話の種がなくなる。

 皆月さんは少し弛緩した表情で答えた。


「わたしは『契約師』っていう職業を選んだよ。『召喚術師』っていう職業の上位だって言ってた」


 聞いたことのない職業だな。でも、『召喚術師』の上位互換だと言うのならきっとそれに類似したものなのだろう。


「柊くんは?」


「んー、別にどうでもいいんじゃないかな?」


 呪術師だと言いたくないので適当にあしらう。

 だが、皆月さんはここぞとばかりに食いついてきた。


「そんなこと言われると気になっちゃうよ。何の職業になったの?」


「えー」


「何? 人に言えないような職業なの?」


 どんな職業だよ。

 いや確かに、そんな職業も候補にあったけれど。

 皆月さんが無遠慮に顔を近づけてくる。僕はこれ以上パーソナルスペースを侵略されるのはたまったものじゃないので、仕方なく喋ることにする。


「……あー、呪術師だよ」


 皆月さんが首を傾げる。


「呪術って、呪いとかかけるやつ?」


「そう、呪いとかかけるやつ」


「へぇ……」


 皆月さんの反応は思ったより薄いものだった。嫌そうな表情のひとつでも浮かべるものかと思っていたんだけど。

 かと言ってそれでは面白くない。僕はパチンと指を鳴らして言った。


「はい、今皆月さんに『一生彼氏の出来ない呪い』をかけました~!」


 もちろん、そんなことはしてないし出来ない。

 しかし、皆月さんはあからさまに動揺する。

 彼女は何かの病気かと見紛うくらい一気に顔を青ざめさせ大きく息を吸い込むと、


「いっ、いやあぁぁぁぁあァァァ!!」


 甲高い叫び声を残して全速力で走り去っていってしまった。

 残響が辺りに木霊す。

 まさか、そこまで動揺するとは……。なんか悪いことをしてしまった気になる。

 したんだけどね、悪いこと。


 イジる対象がいなくなり、手持ち無沙汰になってしまった。

 誰か暇な人はいないかなと頭を振ると、視界に姫が入った。

 一瞬肩がビクつくも、ふと思い直す。


 ――今なら、話しかけても構わないんじゃないか。

 この世界には彼女を守るものは何もない。彼女はもうただの人なのだ。 

 それに、勇者同士これから共に魔王と戦う戦友になる以上今までの悪印象もいまのうちに消した方がいいだろう。

 僕は深呼吸し、意を決して姫に声を掛けた。


「やあ、小城さん」


「気安く話しかけないでくれる?」


「あー、ごめん」


「チッ……」


 彼女は不機嫌そうに目を細める。僕が話しかけたのもあるだろうが、一番の理由は慎太が取得した職業にある気がする。

 いきなり溝を埋められるわけではないと分かっていたので、気にせず話していこう。

 僕は芸能人に群がるような野次馬たちを一瞥し、問いかける。


「小城さんはどんな職業を取ったの?」


「ハァ? なんであんたなんかに話さなきゃいけないのよ」


「なんか慎太に嫉妬してるみたいだったから」


「そんなわけないでしょ! 馬鹿じゃないの!?」 


 どうやら図星だったようだ。

 簡単に埋まる溝じゃないと言い聞かせ、話を続行する。


「じゃあ、何?」


「魔術師よ」


 僕の呪術師と比べたら大分マシな部類だ。

 だが、姫はそうは思わないらしい。


「普通過ぎて嫌になるわ。あいつが取得した職業と比べるべくもない」


 人だかりの方を見て、露骨に嫌悪感の滲んだ表情をする姫。

 僕は『勇者の窓』で魔術師について調べてみる。

 ……魔法使いの上位職みたいだ。

 前衛職と照らし合わせれば騎士に相当する。それの何が気に入らないのだろうか。


「騎士とか、魔術師とか、他にも取ってる子は沢山いるのに」


「いや、だからといって全く同じ構成になるわけじゃないでしょ」


「は?」


「いや、だから取得するスキルとか魔法とかで大分変わってくるんだよ。それに、『クラスアップ』もできるみたいだしね」


 クラスアップ。言わずと知れた、上級職への変化。特定の条件を満たせば現在の職業から派生する上級職へと転じることが出来る。今は同じ職業でも、これからもそうだとは限らないのだ。

 転職と言えないこともないが、この場合はそれは当てはまらないのだろう。転職は出来ないって言ってたしね。 


 姫は僕が何を言っているのか理解できていないようだった。

 蔑むように顔を引きつらせ、心底理解ができないといった様子で疑問を口にする。


「はあ? あんた何言ってんの?」


「え?」


「そういうのをゲーム脳っていうのよ、知ってた?」


 そう言って僕を嘲笑う姫。もしかすると、まだ『勇者の窓』を発動できていないのかもしれない。っていうか、そうだろう。そうに違いない。


 僕は思わず呆れてしまう。ステータスをよく見れば直ぐに不自然な空白に気付くはずだ。この調子だと他のクラスメイトもまだ気付いてないかもしれない。

 

「あー、うんそうだね」


 まあ、そのうち気付くだろうし、何より説明が面倒だったので姫に同調しておく。


「……漸く落ち着いたみたいね」


 姫が視線を逸らす。そこには散っていく観衆と所在なげに立ちつくす慎太の姿があった。 

 姫と話すより慎太と話した方が有意義に過ごせるだろう。

 溝を埋めるのは多分無理だとも理解したので、僕は話の席を立つことにする。


「えーっと、じゃあ名残惜しいけど……」


「全然名残惜しくなんてないわ」


 僕もそうだよって言ってやりたい。でも、今喧嘩したところで利益はない。

 ここはグッと堪えよう。


「さっさと消えなさいよ」


 仲直りなんて土台無理な話だったんだ。 姫の仰せの通り、彼女の視界から消えることにする。

 今ならクラスメイト全員でボコれるけど、そうすると神官の心証を悪くするだろうしやめておこう。

 殺るなら偽装工作を完璧にし見えないところでだ。うん。

 葛藤を心の内に仕舞い、ボケっと立ち竦む慎太に声をかける。


「やあ慎太。災難だったね」


「ああ、ツイてねぇ……」


 呆然とした慎太に話しかけると、彼はこめかみを押さえて唸った。一体どんな職業を取ったのだろうか。慎太なら大抵のものは受け入れると思うんだけど。

 それに、選択のしようはあった筈だ。


「選択肢ならいくつかあったでしょ?」


「……選択肢なんてあったのか」

 そこまで酷かったのか。

 いや、あるいは慎太自身に可能性がなかったのか?

 残された選択肢にみんなが沸き立った理由が分からないな。


「まさか、職業ですらないとか?」


「いや、立派な職業なんだが……」


 そう言って目を逸らす。

 後ろめたいものでもあるのだろうか。


「みんな感心してたみたいだからそうなんだろうね。それで、一体どんな職業なの?」


 本当に、本当にまさかとは思うが、遊び人がきたのか?

 それで、いずれ賢者になるから大丈夫的な感じでみんなに慰められていたとか?

 いや、ネタ職であるという確証はまだない。慎太の口から聞かない限り断定はできない。

 慎太は暫く逡巡していたが、やがて観念したように溜め息を吐いた。


「俺が取らされた職業は、『光の勇者』だよ」


 ……え? 時が止まったかと思った。

おまけ

~先生の職業~

 虚ろな表情で神殿から出てきた榛美琴先生。

恭平:あ、先生どうでした?

榛:……(口から魂が出ている)

慎太:こりゃあ、リアルでキャバ嬢とかロクでもないモンが出たみてーだな

恭平:ガチで『ぱふぱふ』とか覚えてるんじゃない?

慎太:なん……だと!?

神官:それで、榛殿の職業は?

榛:……じょです

神官:ハイ?

榛:「魔法少女」です……

一同:『『『!?』』』

榛:こ、この歳で魔法少女だなんて……


 ―――――――――――――――

 榛美琴 26歳(独身) 女 レベル1

 人族

 職業:魔法少女

 称号:理不尽な魔法少女

 ―――――――――――――――


恭平、慎太:お、OH……

神官:何を恥じることがありましょうか。とても稀少な職業で御座いますぞ?

榛:…………

恭平:まあ、先生の年齢じゃ魔法少女じゃなくて魔法熟女だね

榛:はい!?


ポーン

《称号『魔法熟女』を獲得しました》


榛:い、いやああぁァアアァァァァ!!

恭平、慎太:どんまい!

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