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39 名前の呼び方

 皆月さんの案を採用した僕らは四階層へと降りる。

 まだ一度も行ったことのない階層、どんなモンスターが出てくるか分からないので慎重を期する。

 姫達と遭遇するのを避けるため気配感知を使用するのも忘れない。


 ボスの部屋まで行きたいところだが、陽が落ちる前には無理だろう。今日のところは少しでも地図を埋めよう。気落ちして告げると、冥爛から思わぬ言葉が返ってきた。


「ボス、というのはこの階で一番強い奴のことじゃろ? それなら既に感知できておる」


「マジか」


 こいつ有能過ぎだろ。

 冥爛にボスのおおよその位置を地図に記入してもらい進む。

 道中出てきたゴブリンやダークウルフ、そして新たに発見したオークなんかを瞬殺していく。


 オークの素材は殆んどが食肉なのでうんざりした。武器も重量系の斧だし、使い勝手が悪い。


 そんな感じで姫達を避けつつ奥へ進んでいくこと数十分。

 僕らはボス部屋前の扉を目の当たりにしていた。


「早すぎて泣けてくるね」


「今までの私達の努力ってなんだったんだろう」


「ではいくかえ」


 冥爛が重さを感じさせない動作で鉄扉を開く。

 密閉されていた空気が外に流れ込むと同時にボスの視線がこちらに向く。


 容貌魁偉の巨躯、嗜虐心に歪んだ三白眼、胸当てを盛り上げる分厚い胸板、そして目を瞠るほど巨大なバスタードソード。

 全身緑色のボスに鑑定が弾き出した結果は『ゴブリンロード』、レベル62。


 本来なら30レベルを越えた勇者が十数人いて勝てる見込みが出る相手。

 でも、今ここにいるのは先程レベル30を越えたばかりの勇者二人に使い魔が一体。

 その使い魔が強力なわけだけど。


「焼き払え『劫火』」


 まず冥爛が取り巻きのゴブリン達を一瞬にして屠る。部下達が灰になったのを見て憤怒したゴブリンロードが冥爛に突進してくるがそう易々と通さない。


『影縛り【裏】』カース・バインド・リバース


 黒色の魔手が即座にゴブリンロードに絡みつき鎖へと変化する。ゴブリンロードは抵抗するも、その度にダメージが跳ね返ってくるので為す術がない。


「よし、あとはコイツボコるだけだ」


「弱いものいじめみたいで気が進まんのう」


 実際よわいものいじめみたいなものだし。

 釈然としない様子で冥爛と皆月さんがゴブリンロードをリンチすること数分。

 ゴブリンロードが情けない断末魔を上げて息絶えた。

 途端に莫大な経験値が加算される。


 喜びに浸っていたいが、モンスターが消えるまであまり時間がないのでさっさと採取することにする。


「あークソッ。硬いなコイツ……」


 皮膚はともかく、爪がなかなか採取できない。

 一層で拾ったナイフにも限界がきたかな……。


「柊君、ボスドロップした? 私の方素材しかないよ」


「ああ、こっちに来てるね。『緑王の巨剣』だって」


 言って、アイテム欄から出現させる。

 手の上に落ちてくるソレをサッと回避する。次の瞬間、ソレが重量感のある音を立てて地にめり込んだ。間違いなく持とうとしたら手が潰れてた。

 35レベルになった今でも筋力はショボイままだ。

 冥爛が興味深い視線を剣に向け、そしていとも簡単に拾い上げた。


「ふむ、良い剣じゃのう」


「さっきボスが使ってた剣だよね、それ」


「種別としてはバスタードソードだね。鑑定してみたら最低筋力300はないと装備できないっぽい」


「あー、じゃあ私は持つだけで精一杯かな」 


 マジか、持てるのか。女子にさえ負ける僕の筋力って……。


「皆月さんは魔法職なのに筋力もあるの?」


「ねえ、それ女子に聞いていいことじゃないよね? ……魔法職っていっても能力値は結構平均的に振り分けられてる感じだよ」


 要は万能なわけだ。魔力特化の僕には羨ましい。

 やっぱり異世界来たなら剣振って戦いたいじゃん? 絶対にかなわない夢だろうけどさ。 


「恭平よ、この『ばすたーどそーど』とやら妾が使っても良いかの?」


「あー、うん。いらないからあげるよ」


 他に使える人がいないし、構わないだろう。

 冥爛が嬉しそうに剣を振り回す。その度に見える剣の残像と風切り音が怖い。どんな速度で振り回してるんだよ。


「冥爛の筋力値いくつなんだよ……」


「最低でも300の倍以上あるのは確かだよね」


 こうして冥爛の化物っぷりを垣間見た僕らは帰還する。





 魔宮の入口辺りで冥爛の顕現を解除してもらい、グラインに報告する姫達を横目に牢へと戻る。

 さっき見ただけでも数人は減ってたな……。

 おおかたレベルの低い自分の盾にでもしたのだろう。


 彼らが自分で選んだ結果だ。僕は努めて気にしないようにする。気にしたところで、どうにかできるわけでもないし。


 牢の中に姫達が戻ってくるが、姫が僕を嘲笑するだけで変わったことは起こらない。

 4階層のボスがもういないって知ったら驚くだろうな……。


 そんな夜、みんなが寝静まった頃。寝転がる僕の肩を皆月さんがつついてきた。


「柊君、起きてる~?」


 小声で尋ねてくる。無視したら、さながらドアのチャイムを連打する子供みたく肩を連打してきた。


「痛い、地味に痛いからやめて」


「起きてるんなら返事してよ~」


 ふと自分のステータスを見たらHPが少し減っていた。

 女の子のつつきだけで減るとか、どんな紙装甲だよ……。


「あのさ、柊君」


「うん何?」


 皆月さんがスーハーと深呼吸する。そして意を決したように口を開いた。


「柊君のこと、恭平って呼ばせてくれたら私のこと愛莉って呼ばせてあげなくもないよ?」


「早く寝なさい」


 寝返りを打って顔を逸らす。


「ごめんなさい。そんな生暖かい視線を向けないで」


「皆月さんは何がしたいの?」


 怪訝に思い見つめると、皆月さんは顔を逸らして訥々と言い訳する。


「んー、いやなんていうか。ちょっと親交深めたいなーって。ほら、私達唯一無二の仲間でしょ。親交深めてもっと親密になっていかなくちゃ、うん」


「……そういうことなら」


 互いの呼び方変えるだけだし。大して変わりもしないでしょ。

 皆月さんが嬉しそうに顔を輝かせる。


「い、いいの!?」


「いいから、声抑えて」


「あ、ごめん。じゃあ、これから私のこと愛莉って呼んでね恭平」


 なんかおどおどした感じが抜けて皆月さんが皆月さんじゃないみたいだ。

 ……愛莉って呼ぶんだっけ? 


「愛莉」


「は、はい」


 皆月さん、もとい愛莉が不審に視線を泳がせる。

 ……とうとう頭が狂ったか? 

 まあいいや。

 僕は音をたてずに立ち上がる。


「僕ちょっと用事あるから、先に寝てて」


「何するの?」


 愛莉が首を傾げる。

 僕は人差し指を口にあてて答えた。


「ちょっとした情報収集だよ」

冥爛のおかげでサクサク進みます。最初のボスのような緊張感がないですね。


感想をもらえると嬉しいです(チラッ←期待するまなざし

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