32 せこいレベル上げと武器集め
だんだんハードになっていきます。
「君は、人を殺す覚悟はあるかい?」
「ある」
即答された。
「こんなとこに来てるんだ。見回りに見つかったりしたら殺す覚悟で来てる。まあ、確かに皆月にはキツイな」
彼女は姫を殺す覚悟はあっても、他の人は殺せないだろう。
彼女は優しすぎるんだ。
「そっか」
僕は胸を撫で下ろす。
慎太が人を殺せないと言ったら全部僕が背負い込まないといけなかった。僕は創作物の主人公のように全部背負い込むことはできない、弱い人間だからね。
「じゃあ、行こうか」
「ああ……」
そうして僕らは暗闇の中を進んでいく。
少し進んだところでモンスターを発見した。ダークウルフだ。
慎太が心持ち緊張した様子で構える。
「不意打ちをかけるか」
「いや、そんなに気張らなくていいよ。『呪毒』」
僕は新たに取得した魔法を詠唱簡略して放つ。
ダークウルフが苦しみのたうち回る。どこから飛んできた魔法か、誰が放った魔法かもわからないので抵抗のしようがない。
「よし、後は放っとけば死ぬでしょ。ドロップだけ貰えればいいから次行こうか」
「俺来た意味なくね?」
慎太が何か言っていたが無視して次の目標を探す。
そして、トレントやコボルトソルジャーなどに毒を掛けて回っていく。それだけでドロップと経験値が沢山入ってくる。レベルももう22になった。
「ちょ、簡単過ぎて笑えてくる」
「何もしてないのにレベルが上がるって、なんか虚しいな」
だが、忘れてはいけない。目的は飽く迄も武器集めなのだ。レベリングではない。
あまり時間を掛けるわけにもいかないので、手っ取り早くモンスターを片していく。
結局、その夜集まった武器は失った数の半分にも満たなかった。せめてもの朗報は僕らのレベルが23に上がったことか。
この分ならレベル40も遠くないな。
……そう、思っていた時期もあった。
一週間が経った。
皇帝にアイテムを没収された日以来、僕たちは第二層の攻略より先に準備を整えた。
具体的には、必要数の武器収集、そして魔宮内に武器を隠すという提案。
予想していたとはいえ、後者は随分と反論が起こった。
皇帝を前にして反骨心を失った人たちによる、保身だった。彼らは帝国に飼い慣らされることを是としていた。
これ以上痛い目を見るくらいなら……というわけだ。
武器を隠しでもして取っておかないといずれ死ぬかもしれないと蕩々と説くと納得してくれた。
脱獄のことはギリギリまで内密にしておく他ないようだ。
皆月さんには全てを伝えてある。
牢を抜け出して武器集めに奔走したこと。そして、牢のあるフロアの全体図のこと。
一週間前の夜以来、一度だけ牢を抜け出した。その時にフロア一帯を把握したのだ。
大抵は備品の倉庫などだが、宿直室と、袋小路に50レベルとやけにレベルが高い『聖呪』が施された扉があった。
これらのことを知れたのは良かったがその反面、顔を顰めたくなるようなこともあった。
三日前の深夜、息が荒い衛兵が牢の前にやって来るなり急くように扉を開け、
「来い!」
「え、えっ!?」
就寝中の女子を叩き起して担いで行った。
何があったのか確かめたかったが、深夜に衛兵が来たということは警邏の者がいる可能性を踏んでおとなしくすることにした。この日以来夜中に魔宮に行くことはなくなった。
そして数十分後、妙に上機嫌な衛兵が泣きじゃくる女子を牢の中に放って去って行った。その時にはみんな起きていて、女子の様相を見て全員が事態を把握した。
「うっ、うっ……」
乱れた服と太ももから垂れる血は……。
「……酷い」
皆月さんの呟きが遠く聞こえた。
その日をきっかけに、女子たちは毎夜眠れぬ夜を過ごすことになる。
僕にはどうすることもできない。ここで反逆すれば、僕が隷属の首輪を克服したことが判明してしまう。そうなると、みんなを引き連れての脱獄は困難を極めることになる。
僕は自分の無力さを噛み締めた。
最悪の事象が過ぎ、今日。漸く第二層の攻略が始まる。
そろそろ転回点が近づいてきました。




