31 仮初の脱獄
「なんで、あんな……。ひどいよ」
再び戻った牢の中。皆月さんが泣き崩れながらひとりごちた。
それはみんなも同じ。
僕も拭いきれない虚無感で一杯だった。
「きっと、これからも徴収され続けられる」
「そんな! 武器もないのにどうやって魔物と戦うの!?」
「んなの素手に決まってんだろうが!」
腸が煮えくり返った慎太が吐き捨てた。
結局、第一層を攻略しても僕らには何も残らなかった。
「まあ、地図が取られなかっただけマシだったのかな……」
残ったのは、役に立たない『ヘルネ草』と第一層の構造を書き記した地図だけ。
武器がなくなったのは痛い。全体の戦力も数レベル分落ちたと見ていいだろう。
第二層はおろか、第一層でさえ危険となった。
全体の平均のレベルは18ほど。36レベルに匹敵するが武器がないとスキルが使えない者が多い。
やり直しはキツイな……。それに、やり直したところで全部接収されるときた。
そこに終始傍観に徹していた姫がクスリと笑った。
「何がおかしいんだよ」
「ええ、だって結末なんて見えてるのに、貴方たちはそれを理解していないじゃない」
姫は引きつった笑みを浮かべて自嘲気味に吐き出した。
「私達は死ぬまで酷使されるのよ。ただの道具としてね。使えなくなったらポイ。ハハ、まるでゴミみたいだわ」
僕たちを嘲り笑うように言う彼女の瞳は既に濁っていた。
……壊れたか。
僕はそれにただ一言。
「勝手にそう思ってればいい」
「……なによ?」
姫の胡乱な視線が突き刺さる。
僕は突き放すように告げる。
「僕は君と違って諦めてないから、現状を打破してみせるよ」
「ハハ、あんた馬鹿じゃないの? 理解できないわ」
「理解しなくてもいいよ」
「……どうせ貴方も死ぬのよ。精々あがけばいいわ」
姫はそう言うなり横になった。
僕は背後の二人を振り返って笑う。
「僕たちも寝ようか」
「あれ、でも柊くん。今夜は……」
「今日はやめておこう。あんなことがあった後だしね」
僕はそう諭すと横になって彼女が寝付くのを待った。
数十分くらいだろうか。
そのくらいの時間が経過して、皆月さんは漸く眠りに落ちた。
僕は上体を起こして辺りを見る。
僕以外に起きている人はいない。丁度いい。
やおら立ち上がり、扉の前に立つ。
すると肩に手が置かれた感触。
「一人で行く気か?」
耳だこができるほど聞きなれた声。
落ち着いた声音には警戒心が滲んでいた。
「いや、はじめから慎太、君を連れて行く気でいたよ。さ、土魔法で扉を開けてくれないかな?」
「任せとけ」
慎太が適当な土魔法を唱えて手の平の上に土を出す。土といっても硬い、粘土のようなものだ。
「『錬成』」
それを『鍛冶師』の下位職である『錬成師』専用のスキル、『錬成』を使って鍵の形に変化させていく。
更に、『計測師』の専用スキル『計測』で鍵穴に合致する鍵を計測済みなので正確な鍵を作ることができる。
……ここまで専用スキルを取得することができたのは、慎太が『光の勇者』だからだ。
『光の勇者』は全ての職業の頂点にあるため、レベルやパラメータの問題さえクリアすれば取得できない魔法・スキルはない。
なんというチート。
数分もしないうちに鍵が完成する。
「開いたぜ」
「ありがとう。よし、じゃあ首輪を外そうか」
僕は『勇者の窓』で解呪スキルを取得して呟いた。
「でもよ、んなことしたら『聖呪』が発動しなくなっちまうから将軍に解呪したことバレるんじゃねぇか?」
「それなら大丈夫だよ。みんなが抵抗しなければいい。それに、『聖呪』と僕の『呪痺』のエフェクトはよく似ている。いざという時は自分にそれを掛ければ問題ない」
レベルが20に上がったことで『詠唱簡略』や『鑑定』などのスキルを上げることが可能になったので既に済ませてある。
『詠唱簡略』も【小】から【中】になっているので中級呪文の『風巻』以外なら一言で発動できる。
それに、
「誰かが荷物の預り番にならないとマトモに攻略できないからね」
と言っても、どこから情報が漏れるか分からない。これは僕と慎太、皆月さんだけの話になるだろう。悪いけど、他のみんなの分は魔宮内に隠すことになる。
不自然にアイテムが減ると不思議に思われるので武器だけになると思われる。
今はその武器がひとつもない状態なのでどうにかしないといけない。
「というわけで、魔宮に来たんだよ」
「事後報告ありがとーな。先に言ってほしかったぜ」
魔宮内もすっかり夜だ。
やはり時間経過によって太陽と月が入れ替わる仕組みのようだ。
それを見越して取得するスキルは選んできている。
「慎太、『気配感知』と『気配遮断』、そして『暗視』を取得して」
「了解」
スキルを取得すると視界が一気に明瞭になった。昼のように見える光景に少し驚く。
そして『気配感知』のおかげでモンスターの居場所がなんとなく分かり、『気配遮断』でこちらは感知されない。視界は暗いのでこちらが先手を取ることは容易だ。
いつになく静かな慎太が不意に言葉を零した。
「恭平」
「何?」
「なんで皆月を連れてこなかったんだ?」
「……慎太に聞きたいことがあってね。皆月さんにはキツイと思って」
僕は一息ついて慎太をまっすぐ見つめた。
眦を決して言葉を紡ぐ。
「君は、人を殺す覚悟はあるかい?」
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