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30 再びの謁見 屈辱

 ホールから分岐する幾つかの道の中で、特に道幅が広い道を歩いていく。

 僕は先ほど鑑定した将軍のステータスについて考えていた。



 ―――――――――――――――

 アルフィト・リードゥル 19歳 男 レベル68

 人族

 職業:魔法支配者(マジック・クラフター)

 ―――――――――――――――



 ―――――――――――――――

 ベルベナ・カルムード 26歳 女 レベル72

 人族

 職業:魔聖騎士(マジック・パラディン)

 ―――――――――――――――



 無理ゲーすぎるでしょ、こんなの。

 国宝級の装備持ってるとか言ってたし。それを加味すると実質レベル80を越える強さを持ってるってことになるのだろう。

 化け物だ。


 まだ、勝てない。もっと力をつけないと……。

 ……まぁ、戦わずに脱獄できればそれが一番なんだけどね。というか、戦わない。即逃げる。

 そんな風に後ろ向きな思考をしていると、目の前に大きな白亜の扉が現れた。

 グライン将軍が一歩前に出て手を翳す。


 扉を開けるだけなら衛兵にやらせれば済む筈だ。

 僕は不審に思い扉を鑑定してみる。



 ―――――――――――――――

 白亜の大扉

 『聖呪』レベル40

 ―――――――――――――――

 


 ……。

 城内に続くのはこの扉だけ。そして、『聖呪』のレベルは40。

 まだ解呪できない。あと、20レベル必要だ。

 先は長そうだ。

 グライン将軍が詠唱を終え扉を開ける。

 白亜の大扉は軋んだ音を立てつつもゆっくりと開いていく。

 扉が開ききって城内に入る。


 薄暗い場所に出た。何かを管理しているのだろうか。樽がうず高く積まれていたり袋一杯に詰まった何かが別々に分けて保管されている。

 飲食料品に違いない。


 更に一階上がって明るい場所に出る。ここで女子勢が貫頭衣を着ていることに恥じらいを覚えたのか俯きがちになる。皆月さんは違ったけど。

 彼女が耳打ちしてくる。


「神官長と皇帝見たら即ぶっ殺そうね」


「……今はまだ時期尚早だよ」


 彼女も随分と物騒になったものだ。

 そんなことをしたら『聖呪』で殺されてしまう。


 やがて見覚えのある廊下に出て謁見の間へと続く扉に来た。一週間ぶりだ。あの時はこんなことになるなんて予想だにしなかった。


「…………」


 グライン将軍がこちらを見てから無言で扉を上げた。

 以前と違ってファンファーレは鳴らない。

 それどころか、謁見の間には兵士の影すらなかった。


 ここに来るまでも僕らを連行する衛兵以外に兵を見かけなかった。いや、兵に限らず人っこ一人いなかった。


 一体どうなっているのだろうか……。


 謁見の間の中央に勇者一同が整列し、玉座の脇に三将軍とクソ神官長が屹立する。


「跪け」


 皇帝が一言目に発した言葉がそれだった。

 僕たちを貶めといて何様のつもりだ。


 僕らは断固として跪くことはなかった。この皇帝を見て怒りを覚えなかった者はいなかったからだ。


 その様子に憤激した皇帝は額に青筋を浮かばせ、錫杖をドンと突いた。


「余に跪けと言ってるのだ!」


「跪け、『聖呪』」


 皇帝の怒りに呼応するかのようにグラインが『聖呪』を発動させた。その痛みは凄まじく、全員が膝を折るまでにそう時間は掛からなかった。

 僕たちが跪いたところで皇帝が落ち着き、話を切り出す。


「『ペイルの魔宮』の一層を攻略したようだな。その調子で励め。お前たちはいずれ帝国の軍隊に加わるのだからな」


「なっ――!?」


 慎太が絶句する。

 だが、僕にとってこれは想定内のことだ。僕の予想だと、これよりもっと酷いものが待っているはずだ。


 皇帝と謁見するなんて聞いてないので対策なんて取れていない。

 この場で何が起ころうともそれに従うしかないのだ。

 皇帝が話を続ける。


「そうだ、軍隊だ。勇者のみで構成された軍隊。その為に勇者の品位を下げることなどあってはならぬから、こうして城内を人払いしたのだ」


 なるほど、勇者が奴隷と知られたら士気が下がる。だから、それが知られないように人払いしたのか。

 それじゃあ、この衛兵は……。


「そこの兵は別だ。将軍直属の部下だからな」


 皇帝が一拍置き切り出す。


「さて、本題に入ろうか」


 来たか……。

 皇帝の目的が軍備の強化ならば、当然僕らに課するのは……。

 眉根に皺を寄せ、厳かに二の句を放つ。



「お前たちが蓄えたアイテムを全て吐き出せ」




 みんな開いた口が塞がらない。

 僕は裏切ってほしかった予想が的中して歯噛みする。


 軍備の強化に欠かせないのが、兵の強化と物資だ。単純に兵が強かったり多かったりするだけでは戦争は成り立たない。それらを支える物資があって成り立つのだ。


 魔宮には未知の物が沢山転がっている。優秀な素材、そして強力な武器。欲しがらないわけがない。


 だが、魔宮は何があるかわからず危険だ。だから僕たちを放り込んで様子を見た。そして無事に一層を攻略したから搾取しようっていう魂胆なわけだ。


 この、クズ共がッ……!


「持ってるアイテムを全て置け『聖呪』」


「くそがあああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!」


 こうなっては為すすべもない。

 僕らはアイテムボックスにあるアイテムをありったけ床にぶちまけた。

 衛兵がそれらを拾い集めて献上していく。


「ほう……、『野蛮な剣』、『司令官の軍靴』か。なかなか良いではないか……」


「陛下、雑草が混じっておりますが……」


「捨て置け」  


 衛兵には『鑑定』がないのか『ヘルネ草』を雑草と勘違いしてくれた。

 『ヘルネ草』だけがアイテムボックスに帰ってきた。『錬金セット』を取られてしまった以上錬金できないので意味がない。


 皇帝は暫く接収したアイテムを矯めつ眇めつ眺め上機嫌だった。その間僕らはひたすら屈辱と喪失感に耐え跪いていた。

 そして皇帝がふと気付いたようにこちらに目を向けて、


「ああ、まだおったのか。帰って良いぞ」


「ッ! クソッ!」


 慎太が小声で毒づいた。

 みんな同じ気持ちだった。


 僕らは歯を食いしばって謁見の間を退室した。

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