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勇者な僕らは異世界牢獄から這い上がる  作者: 結城紅
第1章 異世界召喚編
3/89

03 勇者の窓

 不思議に思い、目を凝らしていると何やら文字が浮かんできた。


「『勇者の窓』……?」


 どうやらスキルのようだ。注視しないと表示されない仕組みにでもなっているのか?

 語感からはステータスの可視化に似たようなものを感じる。そもそも、ステータスの可視化らしきものはスキル欄に存在しないのに、何故これだけ……。


 もしかして、ステータスの可視化はこの『勇者の窓』のスキル効果なのか?

 僕は再度目を瞑って『ステータス』ではなく『勇者の窓』の発動を念じてみる。

 すると今度は違うものが表示された。



 ―――――――――――――――

 ◇勇者の窓◇ 

 ・ヘルプ 

 ・ステータス 

 ・ドロップ一覧 

 ・魔法

 ・スキル

 ・スキルポイントの振り分け

 ―――――――――――――――



「え? 何これ?」


 なんか、思ったより沢山出てきた。

 どうやらステータスの可視化は『勇者の窓』の効果の一部らしいということは分かったけど。

 驚きのあまり、目を開いてしまったが『勇者の窓』は依然脳裏に浮かんでいた。目を閉じなくても意識していればいいようだ。

 いくつか選択肢があるようだけど、どうやって選択すればいいのか。

 僕は試しに「魔法」と、スマホをタップするような感覚で念じてみる。  すると、


 ―――――――――――――――

 ◇検索

 ――――――――――――――― 


 あっ、できた。こっちは随分とさっぱりしている。

 検索と念じる。


 ――――――――――――――― 

◇検索方法

・キーワード検索

・取得可能な魔法を検索

 ―――――――――――――――


 パソコンでネットサーフィンしてるような感覚だ。

 カーソルキーはないが視線がその代わりだと思えばなんてことはない。

 僕は後者を選ぶ。


 ――――――――――――――――――

 ◇現在取得可能な魔法は以下の通りです

 ・キュア

 ・生活魔法

 ――――――――――――――――――


 まあ、レベル1の無職だ。勇者は飽く迄も称号みたいだし、このくらいが妥当か。

 今度はスキル、取得可能なスキルと連続で念じる。 


 ―――――――――――――――――――

 ◇現在取得可能なスキルは以下の通りです

 ・鑑定【初級】

 ―――――――――――――――――――


 ……これはまた、随分と少ない。やっぱり無職だから?

 僕は一縷の望みを賭けてスキルポイント振り分けを見る。 


 ―――――――――――――――

 ◇残りスキルポイント5

 ―――――――――――――――


 0とかじゃなくて良かった。

 素のパラメータじゃ不安過ぎる。


「おい、恭平」


 勇者の窓の閲覧に熱中していると、不意に肩を叩かれる感触がした。


「恭平、神官長の話聞いてんのか?」


「あ、ごめん。何かあった?」


「ああ、これからあそこで職業を貰うんだとよ」


 そう言って、慎太は目の前の神殿を指差した。

 いや、今さっきそこから出てきたばかりだ。なんで戻る必要があるんだ?

 それに、魔法や戦闘を手ほどきしてもらえるんじゃ……?


「神殿は正面から入ると【選択の間】っていう女神様から職業を貰える場所に通じてるんだと。勇者は職業を得てレベルが上がれば自ずと魔法やスキルを獲得できるんだとさ」


 それじゃあ、この『勇者の窓』ってなんなんだ? ……まあ、それはひとまず置いといて。


 慎太曰く、神から職業をもらうと言ってもそれはシステム的な物のようで、決まった言葉した喋らないそうだ。

 神の声は託宣を受ける当人にしか聞こえないらしい。なので、面倒なことに取得した職業を神官に告げなければならない。嘘をついても後ほど『鑑定』というステータスを看破するスキルを持った神官から検査されるので露見してしまう。嘘はつけない。

 ……これで遊人とか出てきてしまったらどうするのだろうか。


「竜騎士とか出てくれねーかな」


「ああ、やっぱドラゴンには憧れるよね」


「ジャンプの連続で圧倒してやんぜ」


「ファイナ○ファンタジーかよ」


 確かにあれは強いけど。

 でも、実際やったら空中で撃ち落とされそうだ。


「ところで恭平。お前さっき何してたんだ?」


「ただの検証だよ」


 そう言って僕は周りを確認した。

 目の前には長蛇の列が広がっている。お告げは一度に一人しか受けられないので待たされているのだ。

 僕らにお鉢が回ってくるまで十分時間はある。お喋りしても問題ないだろう。


「慎太、スキル欄の空白の部分を注視してみて」


「分かった」


 何の迷いも躊躇いもなく、慎太は了承した。

 目を開けたままステータスと唱える。本当は唱える必要ないんだけど。


「……ん、なんだコレ? 『勇者の窓』?」


「それで少し検索してみてよ」


 慎太にも先ほどのコマンドが見えたようだ。

 僕は取得できる魔法やスキルは少なかったが、果たして彼はどうなのか。 慎太が眉間に手をあて小さく息を吐いた。


「俺が取得できるものは少ないな。極一部のスキルと魔法だけみたいだ。神官共はこのこと知らねえのかな」


「そのことなんだけどさ。たぶん、神官長が言ってたレベルが上がれば勝手に魔法やスキルを覚えるってこれのことなんじゃない? 曲解してるんだよ」


「知ってたら明確に言ってるだろうしな。十中八九これのことを知らないんだろうな」


 もしかすると、長い時の間に失伝してしまったとか。……ありえなくはない。元居た世界でもそういうことはあったし。

 僕は腕組みして笑顔で語る。


「今は取得できるものは少ないけど、きっとこれから増えるんだろうね」


「ああ。きっと、レベルを上げたり職業を得ることで取得できる魔法やスキルの幅が広がるんだろうな」 


 まるでゲームみたいだ。でも、ここは現実。あまり軽視し過ぎないようにしよう。

 お互い特に語ることもなく、自然と沈黙が訪れた。


 そこからは『勇者の窓』にあるヘルプを眺めていた。この世界の情報やシステムについていち早く把握しておきたい……というのもあるが、一番の理由は暇過ぎるからだ。

 異世界では、当然だろうが電波なんてものはなくスマホが役に立たない。ネットに繋げないんじゃ暇つぶしできないし、無駄に充電を磨り減らしたくない。

 渋々といった感じでヘルプを読み流していた。


「お、入り口が見えてきたな」


 数十分経った頃、慎太が徐に前列を眺めてそう言った。


「あ、一人出てきたよ」


 僕はたった今神殿から出てきたクラスメイトを見る。

 彼は神官に職業を尋ねられると、『騎士』と答えた。

 その言葉に、どうやら神官は甚く感嘆したようだった。


「おお、戦闘系の職業の中でも上位に入る職業を授かるとは、いやはや流石は勇者様です」


 恐れ入りましたとばかりに褒めちぎる神官。

 その様子を見た慎太は彼の他にも周囲のクラスメイト――職業選択が終わった人たち――を見回し僕を見た。


「他の奴らが気になるな。さっき取得可能なスキルに『鑑定【初級】』っつースキルがあったから、ちょっとそれ取って他の奴ら見てみよーぜ」


「それって覗きになるんじゃ?」


「何言ってんだよ。別に女の裸見ようってわけじゃねーんだ。構いやしねーだろ」


「まあ、そうだね。……ほいっと」 


 勇者の窓を発動させて、慎太の言う鑑定を検索する。

 取得条件は既に達成していたので、スキルポイントを1消費して取得した。


 ポーン 《『鑑定【初級】』を取得しました》


 軽快な音と共にスキル取得のアナウンスが響いた。予想外の音に少し驚いてしまう。

 本当にゲームじみてるな……。


「はい、スキルとったよ」


「おし、じゃあ見てみようぜ」


 言うなり、僕と慎太は辺りを見回す。

 視界は至って普通だが、少し注視してみればそれが例え物だろうと人だろうとそれに関する情報が脳裏に浮かんだ。

 僕は先のクラスメイトを見てみる。


 ―――――――――――――――

 達賀直樹 16歳 男 レベル1

 人族

 職業:騎士

 ―――――――――――――――


 どうやら閲覧できるのはここまでのようだ。『鑑定』が成長すれば今以上の情報を知ることができるのだろう。


「効果は出てるみたいだな。【初級】ってあるからには【中級】以上が存在するんだろうな」


 『勇者の窓』を使って検索してみる。……あった。詳細を念じて見ると取得条件はレベル20、まだ先の話になりそうだ。

 僕は笑みを浮かべて茶化す。


「それこそ極めれば女性のスリーサイズが分かるようになるかもね」


「よし、俺『鑑定』極めるわ」

 自分の欲望に正直過ぎるだろ。

 冗談かと思いきや慎太は数瞬思考し、舌打ちした。どうやら本気で【中級】を会得しようとしたらしい。


 僕は『勇者の窓』を開きつつ慎太を説く。


「『鑑定』も重要だけどそれ以上に魔法の存在を忘れちゃいけないんじゃないかな」 


 RPGに於いて魔法は必要不可欠。回復魔法なんかが最たる例だ。

 特に僕のステータスは魔力に特化しているので、魔法の必要性は火を見るより明らかだ。

 でも、今僕が習得できるのはたった二つ。


「つってもよー、俺なんか習得できんの生活魔法だけだぜ。地味過ぎるだろ。俺は火とか氷とか出したいんだよ」


「あれ、『キュア』っていうのなかった?」


 僕が習得できる魔法には『生活魔法』と『キュア』があった。


「ん? ねーよ?」


 おかしいな。何が違うのだろうか。


「あれ、じゃあスキルは? 僕は『鑑定』だけだったんだけど」


「あ? 俺は『殴打』っていうのもあったんだが」


 ……随分と物騒な名前だ。

 でも、これでなんとなく分かった気がする。


「もしかして……。ちょっと検索してみよう」


 僕は再び『勇者の窓』を使い、今度はスキルの検索を行う。 


 ―――――――――――――――

 ◇1件の該当


 ・殴打 

  取得条件:筋力パラメータが20以上


 【効果】

  物理的な力により敵を攻撃する。威力は筋力と体力に依存する。素手でも使用可能

 ―――――――――――――――


 僕の筋力パラメータ、6。もやしっ子か!

 道理で僕が取得できないわけだ。


「どうだった?」


 慎太が聞いてくる。

 それに僕は薄い笑みを浮かべて答える。


「脳筋じゃないと取れない仕様だった」


「『殴打』すんぞ?」


「筋肉ゴリラじゃないと取れない仕様でした」


「変わってねーよ」


 言い換えただけだしね。

 っていうか……。


「もう取ってたんだね」


「流石に攻撃できねーんじゃ話しにならねーだろ?」


 そりゃそうだ。まあ、僕は攻撃できないわけだけど。


「恭平は攻撃できないっぽいから僧侶で固定な」


「えー、僧侶ってオレンジのタイツに十字の服を着る職業でしょ」


 すると慎太は一瞬考え込み、爽やかな笑顔を浮かべ、


「恭平だとキモいから却下!」


「君には絶対に回復魔法はかけない」


 瀕死になってもかけてやるもんか。


「兎に角、『キュア』取ってないなら取った方がいいと思うぞ。回復魔法は必須だからな」


「そうだね」


 僕はスキルポイントを1消費し『キュア』を習得する。これで残りのスキルポイントは3だ。


「残りのスキルポイントは取っておいた方がいいかな。職業貰えば取得できるもの増えるだろうし」


「あ、じゃあ『殴打』取らなかった方がよかったか。あー畜生、しくった」


「レベルが上がれば貰えるみたいだから、序盤のうちは気にしなくてもいいんじゃないかな」


 と、僕は読んでいたヘルプを消し意識を前に集中し慎太の背中を押す。


「ほら、次でしょ。職業貰ってきなよ」


「お、もう俺の番か。はえーな」


 気付いたら前方にあった列は殆んど消えており、先頭は慎太と僕になっていた。

 初異世界に興奮している所為か、時間が経つのが早く感じる。


「じゃあ、行ってくるわ」


 テンションが上がっているのは僕だけではないようで、慎太は妙に浮き足立った様子で神殿の中へと入って行った。


 それから数分後。

 何時になく呆然とした様子の慎太と入れ違いに僕は神殿の中へと踏み込んだ。

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