25 魔宮
全員にドロップ品の確認をさせ、出てきた武器を対応するスキルを持つ者に持たせる。
経験値は大分分散されてしまったようでレベルの低いクラスメイト勢が数レベル上がったのみだった。
班は分けないことになった。少なくとも、全員がレベル10に達するまではまとまって行動することになる。
そして、班とは別の枠組みで先遣隊をつくった。素早さに長けた者に任命し情報収集を主な任務とする。
今のままでは高レベルの魔物が複数出てきたら勝ち目はない。一匹でいるところを不意打ちで叩くしかない。我ながら卑怯だが、これしか方法はない。
使いに出した先遣隊の一員が帰ってきた。
「報告。魔物はすべて30レベルは越えています。中には40レベルの個体もいます」
どうやら迷宮内の魔物は軒並みレベルが上がったり進化しているようだった。
先遣隊には『鑑定【初級】』を取らせてあるので間違いはない。
「迷宮の構造の変化、魔物の進化。一体どうなってんだよ」
僕は何かヒントになるものがないかと『勇者の窓』を使って検索する。
これだけの急激の変化。きっとなんらかの現象に違いない。
目がひとつの項目に止まる。
自然と冷や汗が額を伝った。
「慎太……僕らはひとつ勘違いをしていた」
「どういうことだよ?」
怪訝そうな目をするが、今はそれすら気にならなかった。
「人や魔物の死体が急に消えたりする、普通?」
「いや、そういうものなんじゃねーの?」
「普通地下にある迷宮が明るいわけないよね?」
「擬似的な太陽があるじゃねーか」
そうだ。慎太の言う通りだ。僕らはそれを当たり前のものとして認識してしまっていたんだ。
「この世界でも、死体は消えない。迷宮に太陽はない」
「え?」
「ここが特別なんだ。数あるダンジョンの中で人の手が加わった、難易度の高いダンジョン。それが、ここ……」
「魔宮なんだよ」
伽藍堂な空間に僕の声がいやに響いた。
魔宮、それは数多ある迷宮の中でも次元を画すほど強力無比なダンジョンを指す。
高難度の迷宮に伝説級の魔法を施すことで生まれる『生きる迷宮』、死そのもの。
その名のとおり魔宮とは生きた迷宮。魔宮が成長すればするほど魔物は強くなり数も多くなる。
では、どうやって成長するのか。それは、『人を喰らう』こと。
魔宮で命を落した者の死体を喰らうことで魔宮は成長する。
そして、散華していった探索者の遺留品を新たなエサを釣るために精練し宝箱に隠す。
故に、魔宮内に秘匿された物には値が付けられないほどの価値がある。魔宮から生還したものに莫大な富と力が約束される所以。
だが、人を喰らい過ぎた魔宮には手がつけられない。
例えば――第一層から魔物のレベルが40を越える魔宮など。
この世界における熟練された兵士でもレベルは30を越えるかどうか。魔宮の恐ろしさが手に取るように分かる対比だ。
そして昨日、17人が魔宮に餌付けされた。
「この魔宮に何人が犠牲になったかは分からない。でも、昨日僕たちが17人を喰わせてしまったのは確かだ。これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない」
仲間が減れば減るほど強化されていく迷宮。不利に追い討ちを掛ける最悪な仕組み。
ただでさえ僕らの残された人数は26人。魔宮全層の攻略は不可能と見ていい。
残された生存の道は、脱獄。これしかない。
「ひとまずは、クラスメイト全員のレベルの底上げを図ろう」
「だが、どうやって? 一体の魔物を狩るにも程があるだろ」
慎太の言うことも最もだ。いつこの場所が察知され大群に襲われるかなんて分かったもんじゃない。
「一体ずつ魔物をおびき寄せる。戦闘音が察知されると面倒だから瞬殺が条件になる。そして、メンバー全員のレベルが10以上になったら班を二つに分け、指定された場所でレベリングを継続する」
慎太のレベルは15。勇者はステータスの上がり具合が通常の2倍なので、レベルが15あれば通常のレベル30に匹敵する。最も、慎太は光の勇者だから実際、比肩するレベルは35くらいと思えるけど。
勇者チート乙。
レベルが10あればレベル20ということになるので、格上相手でも数で押すことができるだろう。飽く迄も目安が10なのであって、レベルが上がりやすい者は11、12までは行くと思うし。
「付近に開けた場所が二つ。ここより大きいのがひとつ、狭いものの戦闘するには十分なのがひとつ。いずれも分岐しており万が一の場合は撤退できる。こんなところでいいだろうか」
と、先遣隊の隊長である達賀直樹くんが報告してくれている。
先遣隊には『鑑定』の他にも『隠遁』を習得させてあるのでヘマしない限り攻撃される心配はない。知能が高かったり『気配感知』などのスキルをもっていたら話は別だが。
兎に角、全員のレベルが10を越えたら先遣隊が発見した場所でレベリングを再開することになる。
瞬殺することに関しては簡単だ。
「一匹連れてきた! ダークウルフだ!」
慎太が魔物を一体引き連れてくる。
魔物が見えた瞬間、分岐路の脇で待機していた前衛がスキルを発動して先制。そして、怯んだ隙に後衛が一斉に魔法を発動。ダメージを喰らい更に怯んだ魔物に前衛がスキルを……以下連鎖していく。
先の戦闘とは違い、魔物がどこから来るか分かっていれば待ち伏せすることもできる。出現と同時にファーストアタックを仕掛ければ後はこっちのものだ。
最早完全に作業と化している。
総勢22名のクラスメイト(僕ら三人と姫を除く)が魔物を袋叩きにする。魔物は僅か数十秒で撃沈した。
ドロップを確認し、武器は対応するスキルを持つ者へ……。これを暫く繰り返すと皆のレベルが10を越えた。




