24 異変
「起きろ、朝だ」
翌朝、将軍が数名の部下を引き連れてやってきた。
疲れていたため熟睡していた。
それにしても、僕は昨日将軍のことを神官の一人だと思ってたんだよね……。なんで将軍ほどの人が監視みたいな真似をしなくちゃいけないのだろうか。
「まったく、餓鬼のお守りは疲れるな。お前たちが勇者でなければ俺が駆り出されることもなかったろうに」
将軍に命令できるとなると、やはり皇帝か。いざというとき勇者を抑える防波堤のような役目を担っているのだろう。
将軍は牢を開けると昨夜と同じクソまずい飯を出させた。僕らクラスメイト総勢は是非もなく音を殺して朝食を終える。流石に今回ばかりは姫も食べざるを得ないようだった。
将軍に牽引されてホールに出る。そこから迷宮のある岐路へと。
「昨日と同じだ。夕方まで出てくるな」
その言葉にクラスメイトの半数以上が震え始める。
災禍の種を撒く者がないとこんなものか。
「い、嫌だ……。もうやめて!」
「し、死にたくない。死にたくない!」
「あ、ああぁあぁぁ……」
「黙れ『聖呪』」
喚くクラスメイトを聖なる呪いで一喝。昨日の迷宮帰りに慎太に向けられたものほど強くはないが、だが決して弱いというわけでもない。
クラスメイトたちは一様にして膝を屈し悄然と項垂れた。
他のクラスメイトの顔も蒼白になり、誰もが反骨心を砕かれた。
「分かったか。無駄な口を叩く暇があったら一匹でも多くの魔物を狩れ」
こうして僕らは再び迷宮に潜る。
「ないとは思いたいけど、死亡者が出たら死体は回収するようにだったね」
「一体なんでだろうな。まあ、回収せざるを得ないんだけどな」
迷宮内に到着する。
入口から見えた迷宮の様子になんとなく違和感を覚えた。
「あれ、なんか変な感じがするよ?」
皆月さんが違和感を訴える。それは僕と慎太も同じだった。
だが、確証がない以上は予定通りに進む。
最初の分岐路に立つ。
「ここの先に小部屋があったから、そこで班を二つ編成しよう」
僕の記憶によれば右折すれば玄室が見えるはずだ。
集団を先導していくが、部屋など見つからず袋小路に突き当たった。
あれ、おかしいな……?
「左折だったかな?」
「いや、俺の記憶でも右折だった。だが、念の為に左にも行ってみよう」
今度は左折。すると、少し開けた場所に出た。
そこから何通りか分岐路が生じている。
おかしい。昨日はこんな場所なかったはずだ。
「恭平、迷宮って内部構造変わんねぇはずだよな?」
「うん、ヘルプによればそのはずだよ」
激しく混乱を覚える。
昨日暗記したルートが悉く消失している。
これは一体どういうことだ……?
念の為に、二つに分担するはずだったクラスメイトをまとめて移動させることにする。
姫は僕が監視している。
実質戦力になり得るのは慎太と皆月さんだけだろう。
「グルルル……」
「モンスターか」
正面の分岐路から一匹、モンスターが現れた。
狼ってことは『ワイルドウルフ』……? いや、それにしては体毛が黒過ぎる。
「新しいモンスターだよ、どうする柊くん!?」
皆月さんが指示を仰ぐ。
既に『鑑定』を発動させていた僕は戦慄する。
鑑定に出ていたのは――
―――――――――――――――
ダークウルフ レベル38
魔物
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到底敵いそうにない化物のステータスだった。
「レベル、38……だと!?」
嘘だろ。昨日出てきた魔物の平均レベルは20前後。あのコボルト・ソルジャーですら27。迷宮は階層が深くなれば魔物も強くなるが、階層は1階のままだ。
明らかに何かがおかしい。
「恭平!」
「柊くん! 指示を!」
「あ、ああ!」
そうだ。呆然となんてしていられない。悪戯にみんなを怖がらせてはいけない。僕はもうそういう立場にあるのだから。
監視対象である姫に命令する。
「恐慌してる者に『災禍の種を撒く者』を。指揮権はすべて僕に移譲して」
「わ、分かったわ」
「戦士職のものは慎太について前線へ! 横二列で並べ! 魔法職のものは後衛、こっちに来い! 山なりに魔法を放て! 3秒後に詠唱開始!」
「柊くん、私は?」
「皆月さんはサポート。火力が足りなければ後衛、劣勢になったら前衛に入ってみんなを守って。自己判断だ、できるよね?」
「もちろん!」
そして皆命令通りの配置につく。
大半はレベルが低いので一撃でももらえば死に至るだろう。なので、基本慎太を盾にする戦法をとる。そして隙を見て僕が『影縛り(カース・バインド)』で敵を固定する。あとは数で押し切れる。
そこまでもっていけば勝ちだ。
姫を監視しつつ詠唱する。魔物も、姫にも注意を割かないといけない。
詠唱が遅れるのは必然だ。
「『呪痺』!」
なんとか完成させた魔法を放つもダークウルフに避けられる。
だが、それは計算通り。
死角から現れた慎太が『一閃』を放つ。
「グルゥフ!」
「『フレア』!」
皆月さんが追撃を放つ。それに合わせて後衛から数々の魔法が炸裂する。
しかしその悉くをダークウルフは回避、或いは突き抜けていく。
あまりの素早さに前衛が翻弄され、辛うじて慎太が喰らいつく。
狙いが定まらず『影縛り』を使えない。
「厄介な……」
スタミナを消費した前衛を二列目の者と入れ替える。慎太にも疲れの色が見え始めた。
一匹といえども格上相手はキツイ。
こんなのが複数出てきたら潰走は必至だ。
「『一閃』!」
やがて慎太の一撃が命中しダークウルフが数瞬怯む。
この隙を逃すほど僕は甘くない。
「『影縛り』!」
詠唱済みの魔法を放つ。コボルト・ソルジャーの時もそうだったようにダークウルフは困惑し力ずくで束縛から脱出しようとする。
「今だ! みんな、叩け!」
ダークウルフに向かって前衛が一斉に群がりスキルを乱舞する。人だかりの隙間から色とりどりの明色が漏れてくる。
なんだかシュールだ。
「汚くても勝ちは勝ちだよ」
「柊くんって本当柊くんだよね」
かくして僕らは格上相手に勝利を修めたのだった。




