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23 後悔

 数時間後、牢の中。

 僕と皆月さんの連投キュアによって慎太はすっかり元の調子を取り戻していた。

 だが、空気は重い。三人の間ではなく、牢獄全体の空気が重い。

 敬愛していた教師の死を知ればこうなるか。


「先生が、あの先生が死ぬはずはない」


「そ、そうだよ。先生が死んでるはずが」


 何人かの生徒が引きつった笑みを浮かべて戯言を繰り返すが、その度に僕はそっぽを向いて


「死んだよ」


 と現実を突きつけることを繰り返していた。


「淡い期待なんてもたない方がいい。いざ現実に直面したら心が折れるよ」


「そ、そんな言い方……」


 しつこいな。まるで初期の皆月さんみたいだ。


「柊くんの言ってることは正しい。拷問し終わったら生かすも殺すもあちら次第。見せしめに殺されたのよ」


「あ、愛莉ちゃんまで……!」


「もう、やめてくれないか。みんな辛いんだ」


 僕の一言に女の子はついに口を閉ざした。

 静謐だけが獄内を漂う。


 みんな思い思いの場所に寝転がって思案げに呻いていた。

 こんな硬い床じゃ寝れそうにないな。


 夕飯も出るには出たが最後に食べたものに比べればゴミに等しい。というか、灰色な見た目からして食う気にすらならなかった。……食べざるを得なかったけど。

 

 グギュルゥゥ……。

 姫のお腹が鳴いた。彼女は恥ずかしそうに身を捩る。


 姫だけが夕飯を食べなかった。きっと狭量なプライドがアレを食すことを許さなかったのだろう。

 なんだか落ち着かないな。


「ねえ、柊くん」


「何、皆月さん」


「四条くんはグライン将軍とかいう人に宝箱から得たアイテムや武器については話さなかったけど、大丈夫なのかな?」


「搾取されることを恐れたんだろうけど。そうだね、皆月さんの危惧する通りこのまま隠し通せるかどうかは怪しいね」


「そっか……」


 落胆する皆月さんに僕は朗報を告げる。


「でも、皆月さんは『召喚』と『契約』ができたら関係ないよ。武器なんて必要ないでしょ」


 皆月さんはパァっと顔を輝かせ、握りこぶしをつくって頷いた。


「うん、そうだよね。私が強くなればこれ以上みんなを死なせずに済む……」


「まだそれ言うの?」


「私の行動源力だよ」


 僕はふと視線を脇に逸らす。

 皆月さんはみんなを守るために強くなりたいと言った。

 それは、彼も同じだった。


「俺が陰謀に気付いていれば……。俺がもっと強ければ……クソ神官を倒せてたらッ!」


 それは無理にもほどがある。そんなことができるのは未来予知者くらいだろう。


 それに、僕らはどう足掻いてもあの状況下ではレベル1だった。無能と同等。

 不可能を嘆いても仕方ないのだ。


「慎太、過ぎたことを考えても仕方ないよ」


 僕は肩をポンと叩き撫で声で言った。すると、慎太は僕の手を払い除け鋭利な双眸で睨んできた。


「恭平、お前はなんでそんな落ち着いていられんだよ?」


 僕が……落ち着いている?


「既に17人死んでいた。先生の死だけを悲しむようなら君はそれまでの17人を冒涜することになる」


「先生だけじゃねぇよ! そいつら全員ひっくるめてだ! 改めて考えて実感したんだ。俺らが無力なばかりに死なせちまったって!」


 慎太の叫び声がクラスメイトの視線を集める。

 それは慎太に限らず誰もが思っていたことだった。

 だが、それはかなわなかったことを理解している。慎太と違いはその一点のみ。


「でも、どうしようもなかった」


「どうしようもなかった……?」


 慎太が真顔に戻り、次いで肩を震わせて僕の胸ぐらを掴み上げた。

 息が苦しい。


「テメェは悲しくねえのかよ!? 自分を不甲斐なく思わねぇのかよ!?」


 僕がいつそんなこと言った。

 僕はそんなことを言った覚えはない。

 僕は……


「勝手に愁嘆場に酔うなよ、このクソ英雄主義(ヒロイズム)!」


「なっ!?」


「僕が悲しくないだって? 自分を不甲斐なく思っていないだって? そりゃ悲しいさ、不甲斐ないさ! でも、そう思ったところで現実は変わらないだろ!? そうやってウジウジしてれば何か変わるって言うのかよ!?」


「――ッ!」


 慎太が面食らい腕を下ろす。僕は彼の手を払って正眼に見据える。

 オロオロしていた皆月さんが間に割って入って何か言おうとする。


「柊くんの言うと……」


「ああ、そんぐれぇわかってるよ畜生。ったく、お前は恭平肯定し過ぎなんだよ」  


 慎太は一回深く息を吸って吐いてから向き直る。

 その顔には先程の焦燥感や悲嘆は微塵も残っていなかった。

 僕はゆっくりと口を開く。


「今はただ、耐えるしかない。ここを抜け出せるくらい強く」


 でもまあ……、


「慎太には出世コースがあるみたいだけどね」


 将軍の言葉が脳裏に浮かぶ。

 


『悔しければもっと強くなれ。俺と同じ高みに来い。お前にはその可能性がある』



 これはつまり登用するということじゃないだろうか。

 『光の勇者』の特権かな。


「心配しなくても大丈夫だ、俺はあっち側につく気はねえ」


「そっか、なら安心だ」


 僕は手を突き出す。


「明日からも頼むよ、慎太」


 慎太は僕の手を見て少しはにかむと、


「ああ、よろしく頼む」


 僕の手をガッチリと掴んだのだった。


「あ、あの私は……?」


「よし、じゃあ寝ようか」


「寝なきゃ体力回復しねえしな」


「あ、あの私とあくしゅ……」


「「じゃ、おやすみー」」 


 最後まで皆月さんが何か言ってたような気がするけどきっと幻聴だったと思う。


 

 この時僕らはまだ知る由もなかった。


 真のダンジョン攻略はこれからだということに――

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