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22 先生の行方

「それじゃあ、今度こそ戻ろうか」


 憔悴しきった皆月さんを脇目に僕は言った。

 クラスメイトたちの負傷も治癒済みだ。


 行きに下りた階段を上がると入口で待っていたらしい男――慎太に制裁を下した奴だ――が近寄ってきた。


「戦果を報告しろ」


 男は居丈高にそう告げるとふてぶてしく腕を組んで返答を待つ。

 いきなりのことで動揺するクラスメイトの波を割って慎太が前に出る。


「今日の戦果は迷宮1階の探索、生存者のレベルの上昇及び戦闘方法の会得。死傷者は17名。以上だ」


「……死傷者の数は報告しなくてもいい。それより、死傷者は回収したのか?」


「いや、気付いたらなくなっていた。死傷者については報告をしなくてもいいんじゃないのか?」 


「……明日からは回収しておくようにしておけ」


 男はそう言うなり会話を打ち切り立ち去ろうとするが、思い出したように振り返る。


「そういえば、お前が『光の勇者』だったな。以後、報告はお前がしろ。それと、明日までにはきちんとした口の利き方を覚えておけ」


 男は今度は振り返ることなく、手を挙げて付近の衛兵に命じる。


「そいつらを連れていけ」


『ハッ! グライン将軍の仰せのままに!』


 呪いによって抵抗もままならないまま僕たちは元の牢へと連行されていく。

 ……この機会を逃してはいけない。


 男が本当に将軍ならば、榛先生についても何か知っているはずだ。榛先生が生きているのか、既に息絶えているのか、僕らは真偽を確かめなくてはならない。

 僕は次第に小さくなっていく背中に向かって声を荒げた。


「待ってください!」


「…………」


 衛兵の制止の声を振り切って僕は尋ねる。


「僕らの先生を知りませんか!? この城に一緒に来ていたんです!」


 男……グライン将軍は顔だけこちらに向け、冷徹な目で僕を見据えて一言。


「あの女なら死んだ」


「嘘だ……」


 クラスメイトの一人が呟いた。

 思い出されるのはいつも浮かべていた優しい笑顔。向日葵のような陽気さと慈愛に満ちた抱擁感を兼ね備えた僕らの担任。


 死んだ。一言で終わりだ。嘘だと信じたい。

 わかっていたはいたが、間接的に聞くと疑念を拭いきれない。人間都合のいいことばかり信じたいものだが、男には嘘をつく理由がない。

 何の疑いもなく事実なのだろう。


「間違いない、俺が看取った」


 グラインは厳かに腕組みする。


「……死因は何ですか?」


「斬首だ。度重なる拷問魔法に耐え切れずに発狂したから殺した」


「そう、ですか」


「ふざけんなあぁぁあぁぁぁ!!」


 慎太が憤激する。

 その気持ちはこの場にいるクラスメイト全員が痛いほど理解できた。

 悲憤に駆られた慎太は血走った目を剥きだして吠える。


「いきなり召喚しやがって用が済んだらポイってか!? テメェら人の命を何だと思ってやがる!」


 今にも噛み付きそうな勢いでまくし立てた慎太は反目。グラインは歯牙にもかけない態度で素っ気なく答える。


「価値のない有象無象は路傍の石にも劣る。あの女の命など知れたものだ」


「テメエェェ!!」


「『聖呪』」


 グラインが手を翳して粛々と呟くと、黒い稲妻のようなものが慎太の首輪から発生し瞬く間に神経という神経を燃やした。


「ぐわああぁぁあぁぁぁ!! がっ、ぐっ、アアァァァアああァァ!!!」


 ゴパァッ! と血だまりを吐き出す。

 慎太の瞳も虚ろなものへと変わる。

 生きているのがやっとの状態だ。


 グラインは目を眇めるとホール中に響くような張りのある声で慎太に告げた。


「悔しければもっと強くなれ。俺と同じ高みに来い。お前にはその可能性がある」


 そして最後にチラッと僕を見て、


「お前は俺の嫌いなタイプだ。反吐が出る」


「お褒め頂きありがとうございます」


 カツカツと靴音を響かせてその場を去った。

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