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21 禁句

 道中疑問に思ったことを姫に聞いてみた。


「そういえば、小城さんのユニークスキルはなんていうの?」


 姫はバツが悪そうに顔を顰めて呟いた。


「……『災禍の種を撒く者』(アジテーター)よ」


 まんまじゃないか。

 迷宮の入口に到達した僕らは混乱するクラスメイト勢を見回す。

 姫のユニークスキル『災禍の種を撒く者』(アジテーター)の効果の影響だ。


 操作されていた間の記憶はあるようで、皆一様に姫を胡乱げに睨めつけている。これで姫は一度失った信頼を再度失ったことになる。


 僕たちにとっては都合がいい。姫の信用が失墜すればするほど僕たちに依存せざるを得なくなるからだ。


 僕はみんなに姫と取引したこと、そしてこれからの戦闘で足を引っ張るものにはやむを得ず『災禍の種を撒く者』(アジテーター)を使うことを宣言した。反論は少なくなかったが、足さえ引っ張らなければいいとプライドを刺激すると途端におとなしくなった。チョロいチョロい。


「ふ、ふぇぇ。柊くんが悪そうな顔をしてるよ~」


「おい皆月。あれは『悪そう』じゃなくて『悪い』奴の顔だ」


「はいそこうるさ~い。人が喋ってるときは喋らないって教わらなかったのかな?」


「悪い人が何か言ってるよ?」


「ああ、悪い人が何か言ってるな」    


 なんだか全校集会とかで演壇に上がって演説する人の気持ちが痛いほど理解できた。


 閑話休題(それは置いといて)


 みんなの視線を一身に受ける僕はここで最も懸念していた事項を話す。

 それは物語に於いて常に闇に葬られていた禁断のワード。


 この世にカタストロフィーを齎しかねないほどの存在。身上必須の行為であり、このままでは酸鼻な結末を迎えることすら有り得る。


 僕はバッと挙手して注目を集め、大声で告げた。


「トイレ行きたい人、手挙げて~~!」


『え……?』 


 空気が絶対零度の氷点下まで落下。唖然とした表情が容易に見て取れる。

 だが、次第にその表情が共通のものに変わっていく。


「ちょっ、もうヤバイ!」「そ、そろそろ限界!」「やばいやばいやばい」「どこ、トイレどこ!?」


 それは焦り。

 僕らが異世界に来てどれくらいの時間が経ったのかは分からないが、これだけは言える。


 彼らは一度もトイレに行ってない。


 生存本能が生理的欲求に打ち勝ったのだろうけど、緊張の解けた今、彼らを今世紀最大のビッグウェイブが襲う。


「柊くんも行ってないよね?」


 皆月さんがなんだか縋るような目で見てきた。


 …………。


「皆月さん、安らかに眠れ」 


「いつの間に!? 四条くんは?」


「お前の骨は拾ってやる」


「ふ、ふぇぇ!?」 


 モンスターが徘徊するこの迷宮内ではおちおちと休むことさえできない。

 そもそも皆月さんは女性だ。僕たちが着いていくことは倫理規定に違反する。


 ……こんな状況でもなければ、の話しだけど!


「仕方ない。僕たちが見ていてあげるから安心して花を摘むといい」


「み、見ていてあげるから!? 見せるわけないよ!?」


「あれぇ? 僕は『モンスターを見ていてあげる』って言ったんだけどなぁ? 皆月さんは何を勘違いしたのかなぁ?」


「うっ!」


 言葉に詰まった皆月さんの横で、慎太が壊れたようにしきりにガッツポーズを繰り返す。


「YES! YES! YES!」


「し、四条くん!? 柊くん、四条くんも『モンスター』を見ていてくれるんだよね!?」


「…………もちろん!」


「今の間は!?」


「YES! YES! 女子高生のほうにょ――



 ✿しばらくお待ちください✿



 壊れた慎太が本物の倫理規定をぶち破りそうになったので鳩尾に一発入れて黙らせた。 

 事態は切実だ。


 トイレに行きたいのは皆月さんだけではない。

 迷宮内には魔物が徘徊しているので、行くとなると必然的に護衛が必要になる。これだけの人数となると高レベルの護衛が複数人必要になるだろう。

 三人くらいで丁度いいと思われる。

 と、いうわけで。


「皆月さん、事が済むまで我慢だよ!」


「!?」


 この日、皆月さんはかつてないほどの活躍ぶりを見せた。

 人間為せば成る。

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