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20 取引

24 裁きを改稿したものです。

他にも、11、12、15話を改稿しました。

活動報告に記載した点を修正しました。

「ハァハァ……。柊くん、姫はどうする?」


 皆月さんが鋭い目つきで僕を見上げる。その瞳は、言外に「殺せと命じれば殺せる」と語っていた。

 ああ、優しい皆月さんは何処へ……。


「やっぱ殺しとくか?」


 慎太が剣を取り出して姫をつつく。姫は震えながらしきりに何かを呟いていた。

 ……二人は騙せても僕は騙せないよ。


『影縛り』(カース・バインド)!」


 先に詠唱を完成させた僕は漆黒の魔手で姫の口を塞いだ。


「んー、んー!?」


「魔法なんか使わせるわけないでしょ?」


 まったく、油断も隙もない。 

 どうする……殺すか?

 やっぱりそうするしかないのか?


 でも、それは早計ではないだろうか。それに姫のユニークスキルは貴重だ。発動条件は不明だが、一種の洗脳に近いスキルは脱獄に役立つかもしれない。

 おまけに、姫を殺さずに自陣に引き込めばクラスメイトも付いてくる。


 …………。


 慎太と皆月さんが事態の行方を見守る中、僕は決然と口を開いた。


「小城さん、僕と取引しない?」


 僕の言葉に姫だけでなく、その脇の二人も驚いた。


「恭平、どういうことだよ!? まさか情が移ったとでも言うんじゃねぇだろうな!?」 


「柊くん、彼女は危険だよ。私は殺すべきだと思う」


「二人共、よく考えてみてよ」 


 彼女のユニークスキルは強い。

 脱獄だけでなく、恐怖心で戦えないクラスメイトの恐怖を取り除くことだってできるかもしれない。彼女を仲間にできれば得られるメリットは多い。クラスメイトも付いてくるしね。

 彼女のスキルは有用性がある。僕は二人を昏々と諭す。


「まあ、そういうことならいいかもしれねーな。23人が従順になるんなら迷宮の攻略も楽になるだろ」 


「私はそれでも反対だな。別に姫を殺しても22人残るんだよ? 残った人達を説得すればいいと思う」


「でもよぉ、迷宮攻略すんなら一人でも惜しいんだぜ? それに、当初の問題はこいつが味方殺すかもってことだったろ? 17人殺したのは違いねえけど、残った奴らは『勇者の窓』のことも知ってるしレベルも上がってる。お前はこいつにクラスメイト殺させた責任取らせたいだけなんじゃねえのか?」


「でも! 姫は何をするか分からないんだよ!? もしユニークスキルを使って反乱でも起こされたらどうするの!?」


「その時は殺すしかないよ」 


 僕は二人の会話に割って入って、冷静に言った。

 辺りが水を打ったように静かになる。


「仕方ないけど、姫だけを殺せば問題ない。それに例え僕ら三人が殺されたとしても、本気で抵抗すれば無視できない量の死者が出る。そんな状態じゃ迷宮攻略なんて不可能だ。この首輪のご主人様の怒りを買って死ぬだろうね」


 実際には死にはしないだろうけど、酷い目に遭うのは間違いない。

 二の句を継がせぬ勢いでまくし立てる。


「もちろん姫には常時監視を付ける。三人で交代しながらね。姫にクラスメイトたちが僕たちに従うように命令させ、残った二人で迷宮を攻略する。姫のレベルは上げさせない。その代わり、監視役が姫を守る。迷宮の深層に行けば行くほど姫は監視役に依存せざるを得なくなる。こんなところでどうだろう?」


 あまり聞こえが良い案ではないけど、現状これ以上のものは思いつかない。


 二人は暫く逡巡した様子を見せたが、慎太はすぐさま了承した。ただ、皆月さんは何か引っかかるところがあるようだった。


「姫のユニークスキルに命令権の移譲はあるの?」


 そう言って姫の方を見る。姫は言うか言わまいか迷っている様子だ。できないと言えば言いなりにならなくて済むわけだしね。


「まあ、できなかったら取引は成り立たないね」


 魔法を解除して姫を見る。


「で、できるわ! なんなら今ここで証明するわよ! そこのお前、柊の命令に従いなさい!」


 姫は慌てた様子で近くに寝転がっていた男子を指差した。男子は気だるそうに立ち上がると頷いた。

 じゃあ、早速……。


「僕のご主人様は天才ですと言え」


「僕のご主人様は天才です」


 どうやら姫の言うことは本当のようだった。


「っていうか、言わせたのが自画自賛かよ」


「何を言う。彼は事実を言っただけだよ?」 


 僕は惚けた後に男子を振り返って再び命令する。


「小城百合を殴れ」


「なっ!?」


 姫が泡を食って身構える。

 だが、男子は微動だにしなかった。


「……従えません」


 やっぱり命令権は移譲されても姫の方が上みたいだ。

 スキルの持ち主だから当然か。

 まあ、これでも十分使えそうだからいいか。

 ……もちろん、殴ろうとしたら止めてたよ?


「皆月さん、他に異論はない?」


「うん、もうないよ」


 それ以上異論はなかった。

 姫に向き直る。


「取引なんだけど……もうわかるよね。端的に言うと、僕らについて来てほしい」


「……断ったら?」


「残念だけど、その時は……」


 慎太が静かに剣を構える。姫が断り次第首を斬るつもりでいるのだろう。


「初めから選択肢なんてないじゃない」


「自業自得だと思って」


「……分かったわ」


 取引成立。汚い手だけど、これがきっと最良なんだと思う。

 姫も死なないし、僕らも得をする。これ以上を望むのは贅沢だ。


 姫にユニークスキルを解除してもらい、我に返ったクラスメイトたちを引き連れて迷宮の入口へと向かう。

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