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勇者な僕らは異世界牢獄から這い上がる  作者: 結城紅
第1章 異世界召喚編
2/89

02 ありきたりな異世界事情

「ん……」


 暗転した意識から目が覚め、ぼんやりとした光が視界を埋め尽くす。

 視界が広がり明瞭になると同時に、周囲の喧騒が耳に届いた。

 見れば、白を基調にした服を纏った男たちが口々に何かを喚いていた。


「おお、成功した!」


「伝説の再来だ!」 


 彼らが発している言葉は恐らく日本語じゃない。でも、何故か僕はそれを理解することができた。


「伝説? っていうか、ここはどこだ?」


 霧が晴れるようにぼんやりとした意識が覚醒してくると、途端に自分の置かれた不可解な状況に気付いた。 

 慌てて辺りを見回す。


 まず最初に目に入ったのは、クラスメイトたち。どうやら彼らもここに来てしまったらしい。

 次に、この部屋全体。僕らが居る部屋は正方形状の一室で、部屋の四隅には篝火を揺らす燭台がある。この部屋の唯一の光源だ。


 そして、今僕らが座している場所。部屋、というかこの建物全体が石造りのようなのだが、僕らが座っている場所だけ他の床と差異があった。石畳であるのは他の床と変わらないのだが、ここだけ魔法陣のようなものが何かの粉末で描かれていた。


「え、なんだよここ!?」 


 クラスメイトの一人が驚愕の声を上げる。

 彼の言う通り、現在僕らは自分たちの居場所を把握していない。

 分かるのは精々ここが日本じゃない程度のことだ。

 周囲の白い服の男たち――十数人はいる――は、相変わらず奇声を上げている。

 ……拉致られたか?


「おお、勇者様!」


「おっさん頭イカれてんじゃねぇの?」


 慎太が辛辣な言葉を吐く。

 気持ちは分からないでもない。僕もおちょくられてるようにしか思えなかった。


 慎太の言葉にショックを受けたのか、男たちは一様に沈み込む。

 小学生並みのメンタルの弱さだな。


「えー、すいません。ここはどこでしょうか?」


 そんな状況を打開したのは担任の榛先生だった。彼女は困惑しつつも生徒の模範であるべき責務を果たそうと問いかける。

 姫のイジメを何とかしようと最後まで諦めなかった、故に生徒からの信頼がとても厚い教師。この場でみんなを取りまとめるには適正な人物だ。先生の言葉に、一番高そうなローブを纏った30くらいの男が一歩前に出た。彼は恭しく傅き頭を垂れる。 


「ここは貴方がたのいた世界とは異なる世界。女神が造ったとされる世界で御座います」


「おい、それって異世界ってことかよ」 


 慎太が即座に切り返す。

 確かに、この男の言葉が本当ならここは異世界ということになる。

 俄かに信じ難い。こんなのどうせ嘘に決まってる。

 しかし、男は頷いた。


「それっておっさん達がふざけてるだけなんじゃねーのか? 異世界なんてありえるわけねーだろ」


 全くもって同意見だ。異世界召喚なんて現実に起こり得るはずがない。これはどうみても危ないおじさん達が黒魔術ごっこをやってるようにしか見えない。 

 続けて慎太が反証を求める。


「そうだな、異世界だっていうんなら魔法くらい見せてみろよ」


「そうですね……。すいません、証拠を見せてくれませんか?」


 それは先生も同じようだった。証拠がないと確信しながらも問う。

 これでくだらない茶番が終わるのか。

 そう思っていると、男は頭上に手を翳し何やらブツブツ唱え始めた。 


「『集え火霊。火魔の柱。我が手に生命の炎を。我が魔を以て火術とする』」


 なんかイタイ感じの言葉を呟き終えると、信じ難いことに男の手の平から拳大の炎が出現した。


「おい、マジかよ……」


 思わず呻きたくなるのも道理だ。 男がぐっと手を握ると炎が消えた。


「これでよろしいでしょうか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 まさか本当に証拠を見せつけられるとは思わなかった。先生も目の前に起きた出来事に呆然としている。

 ……証拠があるってことは、男の言葉は正しいということ。

 ここが異世界っていうことだ。

 じゃあ、なんで僕らはここに居るんだ?


「えーっと、じゃあ僕らがここにいるのは……?」


 疑問に耐え兼ねて、挙手して尋ねた。男の顔がこちらに向き、少し思案し答えた。

 

「古の書に記された召喚の儀式を行い、僭越ながら我々が召喚させていただきました」


「なんで?」


 そう尋ねると、その場にいたローブの男達が一斉に土下座。異口同音に輪唱した。


『勇者様方! どうか私達の世界を魔の手からお救い下さい!』


 見覚えがあるようなフレーズに嫌な予感を覚える。

 まさか、まさかとは思うが……。


「魔王を倒すまで元の世界に帰れないとか?」


「なっ!? さすが勇者様! 既に把握しておられるとは。仰る通りで御座います」   


 マジかよ……。 

 でも、別に僕は元の世界に帰りたいとは思わない。あのくだらない日常に戻るくらいならこの世界に居た方がマシだろう。しかし、みんながみんなそう思うわけじゃない。


「ふざけないでよ!?」


「そんなのお前らの勝手だろうが!」


「魔王を倒すまでに死んだらどうするんだよ!?」


「元の世界に返してよ!」


 案の定、事ここに至って自体を把握しきれていなかったクラスメイトたちが一斉に吠えた。

 男はひたすら頭を下げ続ける。


「申し訳ございません! 元の世界にお返しすることはできません! ですが! 勇者様方にはとてつもない力が御座います! 必ずや魔王を倒すことができますでしょう!」


 とてつもない力……? 創作物の勇者なんかにある、強力な魔法とか剣技のことだろうか? あんなのが現実にあるなんて想像できないな。


「へぇ、とてつもない力ねぇ……。いいじゃない、さっさと教えなさいよ」


 感心を刺激されたのか、黙っていた姫が男に詰め寄り詰問した。

 男は一瞬の間呆けるも、直ぐに平静を取り戻し返答する。


「そうですね。ここは手狭ですし、外に出ましょうか」


 そう言うと、男は他の白服たちを率いて僕らは部屋の外へと案内し始めた。






 少し入り組んだ石造りの道を男に牽引され進んでいく。

 壁際には松明が備え付けられており、今にも消えそうな儚い火を灯している。


 今僕らを先導している周囲の男達と違った服を着た男、実はこの国のお偉いさんらしい。

 名前はアイソマー・レーメンスと言い、僕らを召喚した国、帝国で皇帝の補佐役兼神官長をやっているそうだ。僕らを召喚する儀式はなんでも彼が仕切っていたそうな。


 彼が言うからには、僕らが居る建物は古より存在する女神の神殿だそうで魔法の演習を屋内で行うわけにはいかなかった。まあ、女神の神殿と言っても、他の国にも何点か存在するようで決してこの国だけにあるものではないのだが……。

 兎に角、僕らは今神官長に魔法などの力の行使の仕方を教わるため屋外へ歩いていた。


 歩き始めてから数分。

 男の先導する道から光が差してきた。

 見れば、男が木製のドアを開け外に出るように促していた。

 通路の横幅が狭いので、先生の指揮のもと改めて整列してからドアを潜った。

 備え付けの火とは比べ物にならない光量が網膜を灼く。

 おそるおそる目を開けると、思わず感嘆の声が漏れた。  


 視界に広がるのは、日本ではお目にかかれないような緑の数々。排気ガスの充満した都会では決して味わうことはできないであろう、清涼感溢れる新鮮な空気。無窮に広がる蒼空。

 それだけじゃない。

 神殿は帝都の皇城の裏にして帝国でも有数の高所に建てられているらしく、ここからでも城のお膝元がよく見える。


 俗に言う城下街だ。

 市場は活気に溢れ、忙しなく人々が行き交っている。どこか中世ヨーロッパを思わせる、統制された建築物の群れも印象的だ。 


 そんな城下街は四つの区画に分かれている。

 端的に言ってしまうと、東西南北中央の五つのエリアがある。

 南が帝都の入口にあたる門があるエリアで、比較的治安がいい。帝都の玄関である南あエリアには居住区は存在せず、冒険者や旅人に向けた宿屋や武器防具屋が多々存在する。冒険者が溜まりやすいエリアなので、冒険者同士の傷害事件が頻発するそうだが、門の付近には帝国の衛兵が常時待機しているのですぐに対応できるんだとか。


 次に中央だが、これは南エリアの延長線上にあるような区画でそこそこ名の売れた店が出店している程度だ。ただ、南区と違い帝都在住の住民も御用達の店が多い。


 西のエリアは帝民が暮らす区画で、先程言ったような中世ヨーロッパ風の建物が競い合うように乱立している。このエリアに住むのは、平民に位置づけられている人たちだ。貴族や皇族は皇城のある北区に居を構えている。


 その北区だが、貴族皇族の住居の他にも数軒だが店を経営している建物がある。それは代々皇族などが贔屓にしてきた店で、武具防具店が殆んどだ。当然の如く、高級店。市民には縁のないエリアだな。


 最後に、東区。簡潔に言おう。スラムだ。神官長が言うには帝都の闇だそうだ。

 遠目には西区のような居住区に見えるのだが、住んでいるのは浮浪児や貧乏人、ワケ有りな人たちだ。闇の取引なんかも専ら東区で行われているらしい。

 ……と、まあ城下街はこんな感じだ。


 日本なんかじゃ考えられない、厳然としたヒエラルキー構造。まさに異世界っぽい感じ、かな。

 因みにこれらは全部神官長に聞いたことだ。

 その神官長は、神殿の裏口から僕らを連れ出すと高原に立ち僕らを一瞥。

 少し緊張したように咳払いし、口火を切った。


「えー、それでは皆様。早速ですが、頭の中でステータスと念じてみて下さい。勇者様方なら己のステータスが可視化されるはずです」


 そう神官長は総勢44人(生徒43人+教師一名)の勇者に言った。今更だけど、勇者が多過ぎる気がする。

 それにしても……


「ステータスか……」

 

 ゲームなんかでよく目にする単語だが、現実でこうも真面目に問われるとは思わなかった。


「異世界に来てその言葉を聞くとは思わなかったな」


 慎太はそう言うと目を瞑る。早速神官長の言葉を実行しているようだ。

 僕は彼の様子を見てからすることにしよう。

 少しすると、慎太の体がビクッと震えた。次いで、喜色に満ちた顔を上げる。


「恭平、これすげぇ! ステータスが見えるぜ!」


 歓喜してはしゃぐ。他の生徒も興奮した様子だ。

 自分を客観視できるなんて、まるでRPGみたいだ。

 僕も目を瞑ってステータスと念じる。

 すると、


 ――――――――――――――― 

 柊恭平 16歳 男 レベル1

 人族

 職業:なし

 称号:異世界からの勇者


 HP 100/100

 MP 120/120

 

 筋力 6

 体力 9

 敏捷 14

 耐性 17

 魔力 25

 魔防 18

 

 適正属性『風』『無』


[スキル]

 

 言語理解【初級】

 

[魔法]

 なし

 ―――――――――――――――


まあ、最初はこのくらいのものかもしれない。いくら勇者って言っても、最初から強いわけじゃないし。

 言葉が分かったのはスキルのおかげだったようだ。


「恭平、お前はどうだった?」


「全体的に魔力関係のステータスが高かったよ。魔法使いタイプなのかな。慎太はどう?」


「俺は筋力と体力が突出してた。HPも高い方なのかもしれないな」


「いくつ?」


「150だ」


 僕の1.5倍もある。高すぎないか?

 この世界の強さの基準はやけにゲームチックで分かりやすい。でも、自分が数字で表されるのはなんだか嫌な気分だ。

 現代社会の僻みと言われたらそこまでだが。


「皆様、ステータスは出せませたでしょうか? 勇者でない一般の者はギルドと呼ばれる場所にてギルド証を発行しなければ見ることができないので、ステータスの可視化は大変便利です」


 神官長がにこやかに告げた。

 おかげでこの世界にギルドがあるのが分かった。創作小説なんかでよくある組織だ。


「ギルドか。行ってみたいね」


「まあ、それより先に力の使い方を学ばねーとな」


 神官長の説明が続く。


「勇者様方の力はそれだけでは御座いません。他にも、レベルアップによるステータスの上昇幅が常人とは一線を画す、如何なる言語も理解することができる、強力な魔法、スキルを扱えるなどがあります」


 なんだか益々ゲームらしくなってきた。

 でも、そういう強力な魔法を扱える~なんていうのは想像の範疇にある。テンプレもいいところだ。

 それよりも、ステータスのスキル欄が気になる。

 スキル欄の最初の項目に値する部分だけ空白になっている。注視していなかったら見過ごしていたかもしれない。

 なんなんだ、これ?

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