12 みんなのためにも
迷宮の入口から少し先の玄室。
そこで僕らは顔を突き合わせてこれからのことを話し合っていた。
「詰んだな」
慎太がそう呟いた。
「三人だけじゃ迷宮は攻略できねーよ」
ワイルドウルフを撃退した僕らでも、これから勝ち続けられる保証はどこにもない。
そもそも、三人だけで倒せたこと自体が奇跡なのだ。
「やっぱりさっさとあいつを殺すべきだったんだ。あいつ、姫は絶対に味方を殺すぞ」
皆月さんを責めるような言葉に、彼女は蒼白な顔で俯く。
でも、今考えれば殺すという考えは極めて異常だ。彼女の言い分は至極真っ当なもので、僕らがどうかしてるのだ。
殺す、という言葉が簡単に出るほど事態は切迫しているが決して冷静さは欠いてはいけない。
もう、選択を誤ってはいけない。
「でも、僕らが『勇者の窓』を教えることを躊躇っていたのも事実。もっと早くみんなに話していれば犠牲者を減らせていたかもしれない」
いや、きっとそうだろう。『勇者の窓』のおかげで僕らは格上のワイルドウルフに勝利できたのだから。
「ふ、二人共! 百合ちゃんがみんなを殺す結果になるなんて、まだ分からないんだよ? そんな決めつけるような言い方しなくても……」
「いや、皆月さん。残念ながらそれは決定的だよ。僕らがどうしてレベル差のある相手に勝てたかは君も分かっているはずだ。彼らの死因は姫云々ではなくて、単に情報の不足にある」
尚も姫を擁護しようとする皆月さんに現実を突きつけた。彼女は、あまりにも優しすぎる。ここでは、きっとそれが命取りになってしまう。だから、今は……
「今は、僕たちが生き残ることを優先しよう。命あっての物種と言うしね」
「でっ、でも! 『勇者の窓』を知らないのが問題なんですよね!? それなら、今からでも教えてあげれば!」
「まだ言うのかよ。いい加減気付け。ワイルドウルフ相手に『勇者の窓』以外にも俺たちにはアドバンテージがあっただろ」
皆月さんが、え? と疑問符を浮かべる。他人を思いやるのは分かるが、それ以外には目を向けていないんだな。
僕は慎太の言葉を補足する。
「敵は一体だけだった。でも、それだけで僕らは手一杯だったんだよ」
「これからも、敵が一体だけで出てくるとは限らない。俺たちは自分たちのことで手一杯だ、他人を救える余裕はねーんだよ」
「でも!」
「くどい! テメーは俺たちに死ねっていうのか!?」
「――っ!」
皆月さんが言葉に詰まる。
クラスメイトの救助は僕たちの死に直結する。敵が二体以上出てくれば死ぬ確率は急速に高まるからだ。
つまり、彼女の言葉を要約すると『私と一緒に死んでください』ということになるわけだ。
優しい皆月さんなら、そんなことは口が裂けても言えないだろう。
「皆月さんはみんなを助けたいんだね?」
僕は双眸に涙を湛える彼女に向き直る。
「グスッ……うん」
「それなら、こう考えよう」
僕は笑顔で二の句を継ぐ。
「『一刻も早くみんなを助ける為に強くなる』、それは同時に身の安全にも繋がる。どうだい、一石二鳥だろう?」
言っていることは先と殆んど変わっていない、物は言いようだね。
皆月さんは感銘を受けたようにしきりに頷く。
「うん、うん! そうだね!」
「じゃあ、さしあたっては互いにステータスの確認、そして取得するスキルを相談しようか」
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