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五輪 ゆらり、ゆら。散る桜の花弁、一滴の涙

六輪の投稿は一度データが消えた為、大分遅れると思います。

 ──そんなはずじゃ、なかったのに──

 これは夢、

 私が兄の白雪桜を殺し、笑いながら心の中で嘆く自分がいる。

 これは夢であって、未来に起こる事実。予知夢ではない、正夢だ。

 最初は兄さんに勝てる、と喜んだ。でも──

 日に日に夢の続き見るようになり、残酷な光景を見せるようなった。

 今も兄さんの胸に私の魔器、白虎を刺したまま笑っている。

 嬉しそうに、嬉しそうに──

 白虎を抜き兄さんの血を浴びながら壊れた笑い方をする私、とても嬉しそうだ──

 兄さんは担架で運ばれていく。

 胸から赤く染まっていく。

 兄さんは死ぬ運命──


 私はなんで、なんでそんなに嬉しがっているの──


 私はなんで心から笑っているの──


 私はなんで、兄さんを殺したの──


 なんで──


 なんでよ──

 

 なんでなのよ──


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 雪乃は夢から覚める。

 顔色は悪いと言えるだろう。

「また」

 また、桜を殺した夢を見た雪乃。

「最悪」

 何故自分が兄を夢で殺しているのか、憎い気持ちはある。しかし雪乃にとっては小さいことにしか思っていない。

 ただ思っているだけ──

 それが非常に大きな被害をもたらすことは理解している。

 自分が見る夢はただの夢でないことも──

 これは桜が死ぬだけの夢ではない。この夢には続きがある。雪乃が見てない続きがある。

 この夢の内容は引き金の一部に過ぎない。

 雪乃では乗り越えられない高い壁。

 

 絶望

 

 雪乃は制服に着替えて居間に向かう。

「遅いわね~。誰か雪乃を起こしてきて」

「ヤーダ」

「こ、こわい、です」

「………」

 咲と百合は言葉で拒否し、桜は無言でいる。

(何よ!そんなに私が嫌なわけ?短気で恐いからって)

 雪乃は居間の入口の陰で拗ねる。

「こらこら、そんなこと言わないの!さくちゃん、雪乃を起こしてきて!」

 桜は雪乃が隠れている方向に目をやり、

「いつまでそこに立っているのですか、雪乃」

 さっきまで暗い顔してた雪乃だが、咲と百合の言葉で気持ちが切り替わったようだ。

 居間に入り、咲と百合に目を向けて問う。

「二人とも私が怖いのかな?」

 二人は怯えて抱き合う。

「アハ、おこってる、お、こってる」

「こ、こわい、お、おそろしい、です」

 雪乃の怒っているときの笑顔は口元が引きつっていた。

 咲と百合に怒ってるや恐ろしいなど言われ続け、次第に米神あたりに血管が浮かび上がる。

「雪乃、最近朝は具合悪そうにしてますが、何かあったのですか」

「何も無い」

 そう言うと雪乃は急いで朝食を摂って鞄を取ると出ていった。

 雪乃は気付いていなかったが、桜は雪乃が出て行くまでずっと雪乃を見ていた。その瞳の奥には何かを探っているかのようだった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 まだ誰もいない教室で一人、机に顔を伏せている。

 今までに正夢を幾度となく見てきた。絶望の味がある夢は全て現実になった。そのとき夢と現実に希望はなかった。

 だから桜は死ぬ。雪乃の手によって、

(なんで私がこんな夢を見ないといけないの)

「雪乃さん、確かめたいことがあります」

 自分以外誰もいないはずの教室に一人の声が響く。雪乃は伏せていた顔を上げる。翳吹紗織が教室の前にいた。

 紗織は雪乃の側まで歩み寄る。

「貴女に確かめたいことがあるの少しだけいい?」

 雪乃は頷く。

「では、一つ──」



 桜は教室に入るとまず、雪乃のもとまで歩み寄る。

 雪乃に確かめたいことがある。

 ──何故、自分を見て怯える。

 ──何故、視界に自分を映して絶望した顔をする。

 ──何故、雪乃から自分が悪いと自分を責めるような雰囲気が出ているのか

 それら全てが分からない。だからこう言ってみる。

「雪乃、貴女に決闘を申し込みます」

 雪乃は一瞬飛び跳ねるとゆっくり顔を上げる。そして一瞬にして絶望を帯びた表情になる。

 その時、雪乃は翳吹紗織の中で反響していた。

 ──貴女の今、悩んでいる夢は現実となります。その後貴女は苦しみに溺れるでしょう。

 確かめることを確かめたらそう言った。

「今は、今は勝負事はしたくない」

 雪乃は席を立ち、教室から出て行った。

 その後ろ姿を見ながら一言呟く。


──未来を変えることはできません。──


 桜の瞳に映る雪乃はどんな姿を捉えているのだろう。全身赤に染まって痛みに藻掻く姿。全てを失い放心状態の姿。何かに怯えて逃げ惑う姿。触れただけで粉々に崩れそうな物にどうするか迷っている姿。この中のどれか、全てか、それとも違う何かの姿か、

 桜の瞳には雪乃の心が映し出されているように見える。

「雪乃、貴女はどちら選びますか」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 あの後、雪乃は校舎の裏にある森に来ていた。

 雪乃の心は目の前に真っ暗な分かれ道があり、迷っている状態。

 自分は何がしたい。どういうことをしたがっている。一体自分はどうなっている。

 幾つかの迷いで自分が判らなくなっている。

 そんな時、

「目的は目の前にあるはず、壊すべきの生命を。記憶から掘り出せ」

 黒の外套の人が現れて誘惑してるような声で言葉を発した。

 そして、血の繋がりがある兄の出来事を思い出す。

 ある日の事件、雪乃にとっては何も無いという恐怖を覚えた絶望の日のことを──、

「あ、ああアアアああアア」

 雪乃に桜への憎悪が再び生まれる。

「そう、それでいい」

 いつの間にかいなくなった黒の外套の人の言葉が木霊した。

 今の女は一体誰なのか、何故桜を狙っているのか、雪乃には知れないことだった。

 分かることはたった一つ、桜を殺したいと思う気持ちが自分の願いだということ。

 教室に戻り、桜の所に先程の決闘の申し込みを受諾すると言いに行く途中、桜の横顔で雪乃の心が満たされていく。

 儚く、虚ろな表情に雪乃は先程の憎悪を忘れ、今までに桜はどんな経緯をもち、どんな絶望に向かい合い、どんな過去を受け入れたらそんな顔以外が消えるのだろうと考えてしまった。

 教室を出る前の桜の言葉を思い出す。

──未来を変えることはできません。──

 これは桜の経験上の言葉だろうか。

 目に映る桜が今にも消えてしまいそうで雪乃は桜の近くまで来ると裾を掴む。桜は一度だけ雪乃を一瞥する。ただそれだけだった。

 今の雪乃にはその行動が心地好いと思った。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「──からにして相性の悪い属性同士で融合させることは難しく成功率は低い」

 魔法で物理的な原理を学ぶ魔法物理学の授業を受けている。

 そして今は、ベテラン魔導師でも難しいと言われている融合魔法の説明を先生がしている。

「そして、融合させる魔法の数だけ成功率は低くなっていきますそれから──」

「先生‼」

 一人の生徒が挙手する。

「はい、なんですか?生徒眩藤」

「自分は水と電の融合魔法ならできます」

 周りはざわめく力加減が難しくベテランの魔導師でも成功率が低い相性の悪い二つの融合魔法が出来ると言うのだから、場合によっては成功率が非常に高いのもある。

 その生徒は桜を見て

「今から披露します」

「生徒眩藤、止めなさい」

 右手に電が迸り、左手に水が柔らかく浮く。

 桜は上を向く。しかし向いた先には何も無い。

 生徒は両手を合わせて振り下ろす。すると、何も無い空中から電を帯びた水分が瀧の様に桜に注がれる。


 ──《桜剣》染井吉野──


 桜は魔器を展開し、生徒の放った融合魔法は斬る。

 斬られた魔法は壁に電が反発し爆発する。近くにいた生徒は次々に感電していく。

 生徒の放った融合魔法を斬った桜は展開した魔器の刃先を生徒の首筋に当てていた。

「魔法を唱えようとしたら貴方の首は重力により、落下しますがどうしますか」

 生徒向けて言い放った言葉だが、桜は生徒を見ていない。

「貴方の魔法の呪文を唱える早さよりも、僕が貴方の首に当てた刀を振り下ろす方が早いこと理解できるはずです」

 皆、生徒の行為に驚いたが、それよりも桜の行動力や業に驚いていた。

 桜以外の生徒は魔器に魔力を纏わせることは不可能だろう。一瞬で近付くことも、そして───

「その魔法は忌まわしき魔法の一つです」

 どんな魔法が放たれたのか理解することも、

「な、に」

 沈黙の中に疑問の言葉がひとつ───

 そして───

「その融合魔法は一番簡単で危険な魔法。そして、貴方の父が最初に編み出した禁忌の魔法の一つ 、幻の光るアリュシナシオン

「く……、くそ」

 教室内でざわめきが起こる。

「眩藤の奴、禁忌の魔法をこの教室で……、」

「倒れている人の数、尋常じゃないぞ」

劣等種イレギュラーはなんで立っていられんだ?」

「あいつも禁忌の魔法を使ったのか?」

「俺には剣を振った様にしか見えなかったけど?」

「そもそもあいつは魔法使えないんじゃなかったのか?」

「いつもの魔法を斬る如何様じゃねえの?」

 意識のある生徒は有らぬことを思ったまま言葉に出す。

 そんな中、たった一人の言葉が皆に届く。

「剣に魔力を纏わせて魔法を斬る。魔力制御の能力が人間の領域を超えている者にしかできない芸当。莫大な魔力を常に抑え込んでいるが、莫大魔力を持ちながらも魔力の気配は一切感じない」

 そう言ったのは近衛というルックスのいい灰色の髪の男子生徒。

「生徒近衛、それはどういうことですか?」

「白雪桜は本当は魔法を自由自在に操ることができる。そうだろ白い死神」

 桜は押し黙ってしまう。

「魔法を使わないお前に勝てない俺らを見下しているんだろ」

 違う。使わないではなく、本当に使えない。桜はそう言おうとした。しかし、何故か躊躇ってしまう。

「お前は隠してるモノがある」

 そう隠している。身体の中に刻まれた、あの魔法陣に似た紋章。あれが刻まれる度に魔力が抑え込まれていく。

 紋章の中の廻る無数の円盤のような模様は何を表しているのだろう。

 桜は沈黙、それを近衛という生徒は肯定したとったのか。いや、一人だけではない。言われて黙る桜を見て疑いの目、怒りの視線を向ける者が多々いる。

 魔法は使えないが、確かに隠しているモノはある。過去のこと、家族のこと、もう一つの世界のこと、あの二人のこと、自分のこと、封印のこと、自分の中に眠る力のこと、誰にも言えない。兄の剣神よりも強い実力を持つことも───

 ──僕は、僕は、僕は、

 答えることはできない。

 答えることができないほどの、それ以上の闇を僕は皆に埋め付けることになるから、


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 放課後


「お前は何時いつ、本当の実力を見せてくれる?」

 帰り道、ふと尋ねる言葉に振り向く。

「俺はまだ、お前に会ってからお前の本当の実力を見たことがない。何を隠してる」

 木にもたれ掛かった河野光輝が鋭くした片目に桜を映していた。

「何を隠している桜、答えろ」

 隠している訳じゃない封印の所為で僕は、魔法が使えない。封印されているから本当の実力が出せない、そう言えばいいのに言えない。“生け贄封印”その言葉自体が禁忌の言葉。

 “生け贄封印”とはかつて世界に絶望を読んだ怪物がいた。竜のような長い胴体、全身は毛並みに被われている虎のような怪物

 その怪物はどんな攻撃も無に返してしまう。世界の九割以上も壊滅させられ、人間は絶望を待つしかないと思い込み始めた。そんなとき、一人の女性がこう言った。

 ──あの怪物私が何とかしてみます。

 その後、怪物は衰弱しており、怪物の撃滅とまでには至らなかったが、封印することに成功した。

 その後、彼女がいないことに皆気付く。そして、一人の人物に皆が注目する。たった一人に、彼女に付いて行った、たった一人に質問を投げ掛けた。

 ──彼女は何処にいる。

 ──なんでお前だけ戻ってきたのだ。

 ──まさか、死んだのか。

 皆の言葉には負の感情を帯びていた。それもそうだろう。

 しかし、彼女に付いて行った者は怪物が封印された巨大な岩に指を指しながらこう言った。

 ──生きてます。この岩の中で、あの怪物の中で、

 絶句、

 その後、一人戻って来た彼を大罪人とし、首をはねられ、封印された怪物の場所には巨大な岩が置かれ、彼女を神か何かを扱うように“神代史ゑ”と名前が彫られ、奉られた。

 そして、彼女が怪物に使った封印は禁忌とされた。


 桜には、その封印が施されてる。だから本当の自分は化物。

 桜は光輝と擦れ違う瞬間、

「何もない僕の世界に力を出し切る意味が僕にはありません」

「待て!」

 光輝は手を伸ばす。が───。

 

 ──バヂ

 

 見えない何かに弾かれ、麻痺を起こす。弾かれた手があった所には扇子が、そして、

 それを持つ狐の仮面を付けた和服の女性が立っていた。

 女性は振り返り、桜へ歩み寄ると消えた。

(こいつの強さは、今の霊に関係しているのか?それとも、

何かを認めたからそこにいるのか?)

 

 桜は歩く、何もない誰もいない暗い道にたった独り、桜並木道の桜に遮られる光、ゆっくりと、ゆっくりと舞い降る桜の花弁、今の桜の儚げな表情には本当に無感情と言えるのだろうか?

 全てを失って、光を失ったような瞳、負の感情は働いているんじゃないだろうかと思わせる。

「本当に私達が言った通りですね」

「そうね、こうなるとは思ってなかったわ」

 ふと、振り向く桜、そこには翳吹紗織と鈴ノ森飛鳥が公園のベンチに座っている。そして、二人とも桜を見詰めている。

 二人はベンチから離れ、桜の下へと来ると、

「「ありがとう」」

 息なりの礼に桜は首を傾ける。

「僕は貴女達にお礼されることしましたか」

 尤もな疑問だ。桜の記憶には彼女達からお礼されるようなことした覚えはないのだから。

「あの時、

 ──諦めることは生きることよりも辛い──

 そう言ってもらえて救われました」

「だから、ありがとうよ」

 桜は言った覚えのない言葉で余計に理解できずにいる。

 二人は桜に再びお礼すると公園を去る。

 

 ぽちゃん──

 

 

 ──戸惑っているのか?

         それとも

          迷っているのか?──

 

 

 桜の視界は公園から時たま見る湖の中に一本の桜の樹の景色に書き換えられていく。

 そして、自分によく似た人物が立っていた。

「何に戸惑っている」

「分からない」

 分かるわけがない。自分のことをよく知らない自分が自分のことで分かるわけがない。

「何に迷っている」

「分からない」

 分かるわけがない。大切なものを失って自分に絶望した自分が自分のことで分かるわけがない。

 眼前の人物は右手で顔を覆い、溜め息を吐く。

「まあ、仕方がないか」

 彼は桜の無感情がない理由を知っている。桜の全てを知っている。だから知った。桜が自分自身を理解してないことを、

「心の中、失い過ぎて空っぽだからな」

 そう言われた途端、今までの桜の過去が桜の脳裏に焼き付くように思い浮かぶ。

 絶望という道を辿ってきた過去。

「それに、あの日以来お前は泣いている。表では泣けなくても、裏は泣いている。ずっと」

 桜は自分は泣いているはずがないと言うが、彼は言う。

「この桜の樹はお前の心、感情だ。お前が泣いてないと言ってもこの桜の樹が泣いていれば、お前は心の中だけで泣いているんだ。何よりこの雨が証拠だからな」

「僕が泣いている。分からない」

「自覚しろとは言わないが、これだけは覚えておけ、お前の心は死んでないことを」

 その言葉とともに桜の視界は白く染まっていく。

 

 

 視界が晴れると、そこは夜の公園。

 夜になるまであの場所に居たつもりはない桜、あの場所に居ると時間の流れが早く感じてしまう。

「白昼夢のあの人、僕の何を知っているのですか」

 桜は夜空に浮かぶ月を眺め、

「僕は本当に泣いているのかな。感情って何なのですか」

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