ポッキーの日 ―どっかのお店のロリコンと以下略たちの場合―
ポッキーの日って知ってるかい?
ま、“1”が付けば皆ポッキーの日って思えばいいよ。
つまり、“ポッキーの日”自体はちょーどうでもいいんだ。
重要なのはポッキーの日にかこつけて何をするか?
だ。
【洸祈】
「ちきちきポッキー&キスデー」
意味不明。
「洸祈ぃー、昨夜はそれはもうエロくなってくれたけど、今日はスペシャルサンクスデーらしく、微エロに走ろー!!」
結局、エロしかないエロ餓鬼を俺は無視した。
スペシャルサンクスデー何て言うから、受けの為の安息日かと。
てか、俺は受けじゃない!
と自分に自分でツッコミを入れた。
「あ!寝ないでよ!!」
「ムリ。眠い」
「何で?微エロだよ?微妙エロだよ?」
微妙エロって何だ。
「興味ない……」
「ちょっと!スペシャルサンクスは!?」
「肩叩き券作って……俺に頂戴」
「おじいちゃん!?」
枕元で煩いなぁ。主夫なんだから、朝ごはん用意してから起こして欲しい。
ああ……ムリだ。眠い。
「安眠妨害禁止…………」
俺は眠りたいのだ。
【葵】
「ちきちきポッキー&エッチデー!!」
「ああそう。エッチね。千里は変態ってことか。じゃ、朝ごはんの支度するから」
「ええ!!ポッキーの日だよ!?何で!!意地悪!!」
ふわふわと千里の長い金髪が舞う。朝の千里は髪を縛ってないからどちらかというと可愛い。
「ポッキーの日とエッチの繋がりが分からない」
「ポッキーの日は、エッチしながらポッキー一緒にポキポキするの!!」
どこの誰だ。
そんな高度なエッチ日を作ったのは。
「喉に刺さったらどうする。ほら、青いふちの皿取って」
「喉に刺さったら、全力介抱とエッチ」
だからエッチから離れろ。
千里は俺の背後を軽やかに走り抜け、食器棚からパッと皿を取り出す。こんなところはイイコなのにな。
「むぅ…………じゃあ、ポッキー&キスは?」
頭を林檎を洗う俺の腕に擦り付ける千里。
うーうーと唸ってねだる。
しょうがないなぁ。
こんな小動物みたいなことをされたら洸祈じゃなくとも甘やかしたくなる。
林檎を切り分け、1つずつに耳を付けて兎にしてやる。兎が一匹、二匹……。
「一個兎さんにしてないよ?」
一個だけ残した皮付き林檎。
包丁を洗い、兎にしていない林檎を千里の口に入れる。
「ふひぇ?」
千里が歯で林檎を挟んで首を傾げていた。
ああ、可愛いな。
腰を抱き寄せて、はみ出た林檎を噛みきった。
馬鹿だなって思うけど、俺達二人だけの世界なら馬鹿もありだ。
シャクシャクと果肉が甘い。
ボーッと半分になった林檎を食べる千里。しかし、唇を舐めてキスを促せば、笑顔を見せてキスをしてくれた。
「あとでポッキーな」
「……うん」
俺、幸せかも。
【陽季】
洸祈は意地悪だと思う。
甘えてくる時は、つい邪魔になるくらい甘えてくるのに、甘えてきて欲しい時に素っ気ない。
真性のツンデレか!
葵君と千里君は何やら台所でいい雰囲気なのに。
泊まらせてもらっている分、朝ごはんを手伝おうとしたら、入れなかった。むしろ、ここで入ったらKYどころか野暮だ。
俺もあんな風に『あとでポッキー』してもらいたい。
いいなぁ、千里君。
「てか、“ポッキー&エッチデー”からこの展開って不公平でしょ」
もろ“エッチ”はひかれるでしょ。
何で?
葵君と千里君って超健全な恋愛してるから“エッチ”はただの冗談としてスルーされるとか?それか、葵君が賢者だからちょっとそっとじゃ動じないとか?
「いいなぁ……」
「『いいなぁ』?入らないんですか?」
葵君だ。
リビングの扉から1階への階段に座って悶々としていた俺に声を掛けてくる。
「おはようございます」
「おはようございます、陽季さん」
ぺこっと頭を下げて俺の為に扉を開けたまま待つ葵君は、双子の洸祈と顔は同じでも、気遣い方が全然違う。洸祈なら待たない。
“「おはよー」バタンッ”だ。
俺は葵君に促されてリビングに入った。
「ねぇあお、蜜柑の皮にはリモネンって物質が入ってるんだって」
「うん。で?」
「油溶かしちゃうんだって」
「食器洗剤にはよくオレンジ成分とか入ってるけど、そういうことか」
「ゴキブリに掛けると表面の油溶けるから嫌がるんだって」
「へぇ。蜜柑の皮か。取っといて、油ものの食器はそれで拭いてから洗うかな。地球に優しいし」
「そうだね」
“ねぇ洸祈。蜜柑の皮にはリモネンって物質が入ってるんだって”
“あーそう”
“…………………”
“…………………”
“取っといて、油ものの食器はそれで拭いてから洗うと地球に優しいね”
“面倒だ”
…………………………………。
「はい、終了ぉ~」
「『終了』?何が?」
台所とテレビの近くのソファーで愛に溢れる会話をしていた葵君と千里君。千里君がソファーの背凭れに肘を乗せて首を傾げていた。
「俺達の……コミュニケーション的なものがね」
「?」
いいなぁ、いいなぁ、幸せ過ぎるじゃん。こんなご近所に幸せオーラがあるのに、俺達、どんだけ冷めてるわけ?
「陽季さんは朝、牛乳ですか?コーヒーもありますけど」
葵君の笑顔と気遣い。
兄よ、見習いたまえ!
………………俺、涙出そうだ。
「陽季さん?」
「牛乳をください」
「分かりました」
「あお!皆起こしてくるね!」
「んー」
『引き際も大事だよ』
千里君の囁き声。
俺としては攻め一本だが…………。
「テクニシャンが勝つのさ!」
にやりと笑う千里君に俺は「師匠!」と叫んでた。
いや、マジで。
【千里】
さぁて、琉雨ちゃんと呉君、お次は……。
「洸ー!おーきーてーよっ!」
冬眠中の洸だ。
「ううううう」
「朝ごはんだよ」
「ううううう」
…………駄目だこりゃ。
ま、昨日の洸はかなり艶っぽい声で弟君をより可愛くしてくれたし。今度陽季さんとダブルでやったらどうなるんだろ。あおの新境地開拓かな?
ああ、あとでポッキーかぁ。
10時のおやつにあおをパクリかな。
なら、早くご飯済ませなきゃ。
「洸ぉー、起きてくんないと、台所エッチするよ?」
これは魔法の言葉だ。
「駄目だ!」
ほら、裸エプロンの境地を陽季さんに開拓してもらいながら、我が家の台所は琉雨ちゃんの神聖なる場としてエッチの許可をしてくれないのだ。
いつかあおにも裸エプロンさせる。絶対にだ。
でも、今は洸が起きただけでよしとしよう。
半目の洸はむっとして体を起こした。擦り下がったパジャマから見える肩のキスマークは陽季さんの独占欲だ。
おお、至るところに!
ぽけっとしている洸のパジャマを捲っても洸は怒らない。ふらふらするだけだ。
きっと太股にも沢山あるんだろうな。
僕は洸の机の椅子に掛けられたちゃんちゃんこを洸の背中に掛ける。散らばったスリッパを用意してあげる。
「おはよー、洸。朝ごはん食べよう」
「んんう~」
何だか頼りない返事だが、わけも分からずスリッパを履く洸はそれでいいや。
「ねぇねぇ、昨日はマニアックだったの?」
僕がトロトロ歩く洸に訊くと、
「昨日?……玩具が2個」
素直なとこが面白い。
昨夜は玩具付きだったのか。
「バック?」
「さぁ……どうだろ」
もうあやふやらしい。
しょうがないからここで事情聴衆は終わりだ。
僕はリビングのドアを開けてあげた。
「あお、ポッキー&キス!」
「はいはい」
ポッキーを一本あおにあげると、あおはポッキーをくわえ、僕が反対側から食べ……。
ぽきっ。
「え?」
ぽきっちゃったよ?
「ほら、間接キス」
少し頬を赤らめ、食べ掛けポッキーを…………違う!
「要らないのか?」
そうじゃない!
「なんか違う!」
「ん?どこが違うんだ?ポッキーとキスだろ?」
確かに間接キスもキスっちゃあ、キスだけど、体育系爽やか男子がさも普通に女子の飲み掛けペットボトルを飲むような軽さじゃない!勿論、あおも僕もきゃーきゃー喚く女子でもない!
「普通は両サイドから食べてって、真ん中でキスすんの!」
「無理だって。途中で折れる」
そんなわけあるはずがない。じゃなきゃ、わざわざポキポキの日なんて製菓会社も宣伝しないよ。
「じゃあ、やってみるか?」
そうだよ!僕はポッキー&キスがしたいの!
前歯でポッキーをくわえるあお。僕は僕のベッドに腰掛けるあおに被さり気味にそっと端をくわえる。
「ひゃあ、はへよ(じゃあ、食べよ)」
「うー」
ポキッ。
と、僕が少し食べようとしたら、そこからポッキリだ。あおが目を皿にしてポッキーを揺らしてる。
「だ、大丈夫だよ。ポッキーの日だもん。食べれるもん」
途中からくわえる。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……あと少し……。
よし、キス……―
ポキッ。
「………………………」
唇は触れずに真っ二つ。
「ほら、無理だって。はい、間接キスポッキー」
その無意味に卑猥な名称のポッキーを僕に渡されても。
てか、何これ。
ポキポキは?
本当にムリみたいなんですけど!!!!
「はい、5本作った。食べないの?」
あおは本格的に間接キスポッキー作ってるし……。
売り出したりしないよね。僕が全部即買いするけど。
「ねぇ……」
「んー?」
「新しい方法考えた」
「え?」
「口移ししてよ」
「……………………」
「あおが噛んで、僕に頂戴」
「……………………」
あ、やっぱりダメかな。
しかし……―
「一回だけだから……」
あおがエロ可愛い!
ポキポキと間接キスポッキーを噛み砕くあおと、吸い付く僕!
「んっ……ふぁ……あ……」
完全興奮状態のあおの完成!!
「せ、千里……ん……」
言わなくていいよ。
「ポッキー&エッチデーだもんね」
僕はあおをベッドに押し倒した。
もう最高!
【洸祈】
琉雨と呉がポッキーを食べながらテレビ視聴に耽る。葵と千里は二人で……ま、エロに近いことに勤しむのだろう。
俺は……。
「陽季がつまんない……」
「ふああぁあ」
大あくびをして、床にゴロゴロして、ポッキー摘まんで……―
「俺とポッキーしたいって言ったくせに」
わざと陽季に聞こえるよう言ってみるが、
「あー……ねむっ」
腕を枕に目を閉じてしまう。
むぅ……。
こうなったら、うりうりと足下の陽季を爪先でつつく。
いっつもここで楽しむくせに。おりゃっ!
「んん?……あー……邪魔……もう……」
もぞもぞと琉雨達のいるソファーへ……。
そんなのあり?
俺だけ……つまんないじゃん。
【陽季】
お、おおお!!
洸祈が拗ねてるぅ!!!!
物足りなさそうな目を俺に向けてるぞ!
よし、ちょぉっと場所変えてやるか。
「なぁ……陽季……」
「煩いなぁ……」
そっと、洸祈の部屋へ!
洸祈付いてくるし。
師匠、流石!
「陽季、陽季……」
さっきは眠い眠い言ってたのに。
俺は眠いの。
だけど、つんつんって俺の背中つつくし。
可愛いなぁ。
洸祈のベッドに行き、ごろん。
「陽季ぃ……」
うるうる目の洸祈。
ベッドに上がり、眠ったふりの俺に洸祈は跨がる。
いいながめ……うわ、ちょっと襟から胸元見えるよ。
弄って貰いたさそうな。
いやいや、もう少し焦らそう。
「うーん」
「はるぅ……ポッキーぃ」
さっきは嫌がったくせに。
「ポッキーしよーよー」
可愛いよぉ。もう無理かも。
「ポッキー&エロ……」
「エロ?うん……微エロでしょ?微妙エロ、よく分かんないけどいいから!…………一人にしないでよ」
かんわいい!!!!!!!!
伏し目がちの恥じらい気味の……アイラブユー!
やべ、はしゃいじゃった。
「じゃあ……脱いで」
「え?」
丁度跨いでくれてるし、折角だから責めて欲しい。
プチプチと釦を外し……見えてくるよぉ!
「ねぇ……次は?」
「?」
「…………………陽季……起きてよ」
――――――――ぷっ。
俺はシャツを肩に掛け、薄い胸板と白い肌を見せて途方に暮れている洸祈を見上げた。
真っ赤な顔だ。
その昔、洸祈は館にいた。
そこで洸祈は清と言う名で体を売っていた。
知らない外を恐れ、館で生きていた。館が全て。生きる為に体を売り……愛を求めていた。
俺は洸祈が求めてるものをあげられているだろうか。
怯える洸祈を抱き締めて外敵から守って……少しずつ……洸祈、泣かないで。
ゆっくりなら大丈夫?
行こう。
俺と一緒に外に行こう。
愛は俺があげる。
だから、おいで。
「だーっこ、してあげる」
「陽季……っ」
笑顔だ。
泣き顔だ。
「おいでよ、洸祈。ポッキーは置いといて、沢山触れよっか」
ころころって喉を鳴らして、可愛いくって、背中を撫でたら、しゃっくりあげた。
泣き虫だなぁ。
ひとりぼっちは慣れてないんだね。
「陽季……好き」
はいはい、俺も洸祈が大好きだよ。
愛してる。