サイバー同窓会
――レッドパインさんが入室しました。
いっちゃん:おぉ、来たね
鈴木くん:こんちゃーっす( ゜▽゜)/
F田:いらっしゃい!
レッドパイン:ども。遅れましたー
いっちゃん:まぁ10分遅刻くらいなら許すよ。未だに来る気配のない幹事よりマシ。
レッドパイン:主催者まだ来てないの?
鈴木くん:まだでーす(;-_-) =3
いっちゃん:これもう開会宣言しても良くない?
F田:え……ちょっと可哀想じゃないかな
いっちゃん:別にイイっしょ。自業自得。
鈴木くん:異議無し(・ω・)b!
いっちゃん:はい、じゃあ元部長、開会宣言して。
レッドパイン:え。俺!?
いっちゃん:お前以外誰が居るの。つうか、「レッドパイン」って、本名そのまんまw
鈴木くん:もうちょっと捻れよなヾ(ーー )
レッドパイン:「鈴木くん」とか「F田」とかの人に言われたくないんですけど……
鈴木くん:いいの。俺は本名の方が個人を特定しにくいんだからd( ̄  ̄)
F田:パスワードあるから、基本チャットルームに知らない人は入ってこないしね。
レッドパイン:あーそうですか
いっちゃん:イイから早く、宣言!
レッドパイン:はいはい
レッドパイン:本日ここに、真崎高校パソコン部・同窓会を開催します!
いっちゃん:イエーイ!
鈴木くん:ヾ(〃^∇^)o <ドンドンパフー♪
F田:よろしくお願いします!
レッドパイン:しかし、流石のネット社会だよな。チャットで同窓会とかさ。
鈴木くん:実際予定合わせて会うとなると、かなり難しいよね(^^;
もう俺等も社会人だし、住んでるトコもバラバラだし(-_-)
レッドパイン:卒業してから10年かぁ、早いなー。
いっちゃん:そもそもこれ、同窓会って言えるのか?
F田:まあいいんじゃないかな。久しく喋ってなかったのは事実だし。
パソコン部らしいと思うよ。
いっちゃん:喋ってるって言っても、画面の文字眺めてるだけだがな
鈴木くん:□_ヾ(・_・ )カタカタ
いっちゃん:この同窓会の発想。幹事持田、インドア街道まっしぐらだな
レッドパイン:それに関しては、俺等も偉そうなこと言えないだろ……
いっちゃん:はぁ? いっしょにしないでくれますぅ?
俺はちゃんと外出てますぅ。実際今も外ですぅ。
F田:え? 何処のパソコン使ってるの?
いっちゃん:会社。現在残業中。
鈴木くん:ヾ(・ω・) オイオイ
レッドパイン:社長。市原くんがサボってます。クビにしてください。
いっちゃん:やかましいわ!
レッドパイン:www
鈴木くん:(^ω^)wwwww
F田:ばれても知らないよw
いっちゃん:俺だって家のPC使うつもりだったさ!
課長のハゲが余計なこと言わなきゃ、今頃ビール片手にチャットしたさ!
鈴木くん:それで溢してPCご臨終するんですねわかります(^ω^)
いっちゃん:相変わらずの黒鈴木っぷりだな。お前みたいな奴は一生独り身だ。
鈴木くん:お生憎様です、僕は既に二児の父であります(*⌒∇⌒*)テヘ♪
レッドパイン:!!!!!
いっちゃん:不条理すぎるだろ!
F田:おめでとう!
鈴木くん:ありがとうF田。お前だけだよ祝ってくれんの(ノω・、) ホロリ
レッドパイン:つーかさ薄情だよな。式とか呼んでくれなかったろ。
鈴木くん:あ、俺ね、諸事情で式は挙げてないの(^^;
いっちゃん:諸事情。やっぱアレか。
鈴木くん:アレですねぇ(^ω^)
F田:アレ?
いっちゃん:俺と鈴木にはある秘密があるんだ。
だから大々的に人前に出るようなイベントは、意識的に避けてる。
レッドパイン:何それ?
いっちゃん:これ、言ってもいいか?
鈴木くん:いいんじゃないですか? 此奴等なら信用できるでしょう(^^;
F田:な、なんか不穏な空気?
いっちゃん:なんか俺達だけで抱えてるのも、しんどくなってきてさ。
誰かに話したい。話すだけでも、きっと気持ちが軽くなると思うんだ。
レッドパイン:勿体付けてないで、早く言え。
いっちゃん:実はな
F田:ドキドキ
いっちゃん:2年の時、転校してった女子が居ただろ?
レッドパイン:ああ、居たねぇ
いっちゃん:表向きは転校ってことになってるけど、本当は行方知れずなんだよ
F田:え?
レッドパイン:ふーん
いっちゃん:校庭の桜の根元に、タイムカプセル埋めたろ?
レッドパイン:転校した女子の話はどうなったんだよ。
いっちゃん:いいから黙って聞けよ。
あのタイムカプセル、妙にデカかったと思わないか?
F田:どういうこと?
レッドパイン:確かにデカかったな。
いっちゃん:だろ? 人一人くらい、軽く入れそうな程。
鈴木くん:……
F田:そ、それってまさか……
いっちゃん:俺等偶然見ちゃったんだよ。
あのタイムカプセルの中に、あの女子が詰め込まれてるトコ。
鈴木くん:犯人の顔もさ
――…………
レッドパイン:それ、警察とかに言った方がよくないか?
鈴木くん:(^ω^)♪
F田:なんで笑ってるの?
鈴木くん:いやー。今、無言の時間長かったねー。5分以上あったよ(^ω^)
いっちゃん:ヤバイ腹痛い……
F田:大丈夫!?
レッドパイン:落ち着けF田。俺達はこいつ等にハメられたんだよ。
F田:ハメられた?
いっちゃん:F田は兎も角、お前までまともにハマるとはな
鈴木くん:いっちゃん、笑いすぎてキーボード叩くと壊れるよ┐(-。ー;)┌ヤレヤレ
いっちゃん:見えてるのか!?
鈴木くん:予想付くよ(^^;
F田:酷いなぁもう……本気にしたじゃないか
レッドパイン:グルになって、タチが悪い。
鈴木くん:グルじゃないですぅ。打ち合わせしてないですぅ。
いっちゃんに乗っかっただけですぅ(・ε・)
レッドパイン:どっちにしろ同罪だ
いっちゃん:あのタイムカプセル、開けるの楽しみだな!
レッドパイン:おい、爽やかな回想で有耶無耶にしようたって、そうはいかんぞ
鈴木くん:つーか転校していった女子って、今の俺の嫁だしね(^^;
いっちゃん:ハアアアアアアアアアアアアアッ!?
レッドパイン:!!!!!
F田:すごーい!
鈴木くん:紆余曲折ありましてね(^ω^)
レッドパイン:ありすぎだろ! というか、嫁を笑いのネタにするな!
鈴木くん:俺は笑いのためなら何でもする男(▼へ▼メ)
F田:笑えないよ……
いっちゃん:なんだか、鈴木にいろいろ負けた気がする……
レッドパイン:けど、そういう怪談っぽい話ってよくあったよな。
鈴木くん:あー、あったあった。真崎高校の七不思議(^^;
いっちゃん:便所のやつと、階段のやつと……なんだっけ?
F田:あんまりよくしらないなぁ
――もっちーさんが入室しました。
レッドパイン:幹事登場。
鈴木くん:遅いよー(・ε・)
もっちー:すまん。もうみんな来てるの?
F田:久しぶりー!
いっちゃん:許さん。お前の奢りで飲み会を開け。
もっちー:みんなの都合が合わなくて、それが出来ないから、
こういう形の同窓会になってるんだろうに(苦笑)
いっちゃん:じゃあ一人一人呼んで奢れ。
もっちー:相変わらず無茶苦茶言うね(汗)つーか、誰が来てるの?
鈴木くん:名前見りゃわかるっしょ(^ω^)
もっちー:いっちゃんと鈴木とF田は分かるよ? レッドパイン……?
いっちゃん:日本語に訳せ、日本語に。
もっちー:赤いパイナップル。
鈴木くん:そんなんだから英語2なんだよヾ(ーー ) パインは「松」ね。
もっちー:は? だって赤松がいる訳ないじゃん。
いっちゃん:本名言うなし。つか、いる訳ないって、呼んだのお前じゃん。
もっちー:だって赤松、卒業して直ぐ事故って死んだんだよ?
――…………
鈴木くん:じゃあ、アンタ誰?>レッドパイン
いっちゃん:ふぁhskljd
鈴木くん:落ち着きなよ、いっちゃん(-_-)
レッドパイン:……
F田:赤松くんじゃないの……?
レッドパイン:……
鈴木くん:何その三点リーダー。腹立つんだけど。何とか言ったら?
――…………
もっちー:ヤバイ、腹痛い
F田:だ、大丈夫!?
レッドパイン:同じく、ハライタイ
いっちゃん:sだlskjdさお?
鈴木くん:だから落ち着きなよいっちゃん。……はいはい、理解しました(-_-#)
F田:え? 何? どういうこと?
レッドパイン:不肖赤松、ぴんぴんしてまーす!
もっちー:つーか今、俺の隣にいまーす!
レッドパイン:ネットカフェで男二人、寂しくペアシートでーす!
もっちー:やーい、引っ掛かった引っ掛かったー!
いっちゃん:マジおぼえとけ。
F田:本当にショックだったんだからね!
レッドパイン:F田ごめん。でも市原と鈴木に関してはお互い様だろ。
鈴木くん:でも隣にいるクセに、もっちーずっと黙ってたんじゃん。
最初から作戦立ててたんでしょ(`ε´)
もっちー:いや、当初は「実は隣にいましたー!」しか予定してなかった(笑)
いっちゃん達がハメてきたから、相談してハメ返してやったのさ♪
いっちゃん:マジおぼえとけ。
鈴木くん:いっちゃん、ほっとして泣いてるよ(;;)
いっちゃん:やっぱお前どっかから見てるだろ!
鈴木くん:予想つくよ……(^^;
もっちー:さぁて、これで全員集合かな?
いっちゃん:俺、鈴木、赤松、持田、福田。パソコン部5人、全員集合!
もっちー:お前も本名呼んでるじゃん……(苦笑)
いっちゃん:まぁ別にイイだろ。知らない奴が紛れる訳でなし。
パスワード入れなきゃ入って来れないんだから。
鈴木くん:あれはパソコン部以外知らないもんねぇ(^ω^)
レッドパイン:禁じられたファイル、「R-paradise」
もっちー:懐かしーな(笑)あの6つ目のパソコンな。
いっちゃん:一番後の列にあるパソコンは、全クラス使用しない。
故に、誰かに見られる心配はない。
部活で俺達に宛がわれたパソコンは前から5つ。
最後尾に位置する6つ目のパソコンは……顧問の盲点だ。
F田:生徒減ってきてたから、授業の時も一番後の列だけ使わないんだよね。
鈴木くん:いっちゃん、こういう時だけ頭の回転早かったよなぁ(^^;
レッドパイン:部活ん時、見まくったもんなぁ……18禁サイト
もっちー:アレ、よく卒業までバレなかったよな(苦笑)
レッドパイン:保存までしてな
いっちゃん:後輩達への遺産を残したのだ。
もっちー:完全負の遺産な(笑)
いっちゃん:何を言うか! 俺達の努力の結晶を!
鈴木くん:そんなことばっかしてたら、そりゃあ部も潰れるよねぇ(^ω^)
いっちゃん:部は消えても、遺産は残る!
レッドパイン:はいはいw
――フクちゃんさんが入室しました。
フクちゃん:遅くなりましたごめんなさい!
鈴木くん:あれ? F田、一回落ちた(・ω・)?
フクちゃん:へ? 落ちてないよ? 今はじめて来た。
つか、「F田」って呼び方するんなら、いっそ本名で呼んでよ^^
「R-paradaise」のパスワード知ってる奴しか入れないんでしょ?
レッドパイン:お前、福田だよな?
フクちゃん:他のフクちゃんがいますか?^^
もっちー:チャット人数、6人になってるよ?
いっちゃん:は? 6?
フクちゃん:部員5人じゃなかったっけ?
F田:……ごめんなさい
もっちー:え? 何コレどういうこと?
フクちゃん:わー僕が二人いる! 何々? どういう仕掛け?
いっちゃん:どうせ福田がろくでもないこと企んでるんだろ。
フクちゃん:企んでないよ? 何の話?
鈴木くん:アンタ誰ですか>F田
F田:ごめんなさい、勝手に入ってしまって。
福田くんのフリをするつもりはなかったんだけど、
あまりにも皆さんがすんなり受け入れてくれたから、言い出しづらくて。
フクちゃん:僕の影武者!? すげぇええええええええええええ!
レッドパイン:福田。ちょっと黙ってなさい。
もっちー:なんで? 俺、5人以外にパスワード教えてないよ?
F田:パソコン部の活動を見ていたもので、ひょっとしたらと思って。
思った通り、秘密のファイル名がパスワードだったので入れてしまいました。
いっちゃん:うわ、遺産バレてた!
もっちー:まぁ、誰かしら気付くかもね(汗)
鈴木くん:チャットするって話は、同窓会サイトで話してたからね。
同期の生徒が見ててもおかしくないのか(^^;
レッドパイン:パスワードはメールで本人にしか分からないようにしたけど、
そのパスワードが勘で当たったって訳か。
F田:いつもパソコン部のみなんを見て、憧れを抱いていたんです。
本当に楽しそうで、会話にまざってみたくて。
いっちゃん:F田さん、女子ですか?
鈴木くん:いっちゃん(-_-;
いっちゃん:浮いた話なんかひとつも無かった俺達パソコン部に、
密やかなファンがいたってことなんだぞ! そこ重要だろ!
もっちー:パソコン部に憧れる女子はないでしょ(苦笑)
男子だよねぇF田さん?
F田:いいえ
いっちゃん:キターーーーーーーーーーーー!
鈴木くん:いっちゃん、会社で騒いじゃダメだよ(-_-;
フクちゃん:ねぇ、僕もう喋ってもいい?
レッドパイン:お気持ちは有り難いんですけど、一応コレ、
パソコン部同窓会なんで。
F田:わかっています。本当にすみませんでした。
――F田さんが退室しました。
いっちゃん:俺のハニィF田ーーーーーーーーー!
もっちー:いつの間にハニーになったの?(笑)
フクちゃん:え……僕いっちゃんのハニー嫌なんだけど
いっちゃん:お前じゃねぇよ!
レッドパイン:Fねぇ
鈴木くん:あれ? 心当たりあるの(・ω・)?
いっちゃん:教えろ!
レッドパイン:いや、何でもない。有り得ないし。
いっちゃん:期待させんなよ!
もっちー:なんかいろいろあったけど、仕切り直そうか。部長宜しくー!
レッドパイン:はいはい。
レッドパイン:真崎高校パソコン部同窓会・改めて開会します!
――……
とある高校の、パソコン室。微かな灯りと、ブーンという音が聞こえてくる。
「あらヤダ、電源入ってる」
見回りの教師が呟いた。
パソコンには一台ずつアルファベットのプレートがかかっていた。教師はそれを読み上げながら、付けっぱなしのパソコンに近付いていく。
「A、B,C………F。変ねぇ、F列のパソコンは使わないことが殆どなんだけど」
教師は画面を覗き込んだ。
――
いつも誰も見てくれない私を、みんなが集まって見てくれたから。
先生の目を盗んでは、わっと一斉に集まって。
楽しそうな顔で、笑いながら見てくれたから。
嬉しくって、懐かしくって。どうしてもおしゃべりしたかった。
ごめんなさい。そして、ありがとう。少しの時間だけど、楽しかった。
――
「嫌だわ、誰か勝手にポエム書いてる」
教師は画面の文字を見て、顔をしかめた。パソコンの扱いなど殆ど知らないその教師は、電源ボタンを押して強制的に終了させた。
画面は真っ暗になって、パソコン室は静かになった。