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れん  作者: 萌葱
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8

 修学旅行の朝、バスの座席に座りかけて篠原の隣に吉田が座っているのに気づき…、思わずため息が漏れた。

 そのまま視線を工藤の席の方に向ければ、案の定その隣には木田が居て…。

 周囲の迷惑にならぬように気を遣ってか声を潜めて、その分近い距離で楽しげに話している姿を見て居られなくて、俺はそこから視線を逸らすと、バスでの移動は睡眠時間に充てることにして椅子に深く腰掛けて目を閉じた。

…眠気なんてきっと訪れない事は判っては居ても、あんな様子をずっと見ているよりはマシだと思ったから。


 修学旅行のコースを決める話し合いを切っ掛けに、工藤と木田の距離は急速に近づいた。

 元々本が絡むと周りが見えなくなるところのある工藤が、自由行動中に単独行動をしたいなどと言い、挙げ句に最初は黙って消えようかと思ったなど言い出した時は、頭が痛くなった。

 けれど、そこまでこいつが望んでいることならば、一時間程だという別行動に付き合っても良いかなどと考えていたら、まさか木田があそこまで豹変するとは。


 高校のサッカー部で知り合った木田は、出会った時から大人びていた

 試合中に皆が熱くなりがちな時も、一歩下がって状況を考察することに長けていて、自分を見失うことが無い。

 学内での成績も殆どトップから落ちたことは無く、それなりの成績を維持している俺も木田には敵わない。

 なのに、それを誇示する事も無く、いつも穏やかな表情で篠原とかがたまにやる悪ふざけなんかも受け入れていて…女に関しては今はあまり興味が無いといって、うまく距離を取り人気の割には面倒なことになっている様子はなくて。

 いろいろな意味でバランスのとれた人間だと思っていたから、ここ最近の木田の工藤への執着には驚いた。


 あの日以来時間があれば工藤に近づき、嬉しげに話しかけている様子にクラスの奴らも不思議そうな顔で見て居て。

 ただ、良くも悪くも二人の間に特別な感情が無いのは明らかで、少し見て居れば同じ趣味を共有できる相手に出会えて夢中になっているだけと判り…。。

 俺はといえば、読書経験と言えば工藤に教わりながら漸くそれが楽しいと思うようになった程度で、二人の会話に入っていくレベルでも無く、その上大会の為に増えた練習時間に、委員としてあいつの側に居る時間まで奪われていた。


 だから、出来れば見られたくない現場が切っ掛けではあっても、中庭で出会えたのは嬉しかった。

 本当は一人で居たいと思っていそうなことは判っては居たけれど、久々に二人で居られる時間を終わりにするのがどうにも惜しくて…、散歩を続けるというあいつに一緒に居ても良いかと聞けば、案外簡単に頷くのにほっとした


「いよいよ、明日だな…」

「私も楽しみだけど、木田くん…寝れなさそうだよね」

「結構長く付き合ってるが、あいつにあんな一面があるなんてな」

「へぇ…、私はこの数日で凄く木田くんという人を知った気がする」

 それはそうだろう、あれだけ一緒に居れば…、それに折角二人で会話をしていても、何故だか此処でも木田の話題になっている事に、苦い笑いがこぼれる。


「まぁ、良く一緒に居たよな、ここ数日…、最初は資料の作成の為だったが、担任の許可が取れてからもよくお前のところに行ってたし、おまけに行きのバスまで」

「知ってたの?」

 驚いたように俺を見るのに、つい、言う気も無かった事を言ってしまった事に気がついた。

「篠原の隣が吉田になってたしな…、部活が忙しくて、最近当番も行けてないし、クラスではお前は木田とずっとなんかしらやって居て…、お前と居るのも久々な気がする…な」

挙げ句、そのまま、止まらず何だか情けないことを口に出していたら


「ん? 寂しかった?」

 冗談のつもりなのは判っていた。

 けれど、言われて俺は納得してしまった…俺はお前の側に居られなくて、木田にお前を取られたような気がして…

 だから

「あぁ」

 なんて、つい頷いてしまったら。

 なんて顔をするんだか…、目をまん丸にして考えもしなかったと言っているような顔で俺を見るから、

「冗談だ」

 そう言うしかないだろう? まだお前の側に居るためには。




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