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れん  作者: 萌葱
4/20

4

なってみると思いの他図書委員は楽だった

仕事は月に一回の全体委員会と週二回の放課後と昼休みの当番

 基本的に当番は同じクラスの男女の二人一組。

 工藤が当然第一での当番を希望したので、俺は部活のない月曜と金曜を希望したら元々希望者が少ないとかであっさり通り、一年からの熱心さが司書にも伝わってた居たらしい工藤は副委員長に推薦されて居た。

 最初は明らかに嫌がっていたけれど、二人いる副委員長の一人は第一の担当をお願いすると言われて引き受けていた。

「週二回だったんだな…お前殆ど毎日居なかったか? しかも、一人だったよな…」

 当番の放課後、相変わらず人間の少ない図書室のカウンターでそう言うと

「あはは、当番じゃない時も顔出してたら、代わってって言われてokしてた」

「お人好し…」

「でもないよ、ココに居たかっただけだし? でも、役職着いちゃったし、後輩の手前これからはあんまりそういう事できないね」

 ちょっと寂しそうにそんなことを言うから…

「お前、何でそこ迄ココに執着するんだ?」

 ずっと気になっていたことを聞いた。

 すると、ちょっと困ったような顔をして口を開く

「あのね…三年前、うち火事にあってね」

 驚いて工藤を見ると、慌てたように

「あ、家族はみんな無事だよ」

 そう言った後、軽くうつむいて

「ただね、隣の家から燃え移った時にはかなり火が強くて…全部燃えちゃったの……ずっと、一緖だった本も…古い本も多かったし…、生活を立て直すのが最優先で本を探したりは中々出来なくて、受験もあったしね…でもね、ここの図書室来た時に驚いたの、私の集めていた殆どがここにあったの」

 気軽に聞いた話に、思いもよらない答えが帰って来て

「悪い…」

 そう言ったら

「ううん、気にしないで、ホント大丈夫なんだよ? 家族はみんな無事だったんだし…ただ…ちょっと…っ…」

 慌てたように笑おうとして、こぼれた涙に驚いた。

 工藤本人も驚いた様子で、慌ててハンカチで目を押さえて深く深呼吸する

「ここに来たときにね古い友だちに、もう逢えないと思ってた友達に会えた気がしたの…びっくりさせてごめん」

 こいつ自身が飲み込み切れていない過去を言わせてしまったと、後悔している俺に対して、一生懸命大丈夫というのが痛々しかった。


 工藤は基本的に自分が執着するもの以外には驚くほど雑で大雑把だ。

 図書館業務の本の整頓や修繕は、几帳面に器用にこなしているけれど、例えばコイツのくるくるの髪の毛は朝起きてとかしっぱなしで来たのがよくわかる。

 くせっ毛に紛れてわからないと思っているようだが、たまに明らかに寝ぐせと思われるハネがいくつかあるのを見つけて、本当に年頃の女かと思ってしまう。

 今まで見てきた女子生徒の筆記用具は、カラフルな色彩のいろいろな小物に、何に使うかも分からないような色のペンであふれていたけれど…隣のコイツは、消しゴムとシャープペンシルと替芯のケースとアンダーライン用の赤ペン。

 少し特徴的なのは金属製のシンプルな15㎝程の定規。

 それらを小ぶりの無地の筆入れに纏めていて、基本それ以外は見たことがない。

 長い髪の毛もどうやら自分の趣味ではないらしく、たまに鬱陶しげに切りたいなどと言っていて…。

 作業の時は結んでいることが多いけれど、普段は引き連れるのが嫌などといって下ろしっぱなしにしていると言うことは、よほど不器用なのか? 本の修繕にはあんなに器用に用具を使いこなしているのに…。


 女子生徒と一緒にいると良く重い荷物などを引き受けていて、委員の仕事をやっていても力仕事があっても俺を頼ろうとしない。

 腹立たしいことに俺よりも背が高く、すらりとしたしなやかな体つきの割に、幼気な童顔はなんともアンバランスで、時により大人っぽくも子供っぽくも見えて。

 基本的に感情の起伏が緩いように見せて、本のことが絡むと眼の色が替わる。

 今まで見てきたどんな女とも違うこいつは、けれど一緒にいるのは楽で…、当然ながら俺に媚を売ることも色気を見せることもない。

 沢山の本を読んでいるだけ有って妙なことを知っている割に、興味ないことはすっぱり抜け落ちているこいつとの会話は面白くて。

 工藤と居る時はいつもより素の自分でいられる気がしていた


 だから、そんな弱い姿を見たことに驚いて、大丈夫と笑おうとして笑いきれずこぼれた涙、それに動揺もしたけれど。

 何よりも、それが切っ掛けでおかしな距離が出来なかったことに、心から安堵した。


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