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工藤が俺の腕の中で、驚いたように俺を見る
「瀬名君は私が女の子っぽくないから一緖にいてくれてたんじゃないの?」
「馬鹿…ずっと好きだったって言っただろ? でも、お前は恋愛なんて全く興味なかったし、そんな素振りも見せなかったから、少しずつ近づこうと思ってたのに…突然離れるから、苦しかった」
こうして、腕の中に閉じ込めていても、何だか信じられなくて情けないことに指先が少し震えているのを気がつかなければ良いと思う。
「俺の気持ちに気が付いて、怖くなったのか、誰か好きな奴でも出来て悩んでいるのかって…」
「瀬名君の気持ちなんて全然知らなかったよ、後半は合ってるけど…」
そんな事を言ってへらりと笑うのに溜息が出る、全くどれだけ俺が悩んだと思ってるんだ…
「生きた心地がしなかった…、良かった、俺で」
「ごめんね、瀬名君は私を友だちと思ってくれてるって思ったから、こんな思いを抱いたら迷惑だろうなって…、そう思ったら気が付かれないうちに消さなきゃって…」
「やめてくれ」
ここ最近気がついたという俺への気持ち、それを必死で殺そうとしていたと聞いて、臆病な俺が、逃げられるのを恐れて意思表示もせずに側に居たせいで、こいつからの恋愛感情を迷惑になるなんて思って居たことに驚くとともに、消えなかったことに心底安堵する。
「大体、何でそんな事考えたんだ? 迷惑だの、距離だの…」
「それは…」
まだ、なんだか信じられなくて、抱きしめる腕を解いたら夢から覚めそうで怖かったけれど、仕方なく腕を解いて、工藤の話を聞くことにする
切っ掛けは、書棚整理の日…。
「あの頃からね、ちょっと私おかしいって思ってて、でも、瀬名君にはそういうの困らせちゃうよなって思っててね、その時にたまたま坂本君と少し話すことになったんだ…」
俺達がミーティングしている時に坂本とした話をポツポツと話して
「坂本君もやっぱり友達としか思ってない子に告白されたら困っちゃってたみたいだし、 それに距離を置けば友達に戻れるかもしれないって…」
「坂本…」
思わず、その名前を低く呟いてしまうと
「えぇっ? 坂本君は悪くないよ? だって、本当にあのときは助かったって思ったんだし、それに気がついた日数考えたらこんなに掛かるなんて思わなかったんだよ、冬華ちゃんにも悪い事をしちゃった」
「坂本は自業自得でもあるんだ、自分から懐っこく寄って行くから勘違いもされやすい
自分が選んで側に居た人間が例え友情と恋情で気持ちがすれ違っていたって、俺は受け止める、大体、距離をおいたり、押し殺そうとすることで余計膨らむことだってままあるんだ…、それを…必死になって、お前は…」
言いながら、けれど得心する部分もあった
恋愛感情なんて欠片も無かったようなこいつが、短期間であれほど物憂げな表情をするほど想いが膨らんだのは、そんな風に押し殺そうとしたからじゃ無いか…?
本来のコイツの心はまだそこまで育っているようには俺には思えなくて…、でも、少しでも俺を好きだと思う気持ちがあるのなら、これからは抑えていた想いを思いっきり注ぎ込んで、もう絶対放さない…そんな事を考えていたら。
「友達に戻れば、まだ一緒に居られるって思ったんだよ…? 離れるのは嫌だったから、でも、寂しかった、早く側に戻りたいってずっと思ってたよ、私は自分で思っているよりずっと瀬名君を好きだったのかもね」
なんて、まっすぐに俺を見つめて少し潤んだ瞳でそんなことを言われて。
…失恋確定の後の思いがけない告白で舞い上がっている俺に、二人っきりのこんなシチュエーションでそんな事を言われたら、理性なんて持つわけが無い。
だからこれはお前が悪いんだ。
俺を見つめる工藤の頬に手を添えて…
「もう、絶対俺から離れようなんて思うなよ?」
そう言って、きょとんと俺を見ている工藤の唇に俺の唇を重ねた。
れん、最後までおつきあい頂き有り難うございました。
このお話は、小説を書き出して、何本か平行で書きたい話を夢中で書いていた中で「何か一本でも、きちんと最後まで書き上げて見よう」そう思って、なんとか終わり迄書き上げることが出来た初めての小説でした。
そしてこのタイトルは、タイトルが決まらず「練習」と言う意味でつけていたファイル名でして…。
ですが、書いているうちに、まだ恋にならない恋、練習の恋みたいな雰囲気を考えたらこのタイトルがしっくりしてきた気がしてそのままで行ってしまいました。
又、れんには続編的なもう一本がありまして、現在はそちらのupを開始しております。
今作とは別の主人公の話ですが、今作の彼らも登場します。
又、時期としては今回の終わりよりも少し前から始まる物語になります。
もし興味を持って頂けましたら、そちらも読んで頂けると嬉しいです
さて、少し内容のネタバレになりますが、実は私こういう形での片思いが大好きでして(後半まではかなりの部分そうだったと思うのですが)…、成就した後の甘い恋愛よりも、想いが繋がる前の、切なさやもどかしさ、やるせなさのようなものに惹かれがちです。
それも、結構一方的な…。
加えて、現代から考えると少し古いと言われるかもしれない、少し前の少女小説の雰囲気が好みでもあります。
そこから、そういう話がもっと読みたい!とついに自分で書き始めてしまいました。 なので、基本的に私の小説はそういう風味が過多かと思われます。
そんな風味がお嫌いで無ければ、今後ともおつきあい頂ければ幸いです。




