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れん  作者: 萌葱
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 やっぱり今日もあいつは来なくて、柏木が図書室に来るのを待って、準備室に籠る。


 もう、随分あいつと話して居ない…。

 いつもならば当番の時はカウンターに並んで座り、嬉しげに最近読んだ本の話なんかを俺にして居て。

 興奮しながら話す様子に思わず噴き出すと、少し膨れながら

「本当に面白いんだよ? 瀬名君だって絶対好きだと思う」

 そんな事を言うのに

「読み終わったら、回してくれ」

 答えると、力の抜けた笑顔で嬉しそうに笑うから…思わず、どんな本よりもお前の方が好きだ、なんて馬鹿な事を言いたくなる。


 けれど、いつか伝えたかったそんな言葉を告げる前にあいつは俺から離れようとして居る。

 工藤は日にちをずらす理由が俺だとは言ってはいないし、吉田も分からないというだけで明言はして居ない。

 わかっているのは、当番日を変えたことと、教室に居る時間を極力減らそうとしている事だけ…、でも俺にはやはり避けられて居るとしか思えなくて…。


 ひとりきりの準備室でため息に埋もれそうになりながら、ふとテーブルの上に目をやると、見覚えのある金属製の小さな定規。

 あいつが持ち歩いている筆入れのなかの数少ないアイテムのひとつ。

 いつもなら簡単に手にとって、忘れてたぞと週明けに渡せばいい、なのにそれだけの事がとても難しいことに思えて、中々手に取ることも出来ずに、ずっとそれを見つめていた。


 月曜日、授業開始直前に教師と同時で駆け込んだ藤堂は、机の中に手を入れると、ビクリと肩を揺らし、恐る恐るというふうに机から出した手のひらの物を見ると、驚いたように俺の方を振り向く。

 目があって忘れ物だ、そう声に出さずに唇だけで呟くと泣きそうな顔をして頷いて…、その顔を見てもう限界だと思った。

 もし、今日も図書室に来なかったら、火曜日の放課後話をしよう。

 俺の想いが、あいつを追い詰めているのなら、もう諦めるしか無い。

 誰か好きな奴が出来て、それで悩んでいるのなら、話を聞くくらいは…するしか無いのかも知れない。


 どちらも、俺にしてみれば最悪の状況で、出来れば明らかになんてしたくはない。

 でも…、こんな状況のまま距離が離れて行くのは我慢出来そうに無かったし、あんな瞳で俺を見るあいつを其の侭にはして置けない。


 そして、月曜日の当番に、どこか申し訳なさ気な顔で図書室に入って来る榎木を見て、俺は覚悟を決めた。


 火曜日の放課後、サッカー部に寄り、篠原に今日は遅れるか、もしかしたら行けないかもしれない、そう言うと

「決めたのか?」

 聞かれて頷き、第一図書室に向かった。

 とにかく、何故委員の日をずらすのか、俺を避けているのか、聞いてみるしか無い…そう動きたがらない足を無理やり動かして図書室に向かうと、目の前の扉を開けた。

 

瞬間

「柏木くん……そうなの、好きなの」

 工藤が柏木に泣きそうな顔で言っている姿が目に入ってきた。

「悪い…。」

 その情景で、全てを理解した俺は扉を閉めてその横にある階段を思い切り駆け登った。

 何処でもいいから、一人になれる場所が欲しくて。


 そして、屋上前の踊り場まで行くと、壁に寄りかかり…体の力が抜けるままに座り込んだ。

 ひと気のないそこは、俺には見慣れた場所、その先の屋上で散々告白されて断って来た。

 そう、だからこれは俺の番が来ただけだって、大した事では無いと笑おうとしてるのに…。

初めて本気で欲しいと思った奴に、他に好きな男が居た…それだけの事なのに、胸の痛みに動く気にさえなれなかった。


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