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ごめんなさい、思いっきり季節が外れています…。
こればかりはちょっと、違うエピソードにするのが無理でした。
「工藤?」
サッカー部の恒例になっているクリスマス会
結構社会的な力を持つOBが出資して毎年開かれているというそれは、新年になると毎年付き合いでかり出される、親の所属する社交クラブの新年会と似た雰囲気で俺はあまり好きになれない。
けれど、食材やデザートが豊富に並び、煌びやかな会場の雰囲気は部員の楽しみでもあり、こういう場での繋がりが今後俺達が社会に出ていった時の強みにもなるのを昔から見ている俺は、多少の煩わしさは感じても断るというわけにも行かなくて、毎年複雑な思いで参加している。
けれど、今年はその見慣れた光景に思いがけない顔を発見して……。
思わず声をかけると、ほっとしたような顔をして、俺をみて、流石、様になってるね…などと言っているこいつは…。
何時もは緩やかなカーブを描く髪の毛は艶やかなストレートのロングヘアー、厚化粧にならない程度に薄めに施されたベースメイクで、何処か幼気な頬のラインはすっきりと整えられて、何時もより少しキツめにきりりと整えられた目元は不安気に少し揺れていて…。
俺と同じくらいのはずが、ヒールで俺より少し高くなるしなやかな体は薄い黒のスリップドレスとその上にシースルーの青い紗のドレスを纏い、薄い銀色のストールでむき出しの肩を覆っていて…。
「恵ちゃんに色々お世話になっちゃったんだけど…こんなの初めてて、おかしく無い?」
などと、心配そうに聞いてきて、どうにか
「悪くはないと思うが」
なんて、やっと答えた俺にほっとしたように笑う姿は、何時もより少し大人っぽくて
妙に落ち着かない。
「凄いパーティーだね~」
「うわっ! 臨時マネージャー? 化けるねぇー!?」
「工藤さんなのか?」
不安気にあんな場所に一人立っていた工藤を多少気が進まないながらも、部員の方へを誘導していくと案の定囲まれだすのが少し面白くない。
けれど、身の置き所がない様に固まっていたのが、知った顔に囲まれてほころぶ姿に仕方が無いかと、少し、離れた場所で見ていると、妙にニヤつきながら篠原が
「良いの?」
なんて軽口を叩く
「何がだ?」
「へー、余裕あるじゃん」
言いつつ、隣のイスに座る篠原は
「いや、大会見に来てたOBが工藤さん見て、妙に気にとめてね、臨時のマネージャーだって言ったら、あれだけ働いているのだから、是非クリスマスにって言われて、こういうの苦手そうだから断ろうかと思ったんだけど、恵がたまにはいいんじゃない? 洋服とかは面倒みるよって言うから任せたんだ…、いやー、化けるタイプだね彼女、普段は童顔なのに随分大人っぽく見える…」
成る程、だからここに居るのかと思って居ると
「篠原、瀬名、久しぶりだな」
後ろから、この会の主催をしている久世先輩に声をかけられた。
今期の活躍について聞かせて欲しいと言われて、その場を離れることになり、立ち去り際に工藤が気になって様子をみると、少し慣れてきたのか坂本達と笑っている様子に、まぁ、大丈夫かと先輩の背中を追うことにした。
会場のホールを出てすぐのホテルの一室のドアを開けると、そこに先輩の婚約者でもある当時のマネージャーだった佐原先輩と吉田が居て、吉田は俺の顔を見ると、少し驚いたような顔をして
「愛海大丈夫かな? 入り口で別れることになっちゃったんだけど」
そう言うから
「さっき来た時に見つけて、今は部員たちと一緒にいるから大丈夫だと思う」
そう答えると、少しほっとしたように笑った。
「愛海ちゃんって、例の臨時マネージャー?」
吉田と話していたら、佐原先輩が話しかけてきて、そこから今期の活躍と臨時のマネージャーを務めた彼女の話になった。
「悪かったな、今期は評判は聞いていたのに、殆ど顔を出せなかったから話を聞きたかったんだ、後は会場に戻って楽しんでくれ」
そう言って久世先輩が席を立つ。
「失礼します」
そう言って篠原達と部屋を出てホールに戻ると
「あれ…? 愛海は?」
戸惑ったように吉田が呟くのに、俺達を見つけるた一年のマネージャーの谷口が駆け寄ってきて
「先輩、工藤先輩が私庇ってお酒飲んじゃったんです! 今、坂本先輩が一緒に控え室に行って休んでいるはずなんですけど」
「何でそんなことに!」
驚いた様に言う吉田に答えようとする谷口の返答は気になったが、それよりも、坂本と二人で控え室に下がったという工藤が気になって、そのままその場を離れることにした。
カチャリ
会場の隣に設置されている控え室のドアを開けると、奥の椅子で水を飲んでいる工藤とそれを心配げに見ている坂本が居て
「一体何があったんだ」
二人に近寄ると
「あ、瀬名くん」
飲んだという酒のせいか少しとろりとした目付きで俺を見る工藤。
「高峰が谷口に何だかんだと話しかけて来て、谷口がキツそうだって工藤さんが助けに行ったんだ、そしたらあいつ、妙にニャニやしながら、これ飲んだら離れてやるとか言ったらしくて、少しは警戒すればいいのに、工藤さんたら一気飲みしちゃうから……」
高峰というのは5期ほど上の先輩で、サッカーは兎も角、女癖はあまり良くない事で有名で…、とは言え今までは余り大きなトラブルも起こしてないから、出入り禁止にするほどでもなく、マネージャーの間ではそれとなく近寄らないように注意していた存在だった。
けれど、今回はその前に吉田が場を離れてしまったから狙われてしまったのだろう。
「もう、大丈夫だよ?坂本くんパーティー戻って」
工藤がそう言うと
「でも…」
まだ、心配げに工藤を見るのに
「俺がかわる」
そう言うと
「ま、瀬名の方が落ち着けるかな? 皆も心配しているだろうし大丈夫そうだって言ってくるよ」
そう言って坂本は控え室を出て行って…途端
「ふぅ…」
ため息を付いて横の壁によりかかる工藤。
俺を見上げながら
「失敗しちゃった、まさかお酒だなんてね」
そんな風に笑いながら言うから
「無茶するな、会場にいないから驚いた」
答えると
ごめんね、なんて言いながらクスクスと笑って
あぁ、壁が冷たくて気持ちがいい…なんて言っていて
「…おまえ、結構回ってないか?」
「さっきまで気をはってたんだけど、瀬名くん見たらなんか安心しちゃっ…った」
「…おい?」
そのまま意識を手放されて呆れてしまう
「安心…って、馬鹿」
本来は一番気をつけるべきな俺相手にそんなことを言って眠る馬鹿が居るかと思う。
その無防備さは俺に対する信頼だって知っているけれど、それでも少しは男としてみてくれないかとため息が出る。
けれど、その信頼を壊す訳にはいかないから…着ていたスーツのジャケットを工藤にかけて、数歩ほど離れた席の椅子を引いて、目覚めを待つことにした。
この距離が俺の理性を守ってくれることを祈りながら




