12
工藤!?
吉田の紹介で少し戸惑いながら宜しくと頭を下げるのに驚いた。
臨時マネージャー? そういえば大会の準備期間とその最中は仕事が増えて人が足りないと吉田が困っていたのは知っていたが…。
「お前、委員は良いのか?」
部活中は中々話しかける時間も無くて、教室で休み時間になっていつものように小説を机から取り出した工藤に声をかける。
「ん?」
「臨時マネージャーなんて…」
「あぁ、うん、恵ちゃんも困ってたし、私もついつい当番じゃない日もあそこに顔を出してて、用事があるので帰って良いですかとか言われると断れなくてね~、司書の先生に、断るか控えるか、いっそ暫く当番抜けるかしなさいって言われたばっかだから、いっそ良いかなーって…」
へらりと笑いながらそんなことを言うのに呆れる、こいつ二年になっても結局続けてたのか…。。
「でも、何か、司書の先生嬉しそうでね、あなたが図書館より優先するものがあるなんて嬉しいわって…、私そんなかな?」
「そんな、だな、間違いなく」
「瀬名君まで…」
不満げな顔で俺を見るのに、自覚が無いのかとおかしくなる。
当番の日は貸し出し回数の多寡にかかわらず、古い本だからとこまめに補修作業をして、暇さえ有れば書棚を眺めて順番の入れ替えなんてしてて、その上当番でない日まで日参してサボりがちな生徒の当番まで代わってたら、フォローのしようが無いだろう。
あの書棚に向ける視線の何分の一かの熱でも俺に向けてくれたら…、俺は此処まで臆病にならないで済むんだが…。
高校生にもなれば、ましてや女ならば、もう少し恋愛に興味を持っても良い頃だと思うのに、こいつは全く興味がなさそうで、男の友人としてはかなり近い場所に居るんじゃ無いかとは思っているものの、そのラインを越えれば、怯えて一気に逃げるんじゃ無いかと思うような危うさがあって…。
自覚して以来、本当はこの関係を変えたいと思いつつ、実際の俺はそれが怖くて気持ちを隠したまま側に居ることしか出来なくて…。
「冬華ちゃんには少し迷惑かけちゃうけどね、私が抜ける分はやっぱり分配するしかないし…、他の子は兎も角、真面目なあの子に迷惑はかけたくないんだけど…」
そんな事を言っているが
「榎木なら問題ないだろ、あいつも結構な図書館馬鹿だと思うぞ? 当番以外の…お前の当番日とかも顔出してるし」
こいつと仲の良い一年下の後輩、榎木冬華はこいつに並ぶくらいのすらりとした長身に黒縁の無骨な眼鏡、けれど造りそのものはそんなに悪くないんじゃないかと思っているのだが、これがまたこいつとはまた毛色の違う変わり者で…
一見落ち着いた人間に見えるのに、やはり本が絡むと常に無い行動を見せる上に、大好きなジャンルは時代小説と歴史小説。
管理はしたいと思いながらも工藤の苦手なジャンルだったらしく、、榎木が詳しいと知った時はえらく喜んでいて…。
同じくあの図書館に惚れ込んで居るのは見て居れば明らかだったからそう言うと、工藤は、ちょっとほっとしたように笑った。
「かな? まぁ、冬華ちゃんも大丈夫ですよって言ってくれたんだけどね、それに今更マネージャー辞めるとは言えないしね」
「…手間をかけて済まないな」
「ううん、瀬名君の手伝いできるのは嬉しいな、それにサッカーしていると、格好良いね、流石王子ってちょっと思った、って、こんなこと恵ちゃんに聞かれたら馘首になっちゃうかな?」
「……サッカーしてる時はって、どういう意味だ」
言われ慣れた言葉だったけれど、工藤からそんな風な言葉が出るのは初めてで、驚きを顔に出さずに、表向きは憮然とした風を装ってそう答えたけれど、こいつの口から漏れた思いがけない言葉に鼓動は少し早まって…。
「ん~、ボール追いかけている時って上空から敵兵目がけて突っ込むドラゴンみたいだよね!?」
我ながら、的確な表現! などと満足げな工藤に、一瞬でも甘い期待をした俺が馬鹿だったとため息が漏れた。




