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屍使い  作者: コウテン
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行商人マイリマの隊商がいつものようにのんびりと街道を進んでいた。


しかし、森のそばに差し掛かった時、不意を突くかのように緑色の肌をした何かが現れた。

人間の体に豚の顔を持ったオーク達だ。


「やべえ。オークの群れが現れたぞ」

「早く。速度をあげろ!もっとだ。早く」


御者に鞭を入れられ、年季のいった幌馬車が速度を上げ始める。


オーク達は布の服に棍棒といった簡素な出で立ちであったが、その力は普通の人間よりは強く、

何より群れでくるのが厄介だ。余程の事が無い限りは逃げるのが慣例であった。


街道を速度に乗った幌馬車が跳ねていく。と、運悪く1つの幌馬車の片車輪が

道端に落ちていた大石に乗り上げてしまった。

まずい。誰かがそう思った時には既にその馬車は横転していた。


だめだ。止めれば追いつかれる。だが、彼らを見捨てていくのか。


マイリマの頭が判断に迷っていた刹那の時、街道に飛び降りる影があった。


「俺が行く」

「ちょっと、勝手に」

「あとで修正してやる」


そんな声と共にその後を追う影が3つ。彼らは隊商の護衛だ。

しかし、唯の護衛とは訳が違う。大人一人に子供が3人という組み合わせ。

護衛するから町まで乗せていってくれと頼まれ乗せていたのだが、嘘も方便、

マイリマは本当に彼らが護衛として役に立つとは思っていなかった。

袖刷りあうもなんとやら。そんな軽い気持ちで承諾したが、本当に護衛だったらしい。


「スピード落とせ。警戒は怠るなよ」


マイリマは少し離れた場所に他の馬車を待機させ、成り行きを見守ることにした。


「おい、俺は手を出さないからお前たちだけでやってみろ」


パーティの中で唯一人の大人であるグレイが大剣を地面に突き刺して、その場に居立った。


「こんな奴ら、俺一人で十分だぜ」

「うわ。手抜きだ。さぼりだ」

「ええと。オークの弱点は……」


それぞれに異なった反応を返しながらも、子供達に脅えの色は見られなかった。

変わりに離れて見ていたマイリマが子供達だけで大丈夫かと肝を冷やしていた。


間もなく、オーク達が数10mの位置にまで追いついてきた。

子供達は横転した馬車を背に怪物共を迎え撃つ。


「よし、行くぞう」


小ぶりの剣に皮製の鎧をつけた戦士タイプの装備をしているのがパイロウだ。


「あんたは最後よ」


弓に体重をかけ、弦を張っているのがティン。


「まず、僕とティンが遠距離から攻撃するよ」


柔らかな白いローブに身を包み、杖を構えているのがオーマン。


「ああ、俺も遠距離攻撃したい」

「腕をもっと磨くことね」


パイロウの嘆きをティンが斬って捨てる。

パイロウは短剣を投げるとどっかに行くし、矢を放つと何故か横に飛ぶという特技を持っていて、

お金の無駄とか危ないから余所でやってと言われるため、今の所、遠距離攻撃の手段を

持っていなかった。仕方がないので一歩後ろに下がる。


ティンは弓を構え、矢を1つ2つと放つ。矢は小さな弧を描いて、無防備に駆けてくるオークの額や首に吸い込まれるように刺さって行く。


その横でオーマンが呪文を唱える。

「炎を統べる者、熱き心の持ち主よ。……なんだっけ?どこまでも熱く燃え上がれ?!ファイアー」

呪文の終わりと共に中空に小さな火の玉が現れ、オークへと向かっていった。

当たるとオークが破裂して吹き飛んだ。


こんなんで魔法を使えるんだからなあ。

魔法が使えないパイロウは正直、オーマンがうらやましい。


ティンとオーマンの攻撃でオーク達は怯み、足が止まった。


「次は俺の出番だ!」


パイロウがオーク達の群れに単身で突っ込んでいく。


なすすべなく遠距離から攻撃されていたオーク達は恐慌を来たしており、

さしたる抵抗もない。パイロウはまるで練習用の案山子を相手にするが如く、

剣を振るっていく。


「パイロウ、後ろ!」


ティンの声と同時にオークの棍棒が唸りを上げてパイロウに襲い掛かる。

だが、パイロウの後に目がついているかのように、僅かに体を傾けただけでそれは空をきった。


「オークなんかにやらせるかよ」


棍棒をおろしきり、隙だらけになったオークの首をそのまま撥ねる。


パイロウの他の才能は恐らく母親の胎内に置き忘れてきたのだろうが、ただ1つ、剣の才能だけはあった。パイロウの周囲には小型の竜巻が出来たかのように、オーク達は切り刻まれ、絶命した。



「よし、もちあげるぞ。せーの!」


幌馬車を使用人達が持ち上げるのを横目で見ながら、マイリマは小さな護衛達にお礼を言っていた。


「君達のお陰で事なきを得た。本当にありがとう」

「俺たちがいて、運が良かったな」

「ちょっと、何でそんなに偉そうなのよ」

「護衛だから護衛するのは当たり前なのに」

「いやいや……1人の犠牲も出なかったんだ。君達のお陰だよ」


まさか、全く期待していなかったとマイリマが言うわけにもいかない。

マイリマにしてみたらたまたま拾った汚らしい壺を開けたら黄金が入っていたような気分なのだ。


「何か欲しい物があるならお礼に買ってあげよう」


つい、子供に何かをあげるような気持ちでそんな事を言ってしまう。


「そんなーいいですよー。でも、くれるっていうのなら……」


言葉と裏腹にティンの目がお金に変わる瞬間だった。


「俺、剣が欲しい」


だが、パイロウに先に言われてしまった。


それはちょっとあつかましい。さすがに剣ともなれば値が張る。

そこまでの働きはしていない。せいぜい、スイーツくらいだろう。

むしろ、剣よりスイーツが欲しい。


ティンがそう言おうとした時、パイロウが自分の剣を鞘から抜いて見せた。


「ほら。俺の剣、ぼろぼろで使い物にならないんだよ」


マイリマがその剣を受けとり、まじまじと見るとそれは剣というより鉄の棒切れだった。

既に刃は潰れ、無数の傷がついていて戦闘で命を預ける相棒としては明らかに役不足だった。

マイリマは剣とパイロウの顔を見比べ、先刻の戦闘を思い出す。


そして、パイロウを見てにっこりと笑った。


「分かったよ。じゃあ剣をあげる」


マイリマは商人だ。恐らく、彼らはこの先有名になるに違いない。この段階で恩を売っておいても損は無い。そう思うと同時に、去って行く彼らの背に心の中で声をかける。


「良い旅を」



主人公はパイロウ君です。

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