魔法の重さ
テーブルには様々なハーブや落ち葉、小石。
そして、ロッソは傍らに置いていた鞄から小さな天秤を取り出して、それらの横に置いた。
「この天秤は重さではなく、魔力の強さを量ることが出来ます。」
ヴィオラは初めて聞く「魔力」という言葉に首を傾げた。
「魔力とは、簡単に言えば魔法の力。魔法使いは魔力を操って、魔法を使います。植物にもその力が宿っているんです。」
そして、テーブルの上から小石と手の平ほどの大きさの葉っぱを手にして、目の前のヴィオラに見せた。
「この二つではどちらが重いでしょう?」
ロッソの問いかけに答えはしないものの、視線は小石へと注がれている。ヴィオラが知っている限り、葉っぱ一枚よりも小石の方が重たくて当たり前なのだから。
「そうですね。一般的には葉よりも小石の方が重い。ですが、この秤にかけると…」
ヴィオラの視線を読んだロッソは二つ同時に秤にかけた。
すると、カンっという金属音と共に葉っぱの載った秤が沈んだ。
それを見て、ますます首を傾げるヴィオラ。そんな様子をミセス・ブラウンは嬉しそうに眺めている。
「この葉は強い力を持ったハーブです。この小石にも力はありますが、ハーブの方が強さは上です。では、この葉とここにある落ち葉ではどうなるか…」
そしてまた、二つ同時に秤にかける。
今度はゆらりと一瞬振れた後、落ち葉の方に傾く秤。
ヴィオラは人見知りしていたロッソの存在を忘れて、食い入るように天秤を見つめている。
徐々に近づいていくロッソとヴィオラ。
もとい、天秤とヴィオラ。
「では、今度はこの花びらとこの木の実…」
ヴィオラが興味を持ってくれたことが嬉しくてテンションの上がっていくロッソ。
次から次へと色んなものを秤にかけてヴィオラに見せた。
「最後に、このハーブとこの石を比べてみましょう。」
ロッソの前には細長いイネの様な葉と拳サイズの石が置かれている。
そして、どこから出してきたのか大きなハサミを握って微笑むロッソ。
「このまま比べるのではおもしろくないですね。」
それでは、と先に石を秤に載せてから、ハーブをヴィオラの前に掲げて見せた。
「少しだけ、この葉の先を…」
そう言いながら軽やかにハサミを握った瞬間、よく見ようとしたヴィオラの頭が近づいた。
シャキン!
「「「あ」」」
ロッソ、ミセス・ブラウン、ヴィオラの三人が同時に声を上げる。
近づきすぎたヴィオラの髪がハーブと一緒に切られてしまったのだ。
はらりと羽のようにヴィオラの髪が舞い落ちた。
そして…
ガコン!と音をたてて庭の端へと飛んでいく石。
「「「え?」」」
三人の視線が集まる残された秤にはヴィオラの髪の毛。
呆気なく傾いたもう片方は空っぽになっている。あまりに勢いよく傾いたせいで石が吹っ飛んでしまったのだ。
「なんで?」
ぽそりとヴィオラは呟いた。
その顔はきょとんとしており、状況が飲み込めずいるのか首を傾げている。
一方、ロッソは思案顔で秤を見つめていた。
『やはり、彼女には強い力が秘められているのか。』
幼い頃から隔離されてきたヴィオラ。
その理由の一つに強すぎる力があるからだ、とネロから聞いたことがある。
しかし、これほどまでだとは思わなかった。
なぜなら、先ほど飛んでいった石はパワーストーンと呼ばれる類だったからだ。しかも、高位の魔法使いしか操ることの出来ない強い力を持った石。
「ほらほら、ヴィオラ様。初めてお勉強してお疲れでしょう?甘いミルクティーを淹れましたよ。」
ミセス・ブラウンの快活な声が沈黙を破り、ヴィオラとロッソは我に返った。
立ち上がったままだったヴィオラは席に着き、差し出されたミルクティーをゆっくりと飲み始めた。
ヴィオラの髪を見てしまうロッソ。
「ロッソ様もありがとうございました。こちらはブランデーを数滴加えたコーヒーです。」
そう差し出されたカップからはコーヒーとほのかにブランデーの香りがする。
一口飲むと、豊かな香りが神経を解していった。
しかし、やはりヴィオラの力については思うところがある。
『城に帰ったらネロに問いただしてみよう。』
答えを得られるかはわからないが…
ロッソは恐ろしく口の堅い幼馴染を頭に浮かべ、苦笑いを浮かべた。