第一話
寝転がったベッドの上で両手を伸ばす
何も持っていない手の内に剣を握るようなしぐさをして呟く
「エクスカリバー」
シュポン
手の中にエクスカリバーが出現した
その間0.5秒
……なんかゲームの中にあった伝説の武器を現実世界で自由にとりだせるようになった
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俺は湊陽一
医療系の大学に通う4回生の23歳だ
昼過ぎから大学の研究室で実験を繰り返し、夜に帰宅したらそこから朝方まで「ソーマファンタジー」をストイックにプレイする……
日々そんな生活をしている
ソーマファンタジーはとてもよくある、剣や魔法や武術やら召喚術やらが活躍する世界
主人公は多くのクラスに自由になることができ、国家直営の冒険者ギルドに所属して冒険者ランクを上げたり、伝説の装備を集めて自己を強化して満足感を得るタイプのオンラインゲームだ
高校に入った頃からプレイしているゲームな上に、大学に入ってからは重課金なのでステータスは最強
数年かけて入手するような装備を何種類も揃えすべてのジョブも最高レベル
一部のジョブに関してはマスターレベルというさらなる強化も終わっている
全てを制覇し、もはや日課をストイックにこなすだけの生活であったのだが、先日新たに実装されたエンドコンテンツのボスとの戦いで久しぶりに時間を忘れて熱狂し、ついつい朝までプレイしてしまった
ほとんど睡眠をとらないまま実験データを回収に学校に行こうと自転車に乗り、ふらついて用水路におちて流された
どれぐらいかはわからないが意識を失い、目が覚めたらソーマファンタジーの中にいたのが昨日
そしてエンドコンテンツのボス「カオスドラゴン」をもう一回、今度は「リアル?で」退治したら向こうの女神さまにお礼を言われ、気がついたらいつもの一人暮らしの部屋のベッドの上にいた
それが今
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そして(冒頭に戻る)俺の手の中にはなんか伝説の剣がある
どうやらソーマファンタジー(略してソーファン)で手に入れた装備、すべて呼び出し可能なようなのだ
何と表現すればいいのか難しいが、どうやら向こうの持ち物やステータスをすべて今のこの現実世界と共有しているとでも言えばいいのか
そしてゲームなどにありがちな、どう考えても持ちきれない量のアイテムをなぜかいつでも呼び出せる状態で持ち歩けているようなのだ
最初は動揺したものの、数時間経った今はかなり慣れた
ソーファンにおけるエクスカリバーの性能は……
・時々自分のHPに応じた追加ダメージ
・特殊必殺技使用可能
そして…
・装備している限り持続的にHPが回復
さらにソーファンの世界では、独自の設定により『現在の装備を見た目に反映させない』
ができるので抜刀しない限り周りからは見えない
つまり理論上、回復量を上回る攻撃を持続的に食らわない限り死なない
「竜鱗甲」
再び呟いてみる
ズシンっと身体に重量が来る
龍の鱗を加工して作った伝説の鎧だ
・火水土風雷氷攻撃に耐性
・一定の割合で属性攻撃を吸収
そして……
・最大HPの10%以下のダメージ無効
設定でこれも外からは見えないようにする
さすがに信用しきれないのでガスコンロに火をつけて恐る恐る手を差し伸べてみる
が、熱さは感じない
なんとなく熱いものだという温もりは信号として感じるという丁寧さ
冷凍庫から氷を握りしめても同様
冷たいものだという実感はあるが永遠に握りしめてられる
キャラ時のステータスの記憶であれば、自分の最大HPは3000ほど
日常におけるダメージというものがどれぐらいなのかわらないが、300以下のダメージならば無効という事になりそうだ
どれがどれぐらいのダメージなのか、少しずつ検証してみたい
エンドコンテンツで手に入れた装備は全部こんな感じ
そしてそれがなんというか脳内の倉庫内に多数存在し、いつでも呼び出せる
異状設定はそこで終わらない
さらに風呂場のドアを開けると…
なんかしらんがどこかの森の中の大木の根っこの間につながるようになった
草の匂いや土の匂いはどことなく異世界を感じさせる
「おかえり?」
そこにいたのはエルフのような尖った耳をした
一見小人のようなとても小柄な女性
「うん」
リアルに(?)会ったのは二回目だが俺はこの女性を最初から知っていた
なぜなら……明らかにこの妖精族の女性は、俺がソーマファンタジーの中で二アカウント目のキャラとして動かしていたキャラクターだからだ
ゲームの中では俺自身が動かしていたキャラだが、今目の前にいるこの女性は明らかに自分の意思で普通に生きている……
名をマリチといい、魔力と素早さの基準値が膨大な半妖精の種族だ
もしこの見覚えのありすぎる異世界人が自分の知っているマリチであれば、すべての魔法を極めた魔導士であり、なおかつ世界のすべてを殴りで破壊する格闘家だということになる
とはいえ今は明らかに自分が動かしているキャラなどではなく自分の意思で動いている他人なので、そこは丁寧に敬意をもって確認していきたい
マリチは俺の顔を見るとにっこり笑って言った
「そろそろ砂漠の皇帝が湧くころだよ。行くやんね?」
「え、ああ」
会ったのはほとんど初めてなわけだが、向こうは旧知の仲で長い間ともに冒険してきた相棒という体で接してくるのが不思議な感じだ
そしてこちらもよく知っている(?)人物なのでそれならそうと違和感はない
まるで幾度となく繰り返してきた作業であるかのように冒険計画を立て始める
様々な目的のあるソーマファンタジーであるが、メインのストーリーよりもキャラの強化の方に重点が置かれている世界である
強い装備を手に入れる手段は大まかに分けて二つ
古に失われた伝説の武器を手に入れるか、強力なモンスターを倒して入手するか(または手に入れた素材を加工)
伝説の武器は他人に譲渡したり売ったりできない設定なのだが、モンスターから手に入れた武具やアイテムは他人に売却することができ、これがこの世界の冒険者における大きな収入源となっている。
『砂漠の皇帝』
広大な砂漠に雨季が訪れた際、ほんの短い期間だけ出現する巨大な古代昆虫の一種である
多くいる個体の中で特別に強力なモンスターには固有の名称が与えられることがある
この個体もそういう存在のうちの一体だ
そういったモンスターをこの世界ではネームドモンスターと呼んでおり、彼らは希少な装備や素材を落とすことが多い
とはいえ今回の砂漠の皇帝は俺の中の知識に照らし合わせると強さ的には中級で、並以上の冒険者であれば手こずることはない
そこそこ腕に覚えのある冒険者の小遣い稼ぎにはちょうどいいのだ
「さっそく行こか~」
道具の数などを確認し下準備が終わったのを見るや否や、彼女は呪文の詠唱を開始した
このあたりがもう良くも悪くも効率を重視するベテラン冒険者である
移動魔法は本来は長大な詠唱時間を要するのだが、高レベルかつ高性能装備の為マリチの呪文の詠唱時間はほとんどが省略され、すぐさま効果は発動する
ブォォーーン
唸るような音とともに辺りは闇に包まれ、急に強い光が差し込んだかと思えばそこは広大な砂漠である
ー熱砂の砂漠ー
広い遠浅の海に面した鳴き砂の砂漠で、連日強い風が吹く
砂は強風によりはるか遠くの大陸から飛んできたものが積もっていったもので
砂漠というよりも海に面した砂丘とでもいう地形か
強い光を反射してキラキラと光る砂の上には陽炎が揺らめいている
点在している岩の周辺には雨水がたまり、南国風の木が密集して生えている
その中でもひと際大きな木々が集まっている場所にそれはいた
砂漠の皇帝、デューンエンペラー
ムカデにトンボの羽が生えたようなデザインで浮かんでおり、サイズはとにかく巨大だ
クジラぐらいあるかもしれない
「タイミングよく沸いてるね。ありがたいな」
ソーファンの世界におけるモンスターは、一度倒した後に再び出現するまでにかなり長い時間を要するものも多い
もっとも、今自分が立っている世界がどのような法則で成り立っているのかはわからないが、基本的には同じだと勝手に推測しておこう
となると砂漠の皇帝の再ポップ時間は72時間
しかもある程度のずれがある
到着が早すぎるとかなり待たされるし、遅すぎると誰かに狩られてしまう
ゆえに今のこの状況はかなりラッキーというわけだ
と、おもったが……
「あれ~?……誰か先にやってるなぁ~……」
マリチが苦笑いをしながら呟く
たしかに近づくにつれ、剣がモンスターの固い装甲にあたる音や、魔法の炎がはじける音が聞こえてくる
だがさらに距離を詰めているとなんとなく様子は不穏なようだ
「なんか負けそうやね」
マリチがそう呟くのと同じぐらいのタイミングで前衛にいた戦士風の青年が大きく弾き飛ばされた
「マズいな」
「手伝おっか」
マリチが詠唱を始める
「宇宙を統べる星界の王、いでよ真竜」
呼び出す者の名を唱えつつ、手を複雑に交差させる
すると目の前に現れた光の魔法陣から巨大な銀色の竜が現れる
「あー…やっぱマリチは召喚できるんだ…」
思わず苦笑してしまう
てことは多分だけど俺もクラスチェンジしたら可能ってことだよな
俺とマリチは基本的にずっと同じクエストをこなしてきているので、装備こそ別々に特化しているがスキルはほとんど共通である
とはいえ今の自分は魔導剣士である
ソーファンの世界ではアビリティや魔法は、現在メインに設定しているクラスのものしか使えない
魔導剣士は精霊たちの力を取り込んで防御力や攻撃力を飛躍的に高めるクラス
防御力に関して言えば、ナイトと並んで世界最硬である
「エンチャントスピリット、氷神」
魔法と違ってアビリティ使用には詠唱は必要ない
一瞬にして氷の精霊の力をまとった自分の身体の変化を肌で感じつつ
剣を抜いてデューンエンペラーに近づく
モンスターは前衛風の金属鎧を身に着けた青年を弾き飛ばし、次に後ろに控えていた回復専門のクラス、白魔導士を攻撃しようとしていた瞬間だった
ギギッ!
背中に背負った剣を抜き放った俺の気配を察知したのか突然方向転換してこちらへ向かってくる
「ヨーイチのヘイトの方が圧倒的に勝ってるみたいね」
この世界にはヘイトという概念がある
要は行動を起こした際にいかに敵を引き付けるかということだ
殺気みたいなものだと考えればわかりやすい
元々盾ジョブを好んでいたせいで俺の装備は基本的にとてもヘイトが上がりやすくなるスキルが付与されていて、平たく言うととても敵に襲われやすい
モンスターはまっしぐらに俺に向かって攻撃してくる
が……
ガギギギッ
かじられてもダメージは入らない
「こいつクラスだと無傷か。原作準拠だな」
中級クラスのネームドモンスターだと手こずることはないようだ
ということはこの世界での俺のステータスはゲーム時代のものをそのまま引き継いでいるようである
「誰かわからないけどありがとう!」
「助かります!」
そしてもう一人横に控えていた狩人風の青年もお礼を言ってくる
「かたじけない…」
どうやら俺たちよりも先に戦っていたこの冒険者の3人組はまだまだ中級クラス
おそらく全力をだして勝てるか勝てないかというレベルだろうか
「倒しちゃってもいいかな?」
ガスゴス殴られながらもノーダメージの俺を見ながらマリチがぼそっと言ってきた
先に戦っていた彼らの手柄を横取りするような行動はあまり推奨されないが、俺が殴られながらボーっとしているのも変な話なのでしばし考えた後、仕方なくうなづいた
「了解した~。では真龍の咆哮。世界を制する~滅びの光~」
のほほんとした詠唱の後、マリチの前に浮かんでいた竜が空中に躍り上がり、強力な閃光を迸らせる
目の前の敵に集中して死闘を繰り広げていた三人
ようやくマリチが従えていたのが最高位の召喚獣であることに気づく
『はわああああ最高位召喚術…!!』
3人の冒険者は目を見開いてそのレーザービームを目の当たりにして驚愕する
シュドッ
目もくらむ閃光がモンスターの身体の大半を貫いた




