へっぽこくえすと
辺り一面が真っ暗で、一筋の光も見えることはない。深淵という言葉が相応しい場所。その深い闇に低く太い声が響いた。
「目覚めよ。汝は選ばれたのだ」
その声は空しく木霊したかと思うと、不意にさっきとは別の声が聞こえた。
「いや、まだこんなに暗いのに起こすなんてどんな神経してんですか?僕はもう一回寝ますんで黙ってて下さいね」
「…目覚めよ!汝は選ばれたのだ」
「だからうるさいって」
「いや、そろそろ目覚めろって!お前は選ばれたって言ってるだろうが!!」
「うっせーな。一体何に選ばれたって言うんだよ…人が折角気持よく寝てたって言うのに…」
「わしをこんな扱いにしたのは初めてじゃ…やはりそなたには〝素質″がある様じゃ」
「素質ってなんだよ…第一質問の答えになってねーし」
「よく聞いてくれ青年よ。近頃この世界では魔物たちが凶暴化してきておるのは知っておるな?」
「ああ、なんでも大昔に封印した魔王の封印が解けたらしいな。おかげで落ち着いて家から出れないよ…あんまり出ないけど」
「そうじゃ、そしてその原因はその当時魔王に使えておった四天王どもじゃろう。早く何とかせねば、何れ汝の国も滅ぼされてしまうであろう。現に被害を受けている国も少なくはない。だからわしは探しておったのじゃ」
「と、言うことは俺は勇者を買って出て、倒せってことか?」
「理解が早くて助かる。もちろんやってくれるよな?」
「だが断る」
「はぁ?何言ってんのお前!?」
「おい、キャラ変わってんぞ」
「お前のせいだよ!!」
「分かった分かった。引き受けてやるよ。……相手にすんの面倒だし」
「もういいよ!さっさと行ってこい!!」
――――
トレイ城 謁見の間
「ということがありましてですね…」
「とりあえず、やる気ないよね?一国の王として、君にこの国を託すのは絶対に嫌なんだけど…」
「でも、先ほど「あのお方の言葉は絶対」って自分で言われてましたよ?」
「後悔するってきっとこういうことを言うのではないだろうか?……第一こんなに華奢な体だし…町の噂では「引き籠り」だの「へたれ」だの言われてるじゃないらしいか」
「違うって言ったら嘘になりますね」
「うん、君がとんでもなくバカだってことは分かったよ」
「じゃ、行っていいんですね!?」
「話聞いてた!?でも、あのお方が選ばれたのだし……」
「顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
『あんたのせいだよ!!』
「うお!いきなり声をそろえて大声出さないで下さいよ…っていうかこんなに騎士の方たちいたんだ…」
「仕方がない…そなたに魔王討伐を命じる。仲間は一人だけ用意してやるから隣町まで行って迎えに行ってやってくれ」
「分かりました。王様。必ずや倒して見せます」
「期待はしてないけど頑張って……いっちゃった…」
「任せて宜しかったのですか?」
「いや…もう仕方ない…。そうだ、ギールを呼んできてくれ」
「かしこまりました」
――
「となりまちーとなりまちー♪っと」
俺が気分良く自作の隣町ソングを口ずさんで門を通り抜けようと思うと、門番さんに止められてしまった。
「君、そんな格好でなにしてるんだい?」
「いや、ちょっと用事があって隣町に行くことになったんです」
「なるほど…でも、最近魔物が凶暴化してるからもうちょっと装備を整えてきた方がいいとおもぞ?」
「と、いってもあんまりお金持ってませんしね…」
「では、私のを少し分けてあげよう」
「いいんですか!?」
「などという展開があると思ったかい?」
「ですよねー」
「というかここに立っている間は持ち物は別の所に預けているんだ、いろいろと邪魔だしね」
「あ、そうだったんですか。とりあえず銀行行ってきます」
「頑張れよ、少年」
「少年じゃないです。リコピンです」
「リコピン…ああ、あの有名な引き籠りの!」
「一言余計ですよ…とりあえず行ってきます…」
「体力なさ過ぎて死ぬなよー」
――
「お呼びでしょうか?陛下」
「来てくれたか、ギール。実は――」
陛下説明中…
「なるほど、それでそいつを影から護衛すれば宜しいのですね?」
「そういうわけだ、よろしく頼む」
「はっ!」
――
「いや~お金使ってないからなかなか貯まってたね」
「早かったな」
「一通りそろえるだけでしたから」
「ま、革の鎧とナイフさえあれば、隣町くらい楽につくだろうよ、だが、くれぐれも油断するなよ」
「分かってますって。じゃ、いってきまーす」
「おう……やっぱ心配だ」
――
クレイドール平野
「この景色何年振りだろうか?改めて考えると引き籠ってた自分が情けなくなってきた」
と、独り言でも呟きながら隣町まで歩いていると、案の定魔物が現れた。
「ゴーストか…真昼間だぞ?まぁいい、久しぶりで腕がなまってた所だ、楽しませてもらうか!」
ゴーストの攻撃!リコピンに398のダメージ!!リコピンは倒れた…
GAME OVER
――――
りこぴん自宅
「何というクソゲー…第一俺が主人公って何だよ!?確かに精巧なまでに作られてたけど…絶対あいつ俺に喧嘩売りに来ただけだな…」
prrrrr♪ prrrr♪
「はい、もしもし。」
『あ、りこぴん?今からちょっとあそぼーぜ。もしかして何かしてた?』
「…ん、あいつに渡されたゲームの試プレしてたとこ。今からは別に良いよ」
『じゃ、いつもの場所で待っとくから、来て』
「はいよ、了解」