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五行の拳 独立編

作者: 東武瑛
掲載日:2026/01/02

広島修道大学に入学した平野は、念願叶って空手部に入部する。ただ、修道大学には、二つの空手部があって、平野が入部した空手部は、林寺流の空手部で、たまたま、そちらに入部した結果になった。

空手部の先輩は、嫌がる新入生を強引に入部させ、平野の様に自分から入部して来た新入生は、なかった。

 平野は、赴任先で空手同好会を作って行った。

 平野の債権回収の武勇伝が社員の間で知れ渡り、入会者が殺到した。

 そうした中、支店長として次の辞令が平野に出た。

 しかし、平野は空手同好会の後継者を敢えて作らなかった。

 支店長として次の異動を前に平野は同好会のメンバーの前で言った。

『私が、こうやって皆さんの前で話するのも、これが最後になるでしょう。そして、私から、この同好会の後継者を指定しません。私はサラリーマンで、武術は趣味で稽古してます。私は武術家では無い。この会を今後どうするかは皆さんが判断する事です』

 一人の会員が言った。

『先生。そんな事おっしゃらないで、お仕事の合間にいらっしゃって私達を指導して下さいよ』

 平野は『そう思って頂くのは、嬉しい限りですが、私は一に仕事、二に武術の考えは変わりません。仕事をしてるから、武術の稽古が出来る訳ですからね。次の勤務先でも、まずは仕事です』と言った。

 出席者の一人が『先生の意志が堅い事、わかりました。では、この後、送別会を準備してますので、皆と行きましょう』と言った。

 歩いて行ける店なので、同好会のメンバーは平野を先頭に向かった。

 平野の支店長として次の赴任地は大阪だった。

 社員の殆どが、嫌がる地域だった。

 債権回収に、その筋の人物が絡む事が多いからだった。

 平野は、赴任した日に引き続きのため、前支店長に呼ばれた。

 平野が支店長室に入ると、『貴方が平野さんですか、武道の達人と聞いて、なんか強面の方かと思ったら、学校の先生や公務員みたいな風貌ですね』と前支店長は言った。

 そして『貴方の実績は全て調べました。余りにも、実績が抜群なので、驚きました。貴方なら大阪でも実績を挙げると確信してます。期待してますよ』と前支店長は言った。

 平野が部屋を出て、デスクに戻ると、部下の一人が『支店長、ここの案件は難しいですよ。下手すると命が無くなります。』と言った。

 平野は『そんな事言ってたら、仕事にならなりません。皆んなで頑張りましょう』と言った。

 その部下は『それと、実はウチ危ないと噂があるんですよ』と言った。

 平野が『噂って、どんな噂ですか?』と聞くと『それ以上は言えません。』と部下は言い、黙り込んでしまった。

 平野は『気になるな』と思いつつ、デスクに積まれた書類に目を通した。

『不良債権が山ほどある。回収した経緯も、殆ど無い。放っておくと深刻な事態になるな』と平野は感じた。

 どれも、回収には難しい案件だった。

『貸し倒れ』が平野の脳裏に浮かんだ。

 そんな日々を送っていた時、本社の社長に呼ばれた。

 社長室のドアをノックすると『平野君か?入れよ』と声がし、平野は『失礼します』と言い部屋に入った。 

 社長は椅子から立ち、『平野君、ソファに座りなさい』と言った。

 平野が座ると『いやあ、実はね。海外視察の話が来て君に行って貰おうと思ってね』と社長は言った。

『ハイ』と二つ返事で平野は答えた。

『よく勉強して来てくれよ。』と社長は言った。

 『しっかり勉強して来ます。それでは失礼します』と平野は言い、社長室を出た。

 数日後、平野は海外視察に出発した。

 視察で数カ国を周り、友達も沢山出来た。

 しかし、帰国した平野は支店の扉に貼った紙を見て愕然とした。

『倒産?どうゆう事だ』

 平野は事情を知りたく社長に電話した。

 社長は『色々あってね。詳しい事は言えないけどね。ま、早く就職先を見つけて下さい』と言った。

『そうか。俺の力で、どうにも、ならない事なんだな』と平野は思った。

『とすれば、どこに就職すれば良いのだろう』平野は深刻に家族と相談した。

 二人の娘は大学に行かせたかった。

『お父さん。私達、高卒で就職して

良いのよ』と娘は言った。

『いや何としても大学に行かせたい』と平野は思った。

 就職先を探していると知人から連絡があった。

『ああ、平野君。ちょっとキツイ仕事だが知り合いがタクシー会社で働いていてドライバーを探しているそうだ。歩合制だから、売上げで結構稼げるぞ』と知人は言った。

『そうか、ありがとう』と平野は答え、電話を切った。

 『タクシードライバーか?今までと全く違う仕事だが』と平野は悩んだ。

 生活、娘二人の学費を考えるとタクシードライバーの仕事しか無いと思った。

『やって見るか』と思い、タクシー会社に電話した。

 履歴書と運転免許証を持参し面接に臨んだ。

『採用担当の山路と言います』と面接した男は言った。

『よろしくお願いします』と平野は挨拶した。

『車の運転は慣れていらっしゃるのですか?』と山路が聞くと平野は『今まで営業は車で行く事が多かったです』と答えた。

『そうですか。当社はタクシー部門とハイヤー部門が有りますけど、現在はハイヤーの空きが無いので、タクシー部門をお願いしますが、よろしいでしょうか?』と山路は言った。

 平野は『はい。お願いします』と答えた。

 山路は『分かりました。2種免の費用は立て替えますので、早く合格して下さい』と言った。

 平野は『分かりました』と答えた。

 そして、山路は『お解りだと思いますが、売上げは二の次、一番気をつけて頂きたいのは、無事故無違反、酒気帯び運転です』と年を押す様に言った。

 早速、2種免を取り、平野はタクシードライバーとして、営業を開始した。

 そして、思ったより大変な仕事と感じた。

 確かに『遠回りしたな』とか、『財布を落とした』とか、吐いた客もいたが、まあ、これはタクシーの仕事に付き物と平野は思い、気にせず仕事した。

 淡々と仕事を続ける中、ある日、所長に呼ばれた。

『何か、クレームが入ったのかなあ』と平野は心配したが、ノックして所長室に入った。

 所長と1人運行管理者がいた。

『ああ、平野君。無事故無違反で頑張ってくれてるね』と所長が言った。

 平野は『はい、気をつけています』と答えた。

 『ウム。それが一番だ。会社としては売上げは二の次だからね』と所長は言った。

 『平野さん。ハイヤーの空きが出来ましたけど、どうします』と運行管理者が言った。

 『私としてはタクシードライバーでもハイヤーでも、君の希望で良いよ』と所長は言った。

『分かりました。少し考える時間を下さい』と平野は言った。

 慣れているのはタクシードライバーだがハイヤーにも興味があった。

『まあ、今、答えを出さんで良いよ。明日、希望を言ってくれ』と所長は言った。

『分かりました』と平野は答えた。

『じゃあ、平野さん。明日、私に意向を伝えて下さい』と所長は言った。

『では、待機室に戻って下さい』と所長は言い、平野は『失礼しました』と言い、部屋を出た。

 この間も、平野は武術修行を怠ら無かった。

 しかし、流石に会社倒産のダメージは大きかったが、平野が救いを求めたのは、空手を始め、やはり武術の修行だった。稽古に熱中すると煩悩が去り、明鏡止水の境地に至った。

 そんな時、少林寺流を学んだ師から手紙が届いた。

 手紙を読むと『艱難なんじを玉にす』と書かれてあった。

 『タクシードライバーの仕事は、辛い面もあるが、慣れてきた。でもハイヤーの仕事も興味がある。二者択一だが』と思い、家に帰り、妻の意見を聞いた。

 妻は『私は、あなたがやりたい仕事を選べば良いと思います』と言った。

 平野は『分かった。ありがとう。そうするよ』と答えた。

 翌日、平野は所長に『ハイヤーの仕事をさせて頂きたいのですが』と申し出た。

 所長は『分かった。平野さん。運行管理者に私から伝える。で、解っているだろうが、アルコールチェックには絶対注意して下さい』と言った。

 所長室から出て、平野は『酒は辞めよう』と心に誓った。

 運行管理者に呼ばれ、平野は自分が乗る車を見せられた。

 運行管理者は『普通のセダンとは違うので、お客様をお乗せするまで慣れて乗りこなして下さい』と言った。

 平野は暫く新車を乗りこなし、同乗した運行管理者のチェックを受け、『平野さん。お客様を乗せて大丈夫です。来週の月曜日から、お願いしますね』と言われた。

 ハイヤーの仕事は思ったよりも、ラクに感じた。

 お客様とも気が合い、話しが弾んだ。

 待機している間は写真を撮ったりした。

 また休日は家から近い学校の体育館を借り、一人稽古をした。

 たまに、妻と子供も参加した。

 平野は空手だけで無く、杖術やヌンチャク、トンファー、サイなど武器術の稽古も行った。

 そうする内に『見学させて下さい』と申し出る父兄が、現れ始めた。

 そして『体験させたい』と言う父兄が、子供を連れて来た。

 ポツポツと入会者が増えて来た。

 稽古生は子供が主だったが、ある日、年配の人が現れ、平野に話しかけて来た。

 年配の人は『私、風見と言いますが若い頃から、ヌンチャクの稽古をしたいと思って来ました。指導して頂けますか?』と言った。

 平野は『もちろんです。私が出来る事で、宜しければ大歓迎です』と風見に言った。

 風見は『実は私、大学の空手部出身ですが、先生の型は始めて見る動きです。流派は、どちらですか?』と言うと『私が習って来たのは少林寺流です』と平野は答えた。

 風見は『分かりました。ヌンチャクだけで無く、少林寺流の型も教えて下さい』と言った。

 平野は『もちろんですよ。他に杖術、サイ等も教えてますので、御教示しますよ』と答えた。

 ハイヤーの仕事は順調だった。

 次第に貯金も増え子供を大学に行かす事も出来きた。

 この頃には、稽古生も徐々に増えて来た。

 しかし、本職はハイヤーなので、稽古は趣味として続けていた。

 同時に年1回開催される全国大会にも師範として審判を勤めた。

 そんな折、少林寺流の創始者が老衰で亡くなった。

 そして、二代目に創始者の長男が師範会議で満場一致で可決承認された。

 この二代目は平野が大学で稽古に明け暮れていた頃、よく指導に来ていた。

 二代目は少林寺流を世界に広げるため、各国に指導に行っていた。

 その後、初めて東京で全国大会が開催された。

 創始者の夢だった東京大会開催は当然、二代目にとっても、感無量だった。

 ただし、このイベントは今後の少林寺流の行方の節目になった。

 数年経つ間、二代目は国内、国外問わず、精力的に少林寺流の普及に勤めた。

 特に二代目は、少林寺流の国際化に注力した。

 その中で二代目の脇を固める師範、高段者が集って来た。

 そうした少林寺流の変遷を見ながら、平野は一貫して、仕事と武術を切り離す事は無かった。

 それから、10数年の年月が経った。

 突然、少林寺流二代目が急逝した。

 これにより、創始者一族と少林寺流高段者の対立が表面化した。

 平野は、この醜い争いを見て、少林寺流から脱退を決意した。

 そして、我が流派を少林寺流五行舘空手と名付けた。

 平野は五行舘空手を武道のデパートと称し、空手に限らず、あらゆる稽古生のニーズに応じる場と位置づけた。

 平野はハイヤーの定年を向かえ退職し、これから武道一筋の人生を歩もうと決心した。

『空手、武術の修行は一生』と平野は改めて、心に近った。 

劇終




 

 

 




 











平野は独立する決心を固めた。

大学時代から始め会社の転勤先でも続けて来た長年の武道活動を総大成し、後進に伝えて行こうと考えたからだ。

もう組織に縛られる気は無かった。

大学時代から直接、指導を受けて来た師が亡くなり、組織に属するメリットが亡くなった。

三代目は殆ど面識無い人物で付いて行こう、とは思え無かった。

独立した流派名は五行舘と名付けた。



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