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五行の拳 独立編

作者: 東武瑛

広島修道大学に入学した平野は、念願叶って空手部に入部する。ただ、修道大学には、二つの空手部があって、平野が入部した空手部は、少林寺流の空手部で、たまたま、そちらに入部した結果になった。

空手部の先輩は、嫌がる新入生を強引に入部させ、平野の様に自分から入部して来た新入生は、いなかった。

平野は、会社の赴任先で空手同好会を作って行った。

平野の債権回収の武勇伝が知れ渡り、入会者が殺到。

しかし、次の異動にあたって、平野は敢えて後継者を作らなかった。

転勤を前にして、平野は会員の前で言った。

『私が、こうやって皆さんの前で話するのも、これが最後になるでしょう。そして、私は後継者を作りません。私はサラリーマンで、武術は趣味で稽古してます。私は武術家では無い。この会を、今後どうするかは皆さんが判断する事です』

一人の会員が言った。

『先生。そんな事おっしゃらないで、お仕事の合間にいらっしゃって、私達を指導して下さいよ』

平野は『そう思って頂くのは、嬉しい限りですが、私は一に仕事、二に武術の考えは変わりません。仕事をしてるから、武術が出来る訳ですからね。次の勤務先でも、まずは仕事です』と言った。

出席者の一人が『先生の遺志は、堅い事がわかりました。では、この後、送別会を準備してますので、皆と行きましょう』と言った。

歩いて行ける店なので、平野を先頭に向かった。

平野の次の赴任地は、大阪だった。

社員の殆どが、嫌がる地域だった。

債権回収に、その筋の人物が絡む事が多いから、だった。

平野は、赴任地した日に所長に呼ばれた。

平野が所長室に入ると、中にいた所長が『君が平野君か、なんか強面の人物かと思ったら、学校の先生みたいな顔だな』と言った。

所長は『君の実績は、全て調べた。余りにも、実績が抜群なので、驚いたよ』と言った。

そして『君なら大阪でも実績を挙げるだろう。期待しているよ』と言った。

平野が所長室を出て、自分のデスクに座ると、隣の先輩が『平野さん、ここの案件は難しい。下手すると命が無くなる。逃げた方が身のためだぜ』と言った。

平野は『そんな事言ってたら、仕事にならないじゃないですか。』

隣の先輩は『実はね。ウチ危ないと噂があるんだ』と言った。

平野が『噂って、どんな噂ですか?』と聞くと『それ以上は言え無い。自分で探ってみてよ』と先輩は言い、黙り込んでしまった。

平野は『気になるな』と思いつつ、デスクに積まれた書類に目を通した。

『不良債権が山ほどある。回収した経緯も無い。ほっておくと深刻な事態になる』と平野は感じた。

どれも、回収には難しい案件だった。

『貸し倒れ』平野の脳裏に浮かんだ。

そんな日々を送っていた時、社長に呼ばれた。

社長室のドアをノックすると『平野君か?入れよ』と社長の声がし、平野は『失礼します』と言い社長室に入った。 

社長は椅子から立ち、『まあ、ソファに座りなさい』と言った。

平野が座ると『いやあ、実はね。海外視察の話が来て君に行って貰おうと思ってね』と社長は言った。

『ハイ』と二つ返事で平野は答えた。

『よく勉強して来てくれよ。じゃあ、デスクに戻って下さい』と社長は言った。

『しっかり勉強して来ます。それでは失礼します』と平野は言い、社長室を出た。

数日後、平野は海外視察に出発した。




平野は独立する決心を固めた。

大学時代から始め会社の転勤先でも続けて来た長年の武道活動を総大成し、後進に伝えて行こうと考えたからだ。

もう組織に縛られる気は無かった。

大学時代から直接、指導を受けて来た師が亡くなり、組織に属するメリットが亡くなった。

三代目は殆ど面識無い人物で付いて行こう、とは思え無かった。

独立した流派名は五行舘と名付けた。



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