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どこで間違ったのだろう

初投稿になります。よろしくお願いします!

ご感想、お気軽にどうぞ!お待ちしております!

 始まりはいつも突然に。とはよく言うが、まさか自分がそんな目に遭うとは思いもしなかった。よくある、よく見られる?話だ。金こそ持っちゃいないが、それなりの人生を送ってたんだ。趣味もあったし、仕事もまぁそこそこって感じで充実してたんだ。


「は?」


 だがある日いきなりトラックに跳ねられた。その間際に見たがあの運転手居眠りしてやがった。あの野郎絶対許さねぇ、呪ってやる。

 そんな訳でどうやら俺は死んでしまったらしい。それで、よくある話として異世界転生とやらをする事になった。ここまでは予想通りだったし、別にチート能力とやらを得て無双できるならそれでいいやと思っていたのだ。だが、ここからが俺が小説や漫画で読むような話とは何かが違っていた。もう、この時点で嫌な予感しかしなくなっていた。


「"お前を新たな世界に新たな命として甦らせてやろう"」

「お断りなんだが?」


 出てきたのが、巨大な何かの影。普通、こういう場面で出てくるのは美しい女神や天使だったりするのではないだろうか。というか他所ではそういうもんだろ。だが、俺の前に出てきたのはこれだ。どう見たって聖なるものじゃない、というか明らかに邪悪な存在だ。これの言うことを素直に聞いてホイホイと転生させてもらう程、俺は甘くはない。お断りだと言ってやった。これでこのまま死んでも別に悔いはない。


「"貴様に拒否権はない"」


 だというのに、あのクソッタレな影は無理やり私を転生させやがった。あれは多分神様とかその類いなんだろうが、機会が有ったら絶対にぶん殴ってやる。そんな風に心に決めた。殴れる存在なのか分からないけど。

 こんな始まりだというのだから、きっとこの物語はよくある異世界転生ものとは違うものになるのだろうと思った。嫌な予感しかしない。下手すると貧民街みたいな場所やら戦争で荒れに荒れた場所に生まれ落ちるんじゃねぇかとか最悪の予想をしながら、俺の意識は失われていく。転生の感覚なんて知りはしなかったが、なんか言葉では言い表せない感じなんだな。


「産まれた産まれた!」

「男の子だ!」


 聞こえてきたのは、騒がしい二人の男の子の声。きっと、俺の兄達なのだろう。向こうでは一人っ子だったから、なんだか新鮮だ。あまり、目が開けられない。産まれたばかりからだろうな。そして己の意思とは無関係に、この世界に生まれ落ちた事を精一杯主張する産声が上がる。


「元気な泣き声だ。これは、健康な子に育つだろうな。」

「えぇ、あなたの子ですもの…産まれてきてくれて、ありがとうね。」


 俺の頭を撫でる、たおやかで優しい手。俺の体を抱き上げる、大きくて逞しい手。俺の両親。二人とも、愛情があるのがよく分かる声だ。こんな両親と兄達の元に産まれただけ、人生の最初はきっと幸運なのだろう。

 そんなこんなで、平凡なのだろう家庭に産まれた俺は、順調に成長していった。小さい頃にはしかにかかって死にかけはしたが。何せ公衆衛生がまだ無いような技術力なのだ、治るのも遅い。高熱は出て頭が痛いわ鼻水と咳で息苦しいわ、発疹は出るわで最悪だった。まぁ、この世界の技術力を考えると死ななかっただけマシだ。はしかで我が子を亡くし、悲しみにくれる誰かの母親を見るたびに、つくづくそう思う。それで、成長していくにつれて、俺が産まれたのがどんな場所なのかも分かってきた。


「おや、レオポルドさん所の子達か。いらっしゃい。」


 俺が産まれたのは、農村のようだった。割とすぐ近くには森があって、ここを切り開いてきたのがよく分かる。並大抵の事ではなかっただろう。裕福でないから助け合う必要が有る。だからご近所付き合いも良く、俺は兄達に連れられて家の事を含む様々な仕事を手伝った。労働法だとかそんなものは無い時代だ、子供達も容赦なく畑の手伝いをしている。勿論、大人達と比べれば自由な時間はあるのだが。

 だが、時折村の男達が色々と準備を整えて広場に集まることがあった。そういう時は、決まってこの農村を管理しているのだろう人間の部下、鎖帷子を着込み随分と立派な槍やら盾を持った奴らが来ていた。粗末な槍や弓を持っていたのを見るに、民兵としての訓練というやつなのだろう。実際、俺の住む家にも父が使っているのだろう弓と矢筒が置かれていた。そして、狩人さん達が仕留めてくる妙な死体。人間に近くそれでいて致命的に歪んだものもあれば、肌が緑や土気色だったり、本当に様々だった。この世界が危険な事など、すぐに分かった。


「うぶっ…いや、食えるだけいい、食えるだけいい…!」


 しかも、まともな飯を食えた記憶がない。それでパンを作ったら美味いだろう小麦を畑仕事で作っても、それは殆ど領主に持っていかれた。自分達が口に出来るのは、粗いパンや豆に肉なんかを纏めて入れたスープだったり、後はかさ増しにかさ増しを重ねたような薄いワインだった。

 飽食の時代に産まれた身からすると口に合わないなんて言葉では言い表せない位に不味い。正直、何度か吐きそうになった事もある。というか、実際に隠れて吐いたりもした。これが段々と慣れていくのだから、人間の適応力とは恐ろしいものだ。

 農村の人間は、生きていくだけでも大変なのだ。


「母さん。この村って剣の先生とか居ないの?居たら、習いたいなって。」


 だからなのだろう、優しい母は俺の言葉を素直に受け入れてくれた。そして、村の中でもそれなりに大きい家へと連れていってくれた。その中には他にも何人か、俺より少し年上くらいの子供、兄達も含めて居た。


「ご夫人。そちらが、末っ子さんですかな?」


 そこの家主は、何やら立派な髭を蓄えていた。それで、割と健康状態も良さそうな体をしている。でも、右腕は義手だった。粗雑な部類なのだろう事は分かるものの、金属製のペンチを付けている辺り、元はそれなりに金を持っていたのだろう事が分かった。大方、戦争で腕を失った元兵士か何かなのだろう。

 そんなこんなで、村仕事の手伝いの合間を縫って俺は先生の師事を受けた。一応、転生する前でも俺は十年くらい刀を振っていた。基礎的なものは身に付いていたが、やはり筋力が足りない。それに、先生が教える剣術は正に実戦式だった。単に切り付けるだけではない、レスリングなんかのそれに近いだろう組み合いの技法。手足を狙ったり、斬撃に見せかけた蹴りといった動きは、平和な時代のそれでは学べないものだった。生の戦場、殺し合いの中で身に付けてきたのだろう技術は、貴重だった。きっと、環境はいいのだろう。

 だが、俺には才能なんてものはない。ありがちなチートスキルなんてものも持っちゃいない。習った期間の違いもあるのだろうが、自分より才能があるのだろう子供は幾らでも居た。


「九百八十七っ。九百八十八っ。九百八十九っ。」


 だから、俺はひたすら全力にやるだけだった。昔から、俺は器用じゃない。才能なんてのにも恵まれちゃあいない。でも、いやだからこそ、俺に出来るのは剣を振り続けることだ。

 雨の日も、雪の日も、暑くても寒くても、俺は休まず先生の所に通った。畑仕事だってやって来た。荷車を引く、または直接背負って荷物を運ぶのは、身体を鍛えるのには丁度いい。全てを使え。それが先生の教えだったのも有るのだろう。ただひたすらに、剣を振り続けた。


「いっっ、てっ…」


 腕が痛んだ事もあった。無茶してたんだろう、出来た豆が潰れて木剣の柄を真っ赤にしたり血反吐を吐いたことも有った。過労によって地べたを這いながら家まで戻ってきて、母さんに心配されたことも有ったっけ。


「うぐっ…!」

「勝負有りっ!」


 負けてばかりだった。振れば振る程才能の無さを思い知り、それでも剣を振り続けた。きっと、周りが見ればさっさと諦めればいいのになんて思うのだろう。それが出来たら、苦労なんてしないんだよ。子供の頃から、好きな事に夢中になって周りが見えなくなる性格だった。剣を知るのが、楽しかった。それだけでも続ける理由になった。寡黙で、ただひたすらに剣を振ってきたから親しい友人なんて出来なかった。

 きっとそんな性格だったからなのだろう。あんな目に会うことになったのは。


「フッ、フッ、フッ…」


 息が、上がる。体の細胞が、生命の危機を感じて震えているのが分かった。ある冬の日、収穫が終わったこともあり俺は稽古の為に村の外れに行っていた。そこで木を相手に自身の持つ木剣を打ち込んでいた。よくある、基礎的な稽古だ。そんな時、何か嫌な予感がした。気のせいだとも思った。けれど、身体は勝手に動いていた。

 屈んだ次の瞬間、俺の首がそこまで有った場所に斧の刃が木に深々と食い込んでいた。後ろを振り向こうとしたが、腹に膝が突き刺さったことで吹き飛ばされるに近い形で大きく後退する。痛みで、視界が揺れた。


「ヴヴゥゥッ…」


 人だった。けれど、目は血走っていた。手には柄の長い斧がある。よだれを滴し、眼を爛々と輝かせるその表情。何より、冬だというのに上裸だった。物狂いだと思い、全身が危険を感じた。どうにかしないと死ぬ。そう思ったのに、足が、動かなかった。

 手に持った木剣で打ち倒すなり、村までどうにか逃げるなりすればよかったんだろう。けれど、そのどちらも出来なかった。あの男が向ける、強烈な視線と、剥き出しの殺意。敵に飲まれるとは、あぁいう事を言うのだろう。歯がガチガチと鳴っているのに、目が離せない。剣を握っているのに、力が入らない。情けない事に、あれだけ鍛えていたのにいざ殺意を向けられるとこれだった。


怖い、怖い、怖い。そればかりが頭の中にあった。足が震えて荒い息遣いが上がるばかりで、何も出来ない。男が近付いてきて、斧を振り上げる。死ぬ、そう思った。思わずぎゅっと目を強く瞑った。


「グッ…!」

「ルシエル!」


 けど、痛みと死が来なかった事を不思議に思い目を開けると、男の肩に矢が突き刺さっていた。その方向に視線を向けると、そこには矢筒を背負い弓を手にした父が居た。男もまた父に気が付いたのだろう。そちらに向かおうとしたが、男の後ろに走り込んでくる姿が見えた。それは、いつも腰に吊るしている剣を持った先生だった。


「ガ、アアッ!」

「狂人め…まだ動くか。」


 後ろから切り付けられた事で反射的に振るわれた斧を避ける形で俺と男の間に入り込む先生。やはり、足捌きもかなり洗練されている。父の弓捌きも、先生の剣も、どちらも俺にはとても美しく見えた。これまで幾人もの敵を倒してきたのだろう動きに、目を奪われるばかりだった。

 そして、そこから父の援護の元先生は男と斬り合った。先生の剣術が荒事慣れというか、戦い慣れしているのは明らかだった。だが、狂人の方も恐らく訓練を受けた経験が有るのだろう。単に斧を振り回すだけでなく、巻いて落とす、または払う。上中下の三段を使い分けている。手練れだった。事実、先生にもその男にも、瞬く間に無数の傷が出来ていった。致命には至っていないが、それでも流れ出る血が積もる雪と僅かに残る草木を染める。でも、だからなのだろうか。哀れにも思えた。


「ほら来いっ。父さんと先生が食い止めてる間に!早く!」

「……」


 合流してきた大人達も合わせて、大勢に群がられ討たれる姿。兄に手を引かれながらも、その姿に俺は目を離せずにいた。この世界がいかに残酷であるのかを、残酷さに付いていけなくなった者がどうなるのかを、その男は教えているように見えた。大人達がそうなっていないのを考えると、やはりあの男は余程の地獄を見てきたのだろう。俺には、想像がつかなかった。

 それから、両親や兄達、大人達はあの事が無かったかのようにまた日々を過ごした。きっと、俺を心配してくれていたのだろう。幼い子供があんな目に合えば、トラウマを覚えてもおかしくないからだ。実際、俺の心には深く刻み込まれた。だが、それ以上に残ったのは、熱だ。


「先生は、あの男は、どんな経験をすれば彼処まで…」


 強くなれた理由を知りたいと思った。元の世界で二十年、そして此方の世界で生きて十数年。刀に、剣に出会ってから燻り俺の体を焦がし続けている、熱。強くなりたい。病にも似たその感情は、俺を突き動かし続けている。

 きっと、元の世界では諦めざるを得なかったものだ。だけど、この世界では違うのだと分かった。剣を思う存分振れる、いつだったか俺が夢見たあの時代。力一つで成り上がれる時代。社会に馴染めなかった俺が夢見たものが、此処にはある。


「俺、この村出るわ。」


 一度感じてしまったのだから、もう我慢なんて出来なかった。十五の歳、間もなく成人の儀を迎える事になる中、俺は家族にそう告げた。土地は一番上の兄貴が継ぐことになったし、二番目の兄貴も使っていた奴が戦で死んでしまった耕地を貰える事になっていた。しかも、二人とも嫁さんも子供もいる。別に俺が出ても困らないだろう。

 母は随分と反対していた。仕方ないことだ。けれど、父はそうしなかった。継ぐものがない三男だ、何れそうなるだろうと思っていたらしい。本当に、敵わない。


「門出の祝いだ…好きな剣持ってけ。」


 先生には、そう言われた。技の全ては教えられたし、行っても構わないと。それで死んだら、所詮それまでだと。厳しいけれど、事実なのだろう。簡単に死ねば俺は所詮それまでの男。

 そして、俺は無数に壁に掛けられ並べられた剣と向き合う。初めて握る、本物の剣。己の命を預けるものであり、相対する者の命を奪うもの。悩みに悩んだ。この選択一つで、命に関わるかも知れないのだ。


「……これにするよ、先生。」

「まぁ、そうだろうな。お前は、その手の剣が馴染むだろう。」


 俺が選んだのは、随分と重い剣だった。片刃で、ナイフのような柄の構造を持っている。そして、ずしりと来る。俺は器用じゃない。だから俺は、ある程度雑に扱っても壊れないものにした。後、長さや形状が、元の世界で鍛練してきた刀と近くて、手に馴染んだのもある。


「それにしても、一番いい剣を選びおってからに。」


 先生は嫌味そうで、それでいて和らげな表情でそう呟く。弟子が審美眼を鍛えられている事を喜んでいるのと、高価なものを持っていかれる事への苛立ち両方だろうか。


「例えどんな事が有っても、己が信じた剣の道を突き進め。突き通す事が、栄光への道だぞ。」


 先生は、そんな言葉を俺に残した。その時の俺には、よく分からなかった。取り敢えず、自分の信念を貫き通すことが大切なんだなと考えていた。

 旅立ちの日には、村の人達が総出で見送りに来た。あれもこれもと持たせようとして背負い袋に色々な物を詰め込んできたのは正直鬱陶しかったが、嬉しくもあった。帰るつもりは無いけれど、帰る場所があるのは、落ち着くものだ。


「じゃあ、行ってくる。」


 それだけ言って、俺は村を出た。兄貴達と義姉達、甥や姪達の顔。両親の顔。先生の顔。大人達の顔。そして、この村の景色。よく、焼き付けておこう。もう二度と、帰ることもないのだろうから。

 取り敢えず一番近い街に行こうと思っていたし、そういう道を歩いた。そうしていると、想像通り、いやそれ以上にこの世界が残酷で危険である事が分かった。人の死体がごく当たり前のように転がっている。それは矢や刃で死んだ者、何かに食われた者、病で倒れた者。様々だった。中には、関わったらいけないだろう奴らも居た。

 人だっただろう異形を焼く者達。手練れである事はすぐに分かったし、この世界では初めて見る、銃を持っている者すら居た。元の世界のものと比べると骨董品もいい所の単発式だが、逆に言えばとても高価なものだ。


「貴様の信仰を述べよ。」

「勿論、我が帝国の守護神にして始祖たる…」


 いきなりそんな事を言われた時には冷や汗が止めどなく出たものだ。なにせ明らかに異端審問官だ。下手な事を言うと審問にかけられかねない。一応、村でもよく拝まれていた神様への信仰を告げると満足して馬に乗り去っていった。しかも一団の全員が。時代を考えるととんでもない奴らである。


「おい兄ちゃん、乗ってくか?この辺は危険だぞ。」


 母から貰った金の幾らかを渡して、商隊の馬車に乗せてもらったりもした。そういう時は、決まって危険性が肌を打って伝わってくるような場所だった。幸いにして旅人を襲うような奴らも、装備をしっかりと整えている奴らを襲うのは得策でないと考える知能はあったようだった。


「ここが…街か…!」


 辿り着いたのは、フォーエルンと呼ばれる街。俺が産まれた帝国は幾つもの領邦があり、故郷の村が所属している領邦の中で最も大きい都市だった。国の都はまた違うらしいが、商業的に賑わっているのは此処だそうだ。

 色々と決意を固めていたのだ。この街から始めていこうと。別に、一旗揚げるとかそんなのは考えていなかったんだ。ただ、自分の腕で何処までいけるかとか、そういうのを知りたかった。ただ、それだけだった。


「わ、分かった!ショバ代ならちゃんと払うよ!」


 けど、そう簡単にはいかないものだ。腕っぷしは間違いなく身に付いていたらしい俺は、この街をアジトにするガラの悪い連中に拾われた。それで、下っ端として色々と仕事をさせられるようになった。やるのは基本的に、用心棒代と称した金の徴収や、生意気な奴の鼻っ柱を折ることくらいだった。

 思い切り顔面を殴るってのは、最初は痛かった。けど、自然と平気になっていった。肉体としても、心としても。けど、随分と手慣れたものになっていった。


「相変わらず頼りになるねぇあんたは。」

「うるせぇ…」


 街に来て、組織に入って早々に俺に近付いてきたのは、俺の背丈の半分以下しかない、この小人のような女だ。人間以外の種族が居るのは知ってたが、いざ目にして見ると驚いたものだ。

 そいつはセダといった。幼く見えるが、なんともうすぐ三十路らしい。そいつが引っ付いて回って、あれやこれやと教えてきた。組織でどう立ち回るべきだとか、喧嘩の仕方だとか、後は、女の扱い方だとか。特に、打撃を受けないようにするすばしっこい動きは、参考になった。まぁ、俺の体は人並み以上にデカいからあまり有効とも言えなかったが。


「……どうして、こうなったんだろうなぁ。」


 仲間に連れられて行った店の部屋で、夜空を眺めながらポツリと一言溢したりもした。気が付けば、自分の理想とは随分と離れた場所に居たからだ。生活は出来てる。美味いとは言えないが、飯だって食えてるし酒だって飲めてる。それに、腕っぷし一つで生きていく事は出来ているんだ。なのに、とても虚しく思えた。理想と現実の壁に挟み込まれて、街に出てから幾年か経った。夢を諦めてしまおうか、そんな事を考えたりもしていた。

 それなのに。


「銃持ちが複数居るカルトが相手とか聞いてねぇぞ!とうなってんだトレンディル!」

「私だってこんなのが相手なら仕事受けませんでしたよ!」


 なのにどうして、俺はこんな事をしているのだろう。どうして村では危険だと言われてきた角耳と、銃撃を遮蔽物で防ぎながらこんな言葉を交わしているのだろう。


「隅に置けないねぇ兄さん。」

「……別に、大したことしてねぇ筈なんだけどな。」


 どうして身分が釣り合ってなさすぎる娘を助け出して、馬車の中で眠る彼女に寄りかかられながら、目の前の随分と俺に懐いている奴にからかわられたりしているのだろう。


「おいおい…流石にこれは決闘依頼の管轄外だぜ。」

「神よ!この邪悪なる者に天罰を!」


 どうして、目の前の化け物を相手に剣を手に相対しているのだろう。ただのチンピラ、ゴロツキだった俺が、どうしてこんな事になってしまったのだろう。どうして俺は、こんな勇者のような事をしているのだろう。


「行けぇルシエル!」

「任せろ。」


 本当に、どうしてなのだろうな。俺は特別な存在なんかじゃなかった。異世界転生でよくあるような、持ってるだけで全てが解決するような力なんて持っちゃいなかった。血筋が特別だとか、才能に恵まれているだとか、そんなのも無かった筈なのに。世界を変える存在なんかじゃなかったのに。

 この残酷で陰鬱な世界に、ほんの僅かな光を灯す。そんな大役を、ただの人間の俺がどうして担うことになったのだろう。いやはや全く、人生とはどう転ぶか分からないものだ。


「剣の道、ってのはこういう事なのかねぇ……先生。」


 これは、俺がどうしてこんな事になったのかを、その始まりから終わりまで語られていく物語だ。不器用な剣士の生きざまなんて、見ても面白いとは思わないけどな。

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