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世界はまだ脈打っている  作者: GARASU
1部
3/12

3話 静かな貸し


昼下がりの作業場。

 相変わらずここの空気は、金属と油の匂い。近くの部屋でから機械音が鳴り、手元はガチャガチャと部品を探す音がする。


「これ、ボルト?」


「それワッシャー」


「ワッシャーってなんなん。お菓子?」


「何度やっても学ばないのすごいよ」


作業2日目で既にアリアが文句を言いながら部品の分類していると、作業場の入口の方が少し騒がしくなる。


「簡単な職場見学の様なものだ。この作業時間だけでいい…」


「なんで俺の担当の時にやるんすか…」


いつもの女性看守と作業所の看守が口論している。


しかし、女性看守の後ろにはもう1人見ない顔があった。


少しだけ背が低く、髪を後ろでまとめ、制服も真面目に着ている女性看守。

 見た感じは小動物系。

 バインダーを持つ手が少しだけ震えていた。


「新人さんっぽいなぁ」


「そうだね」


直ぐに女性看守は作業場を出て行き、男性看守と新人看守の2人が残された。


時間が止まった様な気まずい雰囲気


「あの…よ、よろしくお願いします」


「まあ、いいよ…班長の頼みだしね…」


その後2人の看守に会話は無く、作業時間終わり際に差し掛かった。

新人看守はキョロキョロと辺りを見渡し時々アリア達と目が合えば直ぐに逸らすを繰り返す。


「ちょっと俺トイレ行ってくる」


男性看守が席を立ち扉を開ける。


「えっ、あのもう少しで作業時間が終わりますが…」


返答は無く、理不尽にも扉は閉まってしまった。


アリア達は作業中の囚人達が少しざわめくのを感じる。


監視を押し付けられた新人の表情が時間が経つ度に固くなっているように感じる。


ビリリリリリ


ついに作業終了の時間だ。囚人全員の目線1点に集まる。


「担当者が直ぐに戻りますので!このまま待機してくださ…」


ダァッン


新人看守が必死に発した言葉はアリア達の後ろのからかき消され、数人の囚人がニヤニヤと笑っている。音を立てた身長2mはある大男がゆっくりと席を立ち上がった。


彼に作業による疲れからの苛立ちによる表情は無く、ただ獲物を見つけた肉食動物のように歩き始める。


「俺たちこれから貴重な自由時間なんだよ…あいつのトイレなんかで奪われたくないわけ」


下に見られしまっている。


「た、多分直ぐに戻るので…では無く!せ、席に戻ってください!許可なく立ち上がるのは処罰対象になります!」


新人看守も立ち上がり身構える。

彼女自身に脅威は感じられないが、それでも自分との体格差のある人に対した身構える体の形だけは良く訓練されている。


全ての看守が腰のベルトに装備されている電撃警棒に手が触れる。


「お姉ちゃん…不味くない?」


「アレでも訓練受けてる看守やろ…さすがに…」


ここ“ネザースレート拘置区”にて囚人5、6人程度の小さな暴動は少なく無い。しかしほとんどは女性、男性看守に囚われず、たった一人でそのその暴動を鎮圧してしまうほど一人一人訓練されている。


「でもなんか…」


アミリアの予感は的中した。


「そぅらっ!」


大男の囚人の手から作業で使用したであろうボルトが新人看守に向かって投げられる。


「キャッ?!」


その体制が一瞬崩れた瞬間。


大男が一気に距離を詰めた。


それでも新人看守は怯みながらもベルトから電撃警棒を抜き取り囚人に振りかぶった。


だが、電撃発生のスイッチには惜しくも指が届かなかった。


警棒は虚しくも男によって叩き落され、首をその大きな手によって掴まれその勢いのまま背中を壁に打ち付け新人看守の足が地面から離れた。


首を掴む手を引き剥がそうととするが僅かなが首を圧迫される圧倒された状態では、浮き上がった足をジタバタさせるだけになってしまった。


「へっへっへっ…捕まえたぜ、こんなとこで怪我させたら流石に不味いけどよ…」


ブチブチブチブチ


男の手は制服を力任せに引きちぎりボタンが弾け飛び新人看守の下着が露出した。


「「おおっ!」」


数名の男性囚人が小さな歓声がが上がる


あぐぅ!


新人看守が首を掴む手に深く噛み付いた。訓練によって培われたものではなく生物の生存本能から来る必死の抵抗だ。


「痛ってぇ」


痛みを振り払おうと男が新人看守を床に強く振り落とした。

首が圧迫されていたせいか息が整わない。


「クッソォ…テメェ…」


人間は自分より弱い、圧倒していると思っていたことに反逆されることに強い侮辱感を覚え、冷静な判断能力が奪われる。


新人看守が最後に見たのは自分に振り下ろされる顔とと同じ大きさの拳だった。



「それ以上はアカンわ」


ドシュッ


男の振りかぶった手に1本の鋭い釘が勢いよくが突き刺さり、新人看守に拳が振り下ろされる直前、男は痛みから倒れ込んだ。


「ぐぁぁぁぁぁっ!」


いつの間にかアリアとアミリアは席を立ち倒れ込む男の前に駆け付けるように立ち塞がる


「この子の下着の色知れたんは良かったんやけど、ウチ可哀想なのは無理やねんな」


「お姉ちゃん、この場にいる誰よりも歓喜してたのヤバするでしょ」


「下着って大抵セットアップやん?せやから…」


「黙って」


男が手を抑えながら起き上がろうとするが自分の手を貫通している釘手を見て怖気付く。痛みと怒りでその顔は歪んでいる。

男が起き上がったタイミングで男と同じテーブルにいた囚人が目の色を変えた。


「テメェらもここに入って来たばっかりだろが…調子乗ってんじゃねぇぞ!」


男の隣のテーブルにいた三人が、ガタガタと椅子を引いて立ち上がる。

筋肉質なの、刺青だらけなの、痩せぎすで目つきの悪いの、個性揃いだが一般人から見て威圧感だけは1級品だ。


アリアが3人を睨むように見ながら一歩前に出る。


後ろで倒れ込む新人看守は既に気絶している。未だに息は整わずヒューヒューと空気の漏れるような呼吸、目から涙が溢れていた。


刺青だらけの囚人がニヤニヤと歩み寄ってくる。


「ヒーロー気取りは結構だけどよ、ここは“正義の味方ごっこ”する場所じゃねぇんだよ」


「せやな」


見慣れたアリアの余裕ある笑い顔。


「お前らみたいな“カス”がイキんのは嫌いやねん」


「おい!」


痩せぎすの囚人が怒ったように一歩踏み込む。

 その足が、床に転がっていたボルトを蹴った。


 コロ、コロ、コロ。


 …それはそのまま、アリアの足元に転り


「お、ありがと」


アリアはそれをつま先で軽く跳ね上げると、空中に浮いたボルトをそのまま蹴り飛ばした。


 キィンッ!


「いっっってぇっ!?」


 痩せぎすの囚人の額に、ドンピシャでボルトが命中した。

 綺麗に吹き飛んだボルトと男は、そのまま作業台に当たり、金属音を響かせる。


「お姉ちゃん、ナイッシュー」


刺青囚人が舌打ちした。


「てめぇ……!」


 その腕が振りかぶられるより速く、アリアはすっと懐に潜り込む。胸ぐらを掴んだかと思うと、相手のみぞおち向けて膝を叩き込む。


「ぐっ……!」


そのまま刺青囚人の体は力が抜けたように床に崩れ落ちた。


「いい加減にしろよ!」


最後の一人が怒鳴り、椅子ごと突っ込んでくる。

 真っ直ぐで分かりやすいタックルだ。


アリアは足元倒れ込む男を蹴り押す。


ズルッ。


「うおっ!?」


 突っ込んできた囚人の足が倒れた男がに引っかかり、体勢が前のめりに崩れる。


 そこにアリアの蹴りが、顎へスッと入った。


 コッ、歯を強く噛んだと小さな音だけ。


「……んがっ!?」


 顎下にクリーンヒットした男はそのまま白目を剥いて床に倒れた。


「うっわ……お姉ちゃん、淡々と処理する感じ出すのやめなよ」


「カッコつけても護身術ってこんなもんやで」


後ろからの気迫、大男が呻き声を上げながら立ち上がる。

 手の甲に刺さった釘から血が滴る。


「テメェら……!」


露骨な“敵を見る目”。


「やってやるよコラ……!」


大男の右ストレート。

 空気を裂くような音がした瞬間、アミリアは上半身をわずかに傾ける。


 拳は、彼女の頬ギリギリを通過していった。


バゴンッ!


 大きな音を立て背後の鉄扉が少しだけ凹む。


1手目はあくまで餌に過ぎない。

彼にはいつの間にか気絶している看守から叩き落した撃警棒を釘が刺さる手で無理やり握りアミリアに向けて振り下ろされる。


パシッ!


素手で受け止めた。


本来ならば牛一頭を気絶させられる程度の電流が流れるため、扱う看守ですら注意を払いながら所持している。


「これは私ツイてたかも」


大男も気付く。

逆だ。咄嗟に電撃警棒掴んだいた大男は持ち手の部分では無く電撃が流れる部分が…


カチッ。




「何の騒ぎだ!」


 作業場の扉が勢いよく開き、複数の看守が警棒を構えて飛び込んでくる。


「Bブロックの作業場で暴れた奴がいるって──」


「……なにこれ」


 看守たちの目に映ったのは、

 床に転がる大男と囚人三人、

 そして、その手前で気絶している新人看守。


「新人が……倒してくれました」


 一人の囚人がぽつりと言った。


「は?」


 看守が眉をひそめる。


「作業が終わるって時に、あいつらが立ち上がって暴れだして……

 最初に止めに入ったの、あの子なんです。

 そんで、電撃警棒で……バチンって」


 別の囚人も頷く。


「俺も見てました。

 新人だからってナメてましたけど……マジで速かったっす」


看守たちは顔を見合わせ、倒れた囚人を確認する。


「マジかよ……こんなデカブツを、一人で……?」


「新人、やるな……」


「そうは見えなかったけど……」


「人は見かけによらねぇってことだな」


 誰一人、姉妹に疑いの目を向けない。

 アリアとアルミアは、ただ“端のテーブルにいた囚人”として座っている。

アリアに至っては机に突っ伏して寝ているようだ。


いつもの女性看守も遅れて入室した。


「おい、こいつら拘束して医務室に運べ! それから懲罰房の準備!」


「了解!」


「この子は……?」


「ショックで気絶してるだけみたいです。怪我も軽い」


「休ませてやれ。

 ……それと、後で話を聞きたいな」


彼女は運ばれていく新人看守、そして大男のに刺さった釘と姉妹を横目に退出する。


指を一つだけ立て、短く告げる


「1貸しってことで」


「そうだね」


この後、散らばった机や部品の片付け、事情聴取によって作業に参加してた囚人全員の自由時間は無くなった。


 騒ぎはあった。殴り合いもあった。

 でも記録上は、

 “新人看守が初仕事で四人の問題囚を鎮圧した”

 ただそれだけになるのだろう。


 ネザースレート拘置区の、ある昼下がり。


 今後も彼女達の気晴らし程度の“静かな貸し”は、貸した本人に知られることは無い。


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