傲慢な聖女は、救う相手を自分で選ぶ
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
私は傲慢なの。
聖女でも、助ける人間は自分で選びたい。
だから、彼を一番に助けたいの。
◇◇◇
戦争のせいで、村の食糧が無くなり。
幼い子供や老人が次々と倒れていった。
一番仲が良かった可愛い女の子、親友だったその子が疫病で倒れた。
――こんなの許せない!ベスが死んじゃう!
この時の私は神を呪って世界を呪って。全てを恨んで、ベスを助けたいと願った。神に祈ってはいない。寧ろあらゆる暴言と恨み言で神を貶めた。
しかし。そこで奇跡が起きたのだった。
◇◇◇
私はセイラ。ただの村娘だったのに、奇跡の力で疫病を救ったと持て囃され聖女になった。
「聖女セイラよ。そなたの存在は100年振りの尊い存在だ。国のためにその身を尽くすように」
見たことも無かった王様から言われた。
――何だこの場所は?
平民には縁が無さすぎて知らなかった、王族や貴族の人々。
煌びやかなこの王宮は何だ。頭上にはシャンデリアがキラキラと辺りを照らしている。
村では蝋燭も貴重だったのに。
そこの貴族の着飾った格好は何だ。
あの宝石で死ななかった人がいるんじゃないのか。
怒りが湧く。宝石の値段以下の命の重さ、その人達にこそ私には価値があるというのに。
「これから神殿に留まり、病に困った人々を癒すように」
――でも。断れば命がない事くらいはわかっていた。
「こちらが聖女様に過ごしていただくお部屋になります。今後は私を含め、3人の聖騎士が交代で付くことになります。扉の前で護衛するのでご了承ください」
ここまで連れてきてくれた、聖騎士のお兄さん。
私には聞きたいことがあった。
「あなた、王様の親族か何か?その金髪金眼って、王族特有のやつでしょ?」
さっきの王様もそうだった。
その隣に居た小さい王子様もそうだったし。
「ええ、私は現王の一番下の弟にあたります。ただ、神殿に属しているので名ばかりの王族ですが」
それは自嘲に近い響きだった。
まぁ、彼が何を考えていても私には関係ない。
「私は、ずっとここに居なきゃいけないの?村に帰りたいんだけど?私は聖女様なんてものじゃないよ」
目の前の聖騎士さまは、困ったように笑った。
わかってる。
この人に言っても仕方がない。
「さっきのお城凄かったね。来ていた人達もビックリするぐらいキラキラしてて綺麗だった」
――でも。
「でもね、うちの村には怪我人も沢山居るの。怪我は治ってもすぐに戦争に駆り出されるから、また怪我をして戻ってきたり、後遺症で上手く生活出来なかったりする人が多いの。……それにまだ疫病で苦しんでいる人もいるかもしれない。ここにはお医者様もいるし、戦争は遠い場所の出来事みたいな扱いだし、私は必要ないでしょ?私を村に帰して」
そこで、聖騎士さまは私に片膝をついて言った。
「聖女様がこちらで不自由のないように、私たち神殿は力を尽くします。何か必要な物がありましたら全力を尽くしてご用意致します。ですが、もう聖女様はただの村娘ではありません。二度とあの地へ帰る事など出来ないでしょう。私は形だけの王族ですが……此度の事は心からお詫び申し上げます」
私が必死に伝えても、目の前の聖騎士さまは片膝をついたまま顔を上げてくれない。
ここまで連れてこられる間にも何度も訴えた。
――私は聖女なんかじゃない。寧ろ神なんて信じていない、理不尽な死に方で死を迎えそうだった友達や家族を助けたかっただけだと。
「ここで、私の助けを待っている人が大勢居るの?」
「暫くは長旅でお疲れでしょうから、お寛ぎください」
また私の質問には答えてくれないのね。
ここに私が居る意味って何?
助けを求める人が街中に居るの?
でも、飢えは私にはどうしようもない。
お金持ちなら、お医者さまもいるじゃない。それよりも村が心配だ……。
それに今のこの国では、いつも誰かが奇跡を求めているじゃない。 誰しもが、怪我に病気に飢えに苦しんでいるわ。
◇◇◇
何故かその日から、貴族のマナーを学ばされた。
――何の為に。別にあなた達を否定しないけれど、本当に何の為にお茶の飲み方や椅子の座り方や話し方を覚えさせられるの?
困っている人が居て、国のために私は呼ばれたんでしょう?
「聖女様、何かお困りごとでもありましたか?顔に皺が寄ってますよ」
あの日、王弟だと明かしてくれた聖騎士様は何かと親切にしてくれる。名前も教えてくれた。
「誰も居ないから、いつもみたいにセイラって呼んで、アーサーさん。理由のわからない授業にうんざりしてるの。でも教師も神父様も『必要なことだから』としか私に言わないの。私には必要ないって何度も伝えているのにね」
「セイラ。疲れたのかい?」
敬語をやめて、穏やかに話しかけてくれる。彼の低くて柔らかな声は耳に心地よい。
アーサーさんはメイドにお茶の準備を頼んだ。
漸く休憩にしてくれるらしい。
「礼儀作法を頑張る理由がわからないわ。私の話し方が貴族の方の無礼になるから?私の無作法が貴族に笑われて、侮られるから?理想の聖女じゃないと国民が納得しないから?」
周りに聞いても、いつもそんな返事をされる。
でも、私は聖女なんてご立派なものじゃないと何度も訴えた。
「ごめんね。この場所は、君に何もかもを求め過ぎだよね。その力も君自身もありのままで素晴らしいのに。そんなセイラだから、その奇跡が起きたかもしれないのに。無理やり変えようだなんて傲慢だね……」
「アーサーさんが謝ることじゃないですけどね。
……あ!お茶が来ましたね。甘い物は大好きです!」
メイドさんがお菓子とお茶を運んでくれ、テーブルにセットしてくれる。
なんて贅沢。
私だけがこんな生活をしていてもいいのだろうか。
村に居る両親は?親友のベスは元気で居るだろうか?隣の家のおじさんはもう怪我が治っただろうか。
ベスも、同郷の彼とそろそろ結婚の準備を始めているだろうか。
両親は元気で居るだろうか?私を心配していないだろうか。
「セイラ、また考え込んでいますよ。君は聖女と呼ばれていますが、尊き神でもなく人の身なんですよ。この国が守るべき国民なんです。あまり無理をしないで下さいね」
ここに来てから、彼以外にこんな言葉を掛けてくれる人はいなかった。そう。私はただの人間だ。神じゃない。
「アーサーさん、そうなんです……。私はただの人間なんです。聖女様なんてお伽噺みたいな存在じゃないんですよ……。皆、私に期待しすぎですよね」
(だからもう村に帰して)
いつも喉元まで出そうになる言葉。
その時の私はとても不満気で難しい顔をしていたのか、アーサーさんは優しい笑顔で頭を撫でてくれた。
――私は既に少女といわれる歳じゃないけれど。こんなに格好良い人に慰められるのは嬉しいかな。
照れくさくて、どこかむず痒くて、つい茶化してしまう。
「アーサーさんは女泣かせですね。いつか後ろから女性に刺されますよ。そのお顔と、お相手にその気を持たせる態度は罪です」
「セイラに刺されるなら大歓迎かな?」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか」
美味しいお菓子。綺麗な部屋に、お喋りに付き合ってくれる素敵な男性とその穏やかな空気。
――この時の私は、だいぶ緩んでいたようだ。
理不尽はいつでも襲いかかってくるというのに。
◇◇◇
その後も貴族のマナーを学ばされ、色々な人の治療をした。――貴族の治療だけを。
お医者様で治るだろう症状や、そもそも死に向かう老人に私は本当に必要だろうか?
もし本当に必要じゃないなら、何故こんな所で、お綺麗な恰好をして、治るかどうかもわからない癒やしの奇跡を与えているのだろう。
何故私がやりたくも無いことをやらされているのだろうか。
偶に病気に苦しむ幼い子供を治療した時にだけ、心が満たされる。
力が発現してからわかった事が幾つかある。
私には、1日に多くても30人程度しか癒せない。
私は完全じゃないのだ。
全ての人は救えない。
――本当に救いたい人すら救えないような、ちっぽけな存在なんだ。
力を尽くしても救えない命もある。救えなくて罵声を浴びせられる事も多かった。
ああ、神様。あの時恨んだ罰でしょうか。
目の前で救えなかった幾つもの命を背負って、そしてその罪を負って生きていけという罰なのでしょうか。
◇◇◇
そしてその冬。流行病が王都を、国を、そして貴族たちを襲った。
「お願いします!両親と友達が心配なんです!」
アーサーさんに訴えても無駄なのはわかっている。それが彼を苦しめるだけだという事も。
(でも、それじゃあ私には何が出来るの?)
「セイラ…。私には、君が神殿を離れる許可を出す権限は無いんだ。でも私が責任を持って君の家族と、君の大事な人達を連れてこよう。こんな事しか出来ない自分が情けないよ……。本当に済まない……」
アーサーさんは私に謝り続け、そう約束してくれて村まで向かって行ってくれた。
――残された私は、力が及ぶ限り人々を癒さなければ。ベスを助けた時のように。村の疫病を癒やした時のように。
◇◇◇
「この方は既に手遅れです。力及ばす申し訳ありません。次の方の所へ向かう時間ですので失礼します…。本当に申し訳ありませんでした」
目を閉じて。ちゃんと私が謝らないといけない。
私には助けられないと、私自身が伝えなければ。
「この人殺し!まだ息をしているのよ、まだ可能性はある筈よ!こんなに幼い子供なの!何故見捨てるの!?」
幼い、可愛らしい貴族の子ども。泣き叫ぶ母親の感情が痛いくらいに叩きつけられる。
――つらい。また私が助けられない命。あんなに小さい子が何故こんな目に。悲痛に泣き叫ぶ声が、悲劇的なこの場面がつらい。
(ごめんなさい。助けられなくて本当にごめんなさい…)
必死に目を逸らしても、足元に絡まってくる罪悪感。
私が人の運命を左右してしまうなんて、なんて罰なんだろう。
王都の状況は?辺境の村の様子は?村まで行ってくれたアーサーさんはどうなったんだろう?状況が一つもわからなくて、涙が溢れる。
この場所に一人で立つには、私は覚悟も強さも何もかもが足りない。
(つらい。つらい。つらすぎる。でも、逃げ出せない……)
助けられない。私には全ての人を助ける力がない。無力感と罪悪感と疲労が私を押し潰してくる。
「聖女様!陛下から城に上がるようにとのご命令です!」
そんな時、神殿に王子が流行病で倒れたと連絡が来た。
「王子が病に倒れ、これからは王族も危機に陥るかもしれん。聖女には城に留まって我々の治療を頼みたい」
(王子様を治療するのはいいけれど……)
「私は、1日に30人の治療しか出来ません。でも、それだけの人々は助けられるんです。王城に滞在し、王族の方だけを治療するのは効率が悪いかと存じます。もし病に罹ってもすぐに呼んでいただければ……」
――ダン!
国王が激昂して玉座を叩いた。
「黙れ!王族が一番尊い存在だ!我々が倒れたらどうなる?誰が国を治めるのだ!国で一番優先されるのは我々だ!」
――そうなのかもしれない。無知な小娘には政治がわからないのかもしれない。
でも。
少なくとも、私が助けたいのはこの人じゃない。
私の村の人達が苦しんでいるのに。
戦争を起こしたこの人を最優先に助けなければいけないなんて。なんて理不尽な世の中なんだろう。
私はその日から王城に留められた。
王子の病はその日に治り元気になった。幼い彼の笑顔は私を和ませたが、でもそれだけだった。
――お前のせいだ!
――何故助けてくれなかった?
耳を塞いでもどこからか声が聞こえる。
今現在、苦しんでいて助けを求める人々の声が聞こえる気がした。
◇◇◇
王城で過ごしているある日。
それは綺麗な月が静かに輝いていた夜だった。
――彼は窓辺から訪れた。月の光に照らされた彼の姿は美しすぎて現実とは思えない。
「アーサーさん…」
久し振りに、彼の名前を呼んだ。
「セイラ。遅くなってごめん。君の家族も大事な人達も無事だ。それにしても随分とやつれてしまったね」
アーサーさんが悲しげに眉を寄せて私の頬を撫でた。
「アーサーさん、おかえりなさい。私の我儘の為にありがとうございました。国の様子はどうですか?流行病は落ち着いてきましたか?」
「君は他人の事ばかりだね……。この国の民の命を、君が負う必要は無いんだよ。背負うべき人間は別に居るんだ。聖女が国を救う?違う。国の王たる者が国を救わなければいけないんだ」
珍しく強い口調で私に話しかけるアーサーさん。
彼の後ろに何人もの騎士が控えているのも見えた。
何かが起きる前触れのような剣呑とした雰囲気……。
「アーサーさん。大丈夫ですか?また一緒にお菓子とお茶でゆっくりお話出来ますよね?何処かに行かないですよね?無茶しないですよね?」
彼は一瞬声を詰まらせて。
「勿論だ、約束するよ。彼を護衛に置いていくから、君はこの部屋から出ないでね。怖かったら耳を塞いでじっとしていて」
私の手取り、耳に当てさせる。そうしてから、ギュッと大きな身体に抱き込まれた。
微かな声しか聞こえなかったけれど。
『そのまま……私の事を待っていてくれ。私の尊い聖女。聖女のように尊い私のセイラ』
そう言って、彼はまた暗闇に溶け込んでいってしまった。
◇◇◇
――また一緒にお菓子とお茶でゆっくりお話出来ますよね?
彼女の不安気な様子に言葉が出なかった。
国内の状況は最悪だった。隣国との緊張も高まっている中、聖女を手に入れた国王は貴族たちの牽制の為にその力を使った。
自分の支持者にだけ聖女の奇跡を与え。
反対勢力にはどんなに乞われても無碍にする。
今回セイラに頼まれ国境近くの村まで出向いた。
しかし、彼女は知らないが私の目的は別にあった。
国境の村までのその道中、今の現状に不満を持ち国王に冷遇されている名門諸侯の下で説得を続けた。
その説得が功を奏し、そして今。
「アーサー様!国王が隠し通路に逃げ込んだとの報告が!」
無能な王が治める現在のこの現状。
続く国境での紛争、それに疲弊する国民たち。この疫病への対策不足。
更には国民の不満が最高潮に高まる中での聖女の力の独占。
紛争と疫病に関する対応の不備が表沙汰になり、多くの貴族と国民が国王に不満を抱き、今動こうとしている。
かなりの数の私兵が王城を取り囲んだ。
逃げ場は既にない。逃すつもりもない。
ただ、最後の仕上げは自分の役目だ。これは私にしか出来ない王族としての役割であり責任。私が首を取らなければ。
(陛下、貴方は自分の手札を見誤った。聖女を使って上手くやったつもりだっただろうけれども。そもそも彼女は最初から貴方の手札じゃ無い。貴方よりもっと上の存在なんだよ)
――先ほど久し振りに見た彼女。
王城に閉じて込められて、心優しい彼女はどれだけ胸を痛めただろう。
疫病は君のせいじゃない。戦争の事だって君が背負う必要もない。
勿論国民が飢えている事なんて、聖女のせいになんかになり得ない。
本来ならば全部国王が背負うものだ。
私は大声で、城内に入った味方の騎士や兵士に鼓舞する。
「この惨状は、誰が責任を取る!誰のせいか!戦争は?疫病は?死んでいった者は誰のせいで死んだ!?今こそ我々の怒りを思い知らせ、鉄槌を下す時だ!」
随所で怒号が上がる。
「このまま、国王の元へ!城を閉鎖し、隠し通路の出口を潰せ!先に配置した場所の兵に警戒するように伝令を!」
――そして激動の一夜を終え、国王その人は捕まった。
彼の家族、王妃と幼い王子の2人もその身を確保された。
このクーデターの為に、少なからず血が流れた。
心優しい彼女は心を痛めるかもしれない。
「アーサー殿下、おめでとうございます。城内も無事に制圧を完了しました。出来れば翌日に国民に向けての勝利宣言をお願いします」
「ああ、わかった。……聖女は無事か?」
「はい、お部屋におられます」
「そうか。まだ暫く部屋で匿っていてくれ。この惨状を見せたくない」
とりあえずは、この場に集った者たちを労らなければ。
「国王は討った!長く続いた悪政の終わりだ!今宵は存分に勝利の美酒を味わおう!」
――自分が間違っていたとは思わない。後悔もない。あるとすれば、行動に出るのが遅すぎる自分に対してぐらいだ。
続く戦争に国民が苦しみ。聖女を政治的に利用し、疫病が流行れば自分たちだけが助かろうと動く無能たち。
先の国王に首元を刃物で脅されたからといって、見て見ぬ振りをした自分も同罪だ。私も罪深いだろう。
(国民が苦しみ死んでいくのは、私の背負うべき罪なんだよ。優しいセイラが傷つくべきじゃないんだ)
――君は優しすぎる。だから『聖女』なんだろうね。
『また一緒にお菓子とお茶でゆっくりお話出来ますよね?』
あの時の彼女の、不安気で頼りない、でも愛おしい声が聞こえた気がした。
◇◇◇
アーサーさんが去った後。
騎士たちの戦闘の音と怒号が響き渡り、私は漠然と現状を理解していた。
これは、王弟による反逆だ。
剣戟が響く中、聞いたこともない断末魔のような恐ろしい声が聞こえてくる。
部屋の外が怖い。あの音が怖い。
震えが走る。あれは人が死んでいるの?アーサーさんが戦っているの?
怖い。私も殺される?でも、アーサーさんは騎士様を付けてくれた。守ってくれているのはわかっている。
でも怖いの。
◇◇◇
「セイラ?もう大丈夫だよ。驚かせてごめんね。これは私がやらなくてはいけない事だったんだ。君を怯えさせるつもりはなかったんだけれど……。君には色々と沢山の傷を与えてしまったね」
「アーサーさん!」
彼が来てくれるまで、私は暗闇のなかで耳を塞ぎ、必死に時が過ぎるのを待っていた。
「遅いですよ。怖かったんです。アーサーさんが怪我していないかずっと心配だったんです。……遅いですよ」
燭台の明かりと共に迎えに来てくれたアーサーさん。
申し訳なさそうに眉を下げて、でも私を怖がらせないように気を使っている。
「ごめんね、今は甲冑姿で汚れているから君をいつもみたいに慰めてあげられない。……でも、君を今すぐに抱きしめたいよ。私に聖女は必要ない。そんな力に頼らなくても国民が生きていけるように力を尽くすと君に約束する」
彼はそっと私の手を取り、目を合わせる。
「聖女だから、大勢の人を助けなきゃいけないなんてそんな理不尽は無いんだ。本当に人を助けるなら、その仕組みを作るべきなのが国王で、奇跡に頼って甘えるべきじゃない。そしてね、これからは私が背負う責任なんだ」
「難しい事ばかり言うんですね、アーサーさんは。でも自分で出来る事をするのが人間じゃないですか。アーサーさん、私は貴方の重荷を一緒に背負ってみたいです。そして重すぎたなら、偶にお互いに愚痴を言いあいましょう?」
頑張って今の気持ちを伝えてみた。きっと、彼は重荷を一人で背負ってしまうのだろうから。
私が聖女だから責められたように。
彼も国王だから責められる日々が来るのだろう。
「愚痴を言い合った後に、美味しいお菓子とお茶でゆっくりお話しましょう」
彼の美しい金目が揺れる。愛おしい彼に伝えたいのだもの。
――私が一番に助けたいのは貴方だと。
だから、重い物は一緒に持って歩いていきましょう?
だって私は傲慢な聖女だから。貴方を一番に助けたい。