表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第7話 「恵太」—謝れよ!

 チャット欄がざわめいていた。

「美唯の名前がある」という茉莉の一言で、全員が画面を見つめている。

 ブースの中は静かすぎて、ヘッドフォンの中に自分の呼吸の音が大きく響いた。


 恵太は、奥歯を強くかみしめる。

 心の奥では別のことが渦巻いていた。

 昨日の模試の結果。

 落ちた偏差値。

 父親に言われた言葉。

「塾にいくら払ってると思う?…分からない?だからお前はダメなんだよ…」

 その声が、まだ耳に残っている。


 チャット欄に視線を戻す。

「美唯」の名前。

 教室にいないはずの名前。

 みんなの動揺が見える。

(ここで強く出れば、支配層に並べる)

 この間の反省会の時と同じく、頭の奥でそんな計算が走った。


 キーボードを叩く。


[犬派代表]「学校休んでばっかで謝れよ!」

[犬派代表]「当番とかみんな困ってんだぞ!」


 送信ボタンを押した瞬間、空気が変わった。

 チャット欄がざわつき、沈黙とざわめきが入り混じる。


[ナイショの女王]「ちょ…やめなよ」

[カミナリ小僧]「いやでもそれなw」

[SweetM]「当番ずっと代わらされてんのは事実だし」


 恵太は息を吐き、笑いを抑えた。

 胸の奥のざわざわは消えないけど、画面の言葉が「自分を認めている」ように見えた。

 なぜか自分が救われる気がした。


 だけど、同時に気づいていた。

 自分が言った言葉で、美唯の顔が、胸の奥に浮かんでくる。

「ごめんね」「ごめんね」──あの繰り返す声。

 一度聞いたら離れない。

 同時に、父親を前にしてうなだれる、自分の姿が重なった。


 ________________________________________

 同じころ、ひなたは、こっそりと袖に隠したスマホを取り出していた。

 学校ではスマホは持込禁止のはずだが、彼女は平然と操作する。

 画面にはSNSの投稿欄。

 人目を引くために、最近撮ったミニスカートの勉強姿を貼り付けた。


 SNS投稿:「学校で今ヤバいこと起きてます」

 SNS投稿:「ズル休みしてる子が急にチャットに入ってきて こわーい」


 10秒と待たず、砂糖に群がる蟻のように閲覧数が伸びる。

 いいね!が付くたび、ひなたは小さく笑った。

 ________________________________________


 ブースの隙間から漏れたひなたの笑い声が、恵太の耳に届いた。

 胸の奥で渦巻いていた承認欲求が、一瞬だけ満たされた気がした。

「俺の言葉が、うけてる……!」

 彼はチャットに指を走らせながら、罪悪感よりも高揚感を感じていた。


 その時だった。

「え? 何やってんだあいつら」

 ブースを、移動する人影があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ