第7話 「恵太」—謝れよ!
チャット欄がざわめいていた。
「美唯の名前がある」という茉莉の一言で、全員が画面を見つめている。
ブースの中は静かすぎて、ヘッドフォンの中に自分の呼吸の音が大きく響いた。
恵太は、奥歯を強くかみしめる。
心の奥では別のことが渦巻いていた。
昨日の模試の結果。
落ちた偏差値。
父親に言われた言葉。
「塾にいくら払ってると思う?…分からない?だからお前はダメなんだよ…」
その声が、まだ耳に残っている。
チャット欄に視線を戻す。
「美唯」の名前。
教室にいないはずの名前。
みんなの動揺が見える。
(ここで強く出れば、支配層に並べる)
この間の反省会の時と同じく、頭の奥でそんな計算が走った。
キーボードを叩く。
[犬派代表]「学校休んでばっかで謝れよ!」
[犬派代表]「当番とかみんな困ってんだぞ!」
送信ボタンを押した瞬間、空気が変わった。
チャット欄がざわつき、沈黙とざわめきが入り混じる。
[ナイショの女王]「ちょ…やめなよ」
[カミナリ小僧]「いやでもそれなw」
[SweetM]「当番ずっと代わらされてんのは事実だし」
恵太は息を吐き、笑いを抑えた。
胸の奥のざわざわは消えないけど、画面の言葉が「自分を認めている」ように見えた。
なぜか自分が救われる気がした。
だけど、同時に気づいていた。
自分が言った言葉で、美唯の顔が、胸の奥に浮かんでくる。
「ごめんね」「ごめんね」──あの繰り返す声。
一度聞いたら離れない。
同時に、父親を前にしてうなだれる、自分の姿が重なった。
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同じころ、ひなたは、こっそりと袖に隠したスマホを取り出していた。
学校ではスマホは持込禁止のはずだが、彼女は平然と操作する。
画面にはSNSの投稿欄。
人目を引くために、最近撮ったミニスカートの勉強姿を貼り付けた。
SNS投稿:「学校で今ヤバいこと起きてます」
SNS投稿:「ズル休みしてる子が急にチャットに入ってきて こわーい」
10秒と待たず、砂糖に群がる蟻のように閲覧数が伸びる。
いいね!が付くたび、ひなたは小さく笑った。
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ブースの隙間から漏れたひなたの笑い声が、恵太の耳に届いた。
胸の奥で渦巻いていた承認欲求が、一瞬だけ満たされた気がした。
「俺の言葉が、うけてる……!」
彼はチャットに指を走らせながら、罪悪感よりも高揚感を感じていた。
その時だった。
「え? 何やってんだあいつら」
ブースを、移動する人影があった。




