表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

第1話 「海斗」—クラスをまとめろ

 情報セキュリティの授業は、いつもより少し特別だった。

 今日は体育館の眠たい講演じゃない。

 PC室の、冷たい空気。

 窓は閉め切られ、ひとりひとりが囲いのついた集中ブースに座っている。

 黒いヘッドフォンをつけると、周りの声はほとんど聞こえない。

 かすかに、キーボードを打つ小さな音だけが重なっている。


 ホワイトボードには、マジックで大きく書かれた文字。

「SNSで守ること」

 ・本名を使わない

 ・住所や電話番号を書かない

 ・見知らぬ人とやりとりしない

 でも、その文字はもう、誰も読んでなかった。


 佐藤先生は、チャットルームを開いたまま

「じゃあ、45分後に戻ってくるから。

 今日は皆んなで話でもしてろよー。

 あ、出歩くとかはNGな。」

 とだけ言って出ていった。

 画面に「チャットルーム・6年A組」と表示されたまま、次々とアイコンが点灯していく。

 誰かがメッセージを打つと、チャットの欄に小さな吹き出しが並ぶ。


[亮]「おー、はじまったぞー!」

[茉莉]「え、これ全員見えるの?」

[ひなた]「ねえ絵文字使える?」

[璃々菜]「サトピー、放任すぎw」

[修司]「おーい音聞こえてる?」


 小さなブースの中。

 切れ間なく無く進むチャットの文字が、みんなの存在をかすかに感じさせる。

 でも、同じ教室にいるはずなのに、すごく遠くにいるみたいだった。




 海斗は、モニターに手を伸ばしながら深く息を吐いた。

 父親の言葉が、頭のなかで響いている。

「お前はクラスをまとめる立場だろ。

 文化祭も、行事も、結果を出せよ。

 リーダーは結果で価値を示すんだ。」


 それは命令だった。

「まとめろ」じゃなくて「結果を出せ」。

 海斗にとって、この授業も“結果”を見せる場だった。

 もう、失敗はできない。

 先生がいなくても、このクラスはうまくやれる。

 そう証明したかった。


 チャット画面を眺めていると、右上の「設定」アイコンが目に入った。

 なんとなくクリックすると、プロフィール設定画面が開く。

 そこに表示されたのは──


「名前:海斗」 [変更する]


「……え?名前、変えられんの?」

 つぶやいた瞬間、胸が少し高鳴った。

「なあ、これさ、名前変えられるぞ」

 打ち込んで送信すると、すぐに反応が返ってくる。


[駿]「マジ?w」

[茉莉]「えーやってみよー」

[修司だったもの]「あ、俺もう変えたwww」


 次の瞬間、チャット欄に新しい名前がポンと現れた。


[ハンバーグ大好き]「どうも、俺です」


 誰だよそれ。

 思わず海斗は笑いをこらえる。

 すぐに別の名前も続く。


[犬派代表]「にゃーん」

[謎解きは給食のあとで]「だれかわたしをさがしてごらん」


 あちこちでクスクスと笑い声が漏れた。

 普段は大人しい子まで、目を輝かせて画面を叩いている。

 誰かがスタンプを30回連打して、「↑こういうのNG」とルールらしきモノも生まれた。


 海斗は、胸の奥がすこし軽くなるのを感じた。

 父親のプレッシャーも、リーダーとしての責任も、今だけは忘れられる気がした。

 ただ、なんとなく気になって、参加者リストを眺める。

 そこには、13個の名前が表示されている。


 ──この時点では、まだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

初めて複数話に挑戦します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ