「真夜中のバニラちゃん」 噂
「あーそぶどー!」
強い日差しの中、言音が叫ぶ。
7月下旬のよく晴れた土曜日。
俺たちは地域ボランティアの一環で、朝から街の遊園地に来ていた。
この遊園地はだいぶ老朽化が進んでいたため、数ヶ月前から改装工事を行っていた。
それが終わり、ついに今日からオープンする。
しかし、従業員も少なく、人足が遠ざかってしまっているため、高校生の力を貸してなんとか遊園地を盛り上げてほしいと頼まれたのが、今回のボランティアである。
「あっれれー?1人小学生が混ざってんなぁ!」
「ちょと?!誰のこと?!」
言音が頬を膨らませる。
彼は白鳥健人。クラスのお調子者で、いつも喋っている落ち着きのないやつだ。
「2人とも喧嘩しない!」
そう言って2人にチョップをくらわせる彼の名前は星川真凪。真面目で成績優秀、いつもうるさい健人のストッパー役だ。だが天然な部分もあるため、±0と言ったところだ。
「…遊びに来たわけじゃないんだ。真面目にやれ。」
「えーっ!けちぃー!」
俺も遅れて会話に参加する。
「そうそう!ここでも出るらしいよ!」
「出るって…何が?」
ワクワクが止まらない言音と対照的に、健人がビクビクしながら尋ねる。
健人はこの手の話が大の苦手である。
「『真夜中のバニラちゃん』って話。みんな、ここのマスコットキャラクターのバニラちゃんは知ってるよね?」
俺たちは頷く。
バニラちゃんはこの遊園地の、うさぎの形をしたマスコットキャラクターである。
「Bunny」のバニと「Rabbit」のラでバニラという名前がついたとかつかないとか。
「そのバニラちゃんがね、夜になると勝手に動くんだって!」
「………。」
俺たちは反応に困ってしまった。
思っていたよりも…。
「あれ?みんな興味ないの?!」
「いや、なんていうか…ね?」
「うん…だよな?」
「そう…だよね…」
俺たちは声をそろえて言う。
「「「ありがち」」」
「ええ〜!そんなことないよ〜!」
言音は続ける。
「バニラちゃんはね、夜に見つけた人を、別の世界に連れていっちゃうんだよ!?」
その時、俺は予感がした。
ミサオサマの時のような、嫌な予感だ。
まさか、本当に…?
「またまた…なら、その話は誰が広めたんだよ。」
「うぐっ、それはそうだけど…。」
健斗が反論する。
確かにその通りだ。
内心は健人に賛成しながらも、俺は違和感を覚えていた。
連れて行かれてしまうなら、噂は広められない。
見ていた人がいたとしても、別世界に連れて行かれたことまではわからないはずだ。
だが、それを考えると、ミサオサマの噂もおかしいことになる。
なぜ、あのロッカーに紙を入れると願いが叶うとわかったのか。
よっぽどの偶然がない限り、ほぼ不可能のはずだ。
だが、ミサオサマの噂は実在し、真実だった。
「どうしたのー?行くよー!」
言音たちはもう先に行っていた。
「………ああ、すぐ行く。」
この噂の真偽はわからないが…注意して過ごしたほうがいいかもしれない。




