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「ミサオサマ」 噂

「起立、礼!」

『ありがとうございました。』

6時限目が終わった。

校庭には、春の暖かい日差しが降り注いでいる。

高校生活が始まって約2週間。学校や授業にも、だいぶ慣れてきていた。

「お疲れ、藍ちゃん!」

「星月さん、お疲れ様でした。」

「ああ、言音に凛華、お疲れ。」

言音の隣に立っているのは堀水凛華(ほりみずりんか)。言音の前の席なので、今は大体この3人で行動することが多い。

「別に、呼び捨てでいいのに。」

「まだ慣れなくって…。それで、さっきの授業でわからなかったところがあるんですけど…。」

「あー、ここね?ここは…」

「そんなことより聞いてよ!」

言音が割って入ってきた。勉強をそんなこと呼ばわりするとは。俺は顔を顰めた。

「面白い噂聞いたんだ〜♪」

そんな俺を気にする様子もなく、言音は話を続ける。凛華の方に目を移すと、諦めた方がいい、と言うように首を横に振った。言音が話しだすと止まらないタイプだという事は、俺も凛華も、この2週間でよくわかっている。

「また、怖い話ですか?」

「ふっふっふ…もちろんだよ凛華くん!もっとも、怖いかどうかは、人それぞれだがね!」

「そう言って、あんたの話大体ホラーじゃん…」

言音は噂が大好きだ。怪談とか、そっち系の噂にめちゃくちゃ詳しい。その気持ちを勉強に向けられればいいのだが。

「では、発表します!今日の噂は『ミサオサマ』の噂です!」

「ミサオ?誰それ。」

「そこまでは知らないよ…。でね、ミサオサマはね、願いを叶えてくれるんだって!」

「願いを叶える…?」

意外にも、凛華が興味を示している。

「そう!空き教室の13番のロッカーの中に、願いを書いて四つ折りにした紙を入れるんだって。」

「それってまじなの?ノーリスク?」

「流石にノーリスクじゃないよ〜。願いを叶える代わりに、ミサオサマの言うことを聞かないといけないの。願いによって内容変わるらしいけどね。」

「そう、なんだ…」

凛華の目は、深く沈んだような色をしていた。

「え?りん…」

「すみません、急用を思い出してしまって…。今日はこの辺りで失礼します!」

「あ、ちょっと!」

そう言って凛華は走っていってしまった。

「どうしたんだろうね。」

「…うん。」

あの目は気のせいだったのだろうか。何もないといいのだが。

「私たちも帰ろっか!それじゃあね!」

「ああ、また明日。」


―――――――――――――――――――


夕陽に照らされる帰り道。

俺はずっと、凛華のことを考えていた。

一瞬見せたあの目。まさか、本当に、ミサオサマに頼む気なのではないだろうか。

「………。」

俺はこういった噂などは信じていない。信じていないのだが…。どうも、嫌な予感がしてならない。

分かれ道でふと視線をあげると、俺の家とは別の方の道に、1匹の犬が佇んでいた。だが、近くに飼い主らしき人物は見当たらないし、ここらで犬を飼ってる話は聞いたことがない。リードもつけていないようだ。それにこちらを…俺をずっと見ている。

「…!いや違う、犬じゃない…!」

そう、犬ではない。狐だったのだ。

狐は道の先へ進むと、また振り返って、こちらを見てきた。着いて来いとでも言うように。まさか、漫画でありがちのこんな展開が実際にあるとは…。そんなことを考えつつ、俺は狐のあとを追った。


どれくらい進んだだろうか。気がつけば、丘のようなところまで来ていた。そしてそこには、大きな屋敷が立っていた。いかにも純和風な屋敷だが、建物の様子から見るに、今は誰も住んでいないようだ。

門のところでは、さっきの狐が何かを咥えて待っていた。近づいても、全く逃げない。よほど人間慣れしているのだろうか。狐は咥えていたものを俺に渡した。

それは、小さな御守りだった。

「これを俺に?」

狐は黙っている。

空は黄金色に染まっている。

「ーっ!」

突如、強い風が吹き、思わず顔を伏せてしまった。

顔をあげた時には、もうすでに狐は姿を消していた。

さっきのはなんだったのだろうか。

「一体、何がどうなってんだ?」

答える者は誰もいない。

俺は狐にもらった御守りを鞄に入れ、家へ向かって歩き始めた。

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