星月藍と入学式
俺の住む街には、変な噂がたくさんある。
いわゆる、都市伝説のようなものだ。
「人喰い踏切」「親友トンネル」
「カコミノカガミ」…
そのほかにも多くの噂がある。
俺?信じてなかったよ。そんな子供騙し、あるわけがない。馬鹿馬鹿しいって思って。
そう、あの日までは、な…
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よく晴れた春の空の下。
真新しい制服を着て、桜並木のそばを、学校に向かって歩いていた。
今日は入学式。
俺も、今日から晴れて、北守高校の一員だ。
周りを見てみると、他にもちらほら、同じ制服姿の人が歩いていた。
これから始まる新たな学校生活、胸を躍らせると同時に、俺には一つ、大きな不安があった。
そう、それは…人間関係だ!
中学校でも特別仲の良い人はいなかったし、人と話題を合わせるのが苦手な俺にとって、知らない地へ行くことは恐怖でしかなかった。
これから始まる新生活への期待と不安を胸に、俺は学校に足を踏み入れるのであった…
中に入ってみると、校舎は思っていたよりも古かった。たしか、この学校は、明治時代から続く、歴史の深い学校だったはず。建て替えはあったにせよ、校舎が古いのにも納得だ。
昇降口には人だかりができていた。
どうやら、クラス分け表が貼ってあるらしい。
「俺は…1-Aか。だと、1番西側だな。」
1年生のフロアは、3階にある。
ちなみに、2年生が4階、3年生が2階、1階はフリースペースになっている。
教室に入り、さっさと自分の席につく。
俺の席は窓側の1番後ろだった。
今日は入学式したら、ホームルームやって終わりだし、早く帰ってゲームでもしようかな…なんてことを考えていると、前の席の子が話しかけてきた。
「はじめまして!私は篠木言音。言音でいいよ!これからよろしくね!」
ボブの髪型がよく似合う、ふわふわした感じの、優しそうな女の子だ。
「…ああ、こちらこそ。俺は星月藍だ。よろしく。」
「藍君ね、よろしく!」
ん?君?こいつ、なんか勘違いしてないか?
「俺は―」
「あ、先生きたよ!」
説明するまもなく先生が来てしまった。
めんどくさいことになりそうだが…まあいいか。
そのまま入学式に向かうのであった。
「―じゃあ改めて、担任の東雲澪よ。担当教科は古文ね。よろしく。」
入学式が終わり、クラスではホームルームが行われていた。内容は自己紹介。俺の番は最後のようだ。ちなみに、席順は完全ランダムで決めているようで、おかげでクラスメイトの名前を覚えるのにも一苦労しそうである。最初は出席番号順とかじゃないのか?
そしてついに私の番まで来てしまった。
「えー、第一中学校から来ました、星月藍です。趣味はゲーム、あと、漫画やアニメを見ること。得意教科は数学だ。あと、先に言っておこうと思うのだが…」
意を決して口を開く。
「俺は女だ。」
「あー疲れたー…」
言音が大きく伸びをしている。
「それにしてもびっくりしたよ!藍ちゃん、女の子だったんだ!」
「…みんなが勝手に男だと思ってるだけだよ。」
まあ、それも仕方がないかもしれない。
髪型はツーブロックで、背も169cmと高め。
スカートではなくスラックスを履いており、
ワイシャツで過ごしているのも、間違えられる原因だろう。
「俺がどんな格好しようと、俺の勝手だろ?」
「そうなんだけどさー…」
何か考えていたようだったが…考えるのをやめたようだ。
「ま、いっか!じゃあ、また明日ね!」
俺に向かい、にっこり微笑む。
―また、明日。
そんなことを言われる日が来るなんて、思ってもみなかった。
向けられた笑顔に、思わずこちらも笑顔になる。
「…ああ、また明日な、言音。」
それを聞いた言音は、満足そうに帰って行った。
―いつ以来だろうか、誰かを名前で呼ぶなんて。
そんなことを考えながら、俺は家路を辿るのだった。