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ヴェルダ神話物語へのアプローチ






『出典』


 この神話・物語はアイスランドのヴェストマン諸島において、一七四四年にアイルランドの宣教師によって発見された一冊の稿本によって世に出ることとなった。これは主に北ゲルマン語によって書かれた全二十四の詩編であり、独立した神話と英雄譚から成っている。その後多くの研究者によって同タイプの詩編が幾つか発見された。また同遺跡では古代バビロニア期のものとされる、シュメール語で書かれた粘土板も複数発見されており、解明の結果、神々による世界の創造から人類の誕生に渡る神話の物語が描かれていることが明らかとなった。これらは後にこの場所に持ち込まれたものであるとの考えが妥当であるが、最初に発見された稿本との関連性も示しており、詩編、粘土板等を総称する呼び名として“古ヴェルダ”が採用された。

 古ヴェルダが発見されてからの後、一九三七年にイギリス人考古学者アレックス・レンフリューによって、イギリスのグラストンベリー修道院跡より大量の詩編が発見される。第二次世界大戦後にようやくまとめられた詩編は北ゲルマン語によって書かれたものであり、英雄たちの活躍が描かれた一代叙事詩は“ロアール・サガ(琥珀物語)”として世に広まった。






『文学的構造』


 これらの物語はそれぞれが異なった詩人によって違う場所、違う年代に伝えられたものであるとされるため、そのことが物語の中に多少の矛盾点を産み出している。しかしながらそれらは詩人たちの理想や憧れにより脚色されたものであると考えられており、物語の持つ本質を損害するものではない。

 この神話・物語は全てが繋がりを持っており、多くの話があるものの、それらは一つの壮大な物語である。だが一つ一つの物語はそれぞれ固有の醍醐味を持っており、大きく展開して魅力的な多くの挿話を創り出している。

 最初に神話の世界において大地の女神セレナが地上に降り立ち、最初の樹ヴェルダと世界が産まれる。ついで太陽神マストロが現れ、多くの命が産まれ、神々の統治による平和の世が訪れる。この時代は太陽時代と呼ばれ、文字通り太陽神であるマストロが全ての法として君臨し統治する時代である。

 この時代は人間たち同士の戦争によって幕を閉じることとなる。太陽時代、次第に神々以外の命が増え出し、特に人間がその数を増した。すると彼らは神々を崇め、崇拝することで自分たちへ引き込み、その力を利用しようとした。いわば神々による代理戦争であった。見かねたマストロは人間たちへ怒りの炎を落とし、それにより一旦戦争は終結し、人間たちも生きるために神々を崇めるようになった。

 しかし力を求める邪な人間の欲望は、次第に神々から離れ淵界の魔王を求め、魔王たちもまた人間たちの欲望を糧に力を付けだした。魔王は神々への侵攻を開始し、神々はそれに応戦した。戦争は百年の間続き、大地は焼き払われ、多くの命が消えた。終わりの見えない戦争に恐怖を抱いた神々と魔王は、互いの内の一番の賢者を交換し和議を結んだ。その後この戦争が人間たちの心内から産まれたものだと決定づけた神々の多くは地上を離れ、神話の時代は結びとなる。

 続いて琥珀物語が始まる。全編六章と外伝から成る物語には王や騎士を主とした王朝の栄枯盛衰が描かれ、特に古代王朝の変遷が取り上げられる。“ロアール・サガ(琥珀物語)”には多くのスカルド詩的な要素が見られ、登場人物たちの行動や感情が隠喩や比喩によって表現されている。また琥珀物語は、普通は英雄の物語として位置づけされているが、実際は人間同士の実像のドラマであり、恋愛や友情、怒りなど、現代の我々にも身近な感情が題材とされていることにも注目されている。そんな彼ら物語の住人たちの儚く無常でありながらも活き活きとした生活こそが今日においても我々を縛り付けるのであろう。

 これらの物語の詳しい年代は文献からは解明されていないが、古い神々を崇拝する詩人たちの間で詠い語られ続けてきたものと考えられ、神々による創造、王朝の台頭や衰退、英雄たちの冒険、また人々の生活を感じとることが出来る。だが物語を知る主要な資料はこれまでであり、我々はこれ以上を知ることが出来ない。我々は、断片的な伝承、途切れた記憶、残された文献、産み出される技術、そして遙か彼方に思いを馳せる豊かな想像力によって出口に向かい暗闇の橋を渡るしかないのである。



       ~ 古ヴェルダ、ロアール・サガ(琥珀物語)へのアプローチ ~ より一部抜粋






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