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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第二話 ピーラーが欲しい一日

 なんやかんやとあって、翌日。

 俺は生地がよれよれになって伸びきったジャージらしき衣服(借りたやつ)に身を包み、ベッドに腰掛けながら頭を抱えていた。


「⋯⋯これからどうしよう、俺」


 昨日はノリと勢いだけで不安を誤魔化せてはいたものの、この世界は俺の元いた場所とは違う。

 勇者や魔王がいるらしいし(モンスターなんて見てないけれど)、何よりファンタジー系の異世界だ(魔法のひとつも見てないけれど)。


 ⋯⋯本当に異世界なのかなぁ。これでただ単に頭のおかしな女に拉致られただけだとしたら、どうしよう。


「⋯⋯ステータス」


 ラノベでお馴染み、例の呪文。

 しかし別に何か数値の記されたウィンドウが見えるわけでもなく、ただ気恥ずかしくなっただけだった。


「え、急に何ひとりで喋ってるの? ステータス? そんなの言葉ひとつで見れるわけないじゃない」

「うわぉあ!?」


 突如室内に響いた声に驚きながら振り向けば、少しだけ開かれたドアからひょこりと顔だけ出しているシルテットがドン引きしながら俺の様子を伺っていた。


「いつから居たんだ⋯⋯?」

「ついさっき。目が覚めたらお腹すいちゃってて、どうせならご飯作ってもらおっかなー、って思ったから来たんだけど⋯⋯頭、大丈夫?」

「ぐっ⋯⋯マジなトーンで心配されるとなんも言えねぇ⋯⋯!」


 これが黒歴史を作ってしまう瞬間の気持ちなのか。かなり心がしんどいぞ。

 だって仕方ないじゃん、ロマンだろああいうの。自分の能力値的なのを数字やらランクやらで書かれてるんだぜ? ⋯⋯よく考えたら別に力も強くないし足が速いわけでもないわ、俺。じゃあ見る必要ないじゃん。

 とは言え、しかし。


「俺って一応勇者召喚と同じ魔法? で召喚されたわけじゃん。何か特殊なスキルとか使えるようになってねーの?」


 異世界に自分がもし召喚されたとしたら、どのような能力が与えられるのか──思春期の男子なら一度は妄想していてもおかしくないシチュエーション。

 もうアホみたいに「ステータス!」とか言っている姿を見られているのだ。逆にもう開き直った方が傷は浅くなりそうだと俺は一縷の望みを抱きながら、召喚主であるシルテットへと質問をする。


「さあ? 勇者についてよく調べないで召喚しちゃったもの。まったく分かんないわ」

「なんでだよ」


 適当すぎないかこの女。

 まあ完全に否定されるよりかは希望があるかもしれないけどさ、それにしても雑すぎる。勇者召喚ってそんな気軽にしていいもんなの?


「そんなことよりもお昼ご飯が食べたいわ。何か作って?」


 コイツ⋯⋯猫の餌でも食わせてやろうか。他人事みたいに話題を変えやがって。

 しかし昼飯ねえ。言われて気付いたが、俺って昨日の夕飯を逃してから何も口にしてないよな。

 ──ぐう。

 自覚した直後から、急に身体が空腹を訴え始める。


 このまま苛立ちに任せて意地を張り続けたとしても良い方向には間違いなく向かなさそうだし。素直に言う事を聞くみたいでとてつもなく癪だが、飢えをわざわざ耐え凌ぐってのもな。

 背に腹はかえられない、か。


「わーったよ。そこまで凝った料理は出来ねーけど、昼飯くらいなら何とかなんだろ。とりあえず台所まで案内してくれ」


 くいくいと廊下へ向かうジェスチャーをする。

 すればシルテットは表情を明るくし、続けてふふんと形の整った胸を張って。


「任せなさい! ⋯⋯ふふふ、あなたにも私専用の使用人としての自覚が芽生えてきてるみたいね!」


 などと、笑えない冗談を言い放つ。

 使用人として扱われるのを了承した覚えは無いし、昨日今日とこうやって話しているのも成り行きからだ。どの部屋を見ても物置みたいになっているゴミ屋敷に住み込みで働きたいわけが無い。そもそも雇い主が怠け者すぎるしな。

 その上、そもそもの話。可能性として、この場所が本当に異世界なのであるならば俺は何も言うまいが──もしもただ単に俺が嘘で丸め込まれているだけだとすれば、当然容赦なく脱出を試みることだろう。

 今現在置かれている異常な状況下において全ての情報を簡単に鵜呑みにするほど、俺は純粋じゃあないのだ。

 ⋯⋯とか思いつつも、結局シルテットの言う通りに動いちゃってる事実に、心做しか頭が痛くなってくる。


「どうしたの? キッチン、着いたわよ」

「ん、ああ。ちょっとだけ考え事を──って、んんん?」

「⋯⋯?」


 俺のリアクションに対し、きょとんとした表情を浮かべるシルテット。いったいどうしたのかとでも問いたいのだろう、眉を顰めている。


「⋯⋯嘘だろ、おい。無いなんて聞いてねーぞ」

「無いって何がよ。最低限の材料はあるし、調理器具もある程度ならあるはずだけど」

「いや、確かにそうだわ。失念してた⋯⋯」


 俺は諦めの感情を含んだ声色で呟く──まさか、電化製品がひとつたりとも存在しないとは思っていなかった、と。

 思えばそうだ、ここは異世界。科学技術で発展してきた地球とは文化が根本的に違う箇所もあるだろう。

 横一列に並んだ石造りのかまどを目にし、どうしよう、と項垂れた。

 一般的な現代っ子である俺からすれば、炊飯器だとか電子レンジだとかの家電はあって当然のもの。つまりはそれらが無いとろくに料理なぞ作れないわけで。


「買い出しって方法はアリっすかね⋯⋯?」


 実に情けない声での提案が口から漏れ出す。


「え。もうすっごいデザート待ちだったんだけど」

「デザートぉ!?」


 知らん間にめちゃくちゃ期待されてたし。

 てか、もしも電子レンジやらがあったとして、作るのには時間かかるはずだろそういうのって。少なくとも「すぐ食べたいから作ってー」だなんて気軽に頼むものでは無い。

 フ〇ーチェのお手軽さというものを身に染みて実感しながら、俺は頭を搔く。


「デザートは諦めてくれ。てかあんまりハードル上げんな」

「じゃあ何なら作れるのよー」

「なんだろ⋯⋯炒め物?」


 言いながら、適当にその辺の開き戸に手をかける。


「うお、冷たっ」


 開いた隙間から流れてくる冷気。どうやら冷蔵庫の役割をなす設備ならあるらしいことが、今のところ唯一の救いだった。

 で、肝心の中身は、と。


「じゃがいもが四つとキャベツが一玉。ついでに小麦粉っぽいやつ⋯⋯なんで冷蔵庫に入れてんの」

「食べ物って冷やさなきゃなんじゃないの?」

「いやまあ蒸し暑いところに放置して虫に食われるよか良いけどさ。つーか待て待て、食材はこれだけとか言うんじゃねえぞ」

「それだけね」

「いったい俺に何をどう作れと⋯⋯?」


 本当に炒め物しか作れなさそうなんだが。

 いや別に今の空腹を凌ぐためならそれでも良いんだけどさ、今日の夜には冷蔵庫の中が空っぽになっちまうぞ。


 いや、待てよ。


「なあ。今日の晩飯まではなんとかなるけどよ、明らか食材足りねぇよな」

「確かにそうね。それなら私が天使の力でちょちょいっと⋯⋯」

「すとぉーっぷ!」


 シルテットが何かを言い切る前に機先を制さんと声を張り上げた。

 何せチャンスなのだ。そう、俺がこのゴミ屋敷の外──つまり異世界へと足を運ぶ、これ以上無いくらいの理由付け。


「俺が料理をするんだろ? だったらさ、俺自身の目で色んな食材やらを見繕った方が美味い飯が作れると思うぞ!」

「美味しい、ご飯⋯⋯」

「ああ。約束する」


 視線を逸らさず、断言。


「ふ、ふーん。そう? まあ私に断る理由も特にないしね。明日の朝に出発、で良いわよね?」

「おーけー、それで行こう」


 思ってたよりチョロかったな。変に警戒しなくても、そのうち外には出れていたかもしれん。

 実際、今のところは直接的な悪意を向けられたことは無いしな。

 シルテットから見た俺ってのは、本当にただ"なんとなく召喚した存在"なのだろう。んで、その召喚対象として偶然俺が選ばれただけで。


 とりあえず、しばらくは様子見かな。

 仮に危害を加えられそうならば全力で抵抗するが、その可能性も低そうだし。


「んじゃあとりあえず今日の飯はキャベツ祭りな。明日まで美味い飯は我慢しとけ」

「う。仕方ないわね⋯⋯それなら私はお部屋に籠るから、出来たら持ってきてちょうだい」

「へいへい」


 駄々をこねられても面倒だと大人しく頷いておく。

 もうひと踏ん張りすれば外の様子を確認出来る。そう考えたら少しは胃痛も治まりそうだ。


「さて、と。適当に作りますかね⋯⋯」


 廊下の奥へと引っ込んでいくシルテットの背中を横目に見つつ、俺は包丁を手にじゃがいもの皮を剥き始めるのだった。

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