5話 同棲八日目 後半
会社から帰ってきて、そんなことを考えながらちょっとだけ掃除していたら、出現した妙なもの。
ドキッ!小学生男子のぼくが電車でおじさん痴〇に囲まれて
僕はこれにどう反応すればいいのだろう。
あれこれ考えていたら
「あーただいまぁ」
小田さんが帰ってきたことに気が付かず、
「あ」
「あ」
僕と目が合った。
そして僕がこの本を持っていることに気が付かれてしまった。
「ど、どうしてそれを…!?」
小田さんは青ざめて、仕事のカバンを落とした。
「こ、この封筒から出てきてさ。これってもしかして…小田さんの?」
「あ、ああああ…」
彼女はその場で固まってしまった。
「あー…うん…えっと。大丈夫だよ」
僕は適当な言葉でお茶を濁した。
「み、見た……?」
彼女は搾りかすのような声で尋ねてきた。
こんな声聞いたことなかった。
「ま、まだだよ」
「まだってことは、見るつもりある……?」
「…正直な意見を言ってもいい?」
「ど、どうぞ…」
「見たくはないかな」
ありのままの気持ちを言った。
表紙のタイトルから察するに、小学生の男の子が痴〇被害にあう内容だろう。
本というフィクションだといえど、子どもがひどい目にあっているのはかわいそうだ。
その様子が描かれている本は見たくない。
「そ、そう…」
彼女はホッとした様子だ。
「…僕からも一つ聞いていいかな?」
落としたかばんを拾った彼女はビクッと体を震わせた。
「な、なにかな?」
「小田さんは同性愛者なの?」
「えっ、えええ!」
驚いた様子の小田さん。
「わ、私は普通だよ。ノーマルノーマル」
「ノーマルとは?」
「…異性が好きということです、はい」
お互いに緊張した雰囲気で話す。
「では、実は女の子と結婚したいとかではない?」
「もちろん…そんな趣味私にはないよ」
「そうか…」
僕はソファーに腰かけて彼女に背を向けて
「よかった」
と言った。
「え?え?彼くんは、私が女の子を好きだと思ってたの?」
小田さんが僕の正面に立った。彼女のスーツの服装が乱れている。
「うん」
「な、なんで…」
「小田さんの描いてる絵や本は、同性愛ばっかりじゃないか」
「あ、あぁー…確かに」
僕は安心した冷静な感情と何か八つ当たりをしたいような怒りの感情がわいてきた。
「座ってよ」
自分の隣のソファーの部分を手でたたいて、強めに言った。
「でもっ、着替えてないから着替えたいなーって、わたし汗くさいかも」
「いいから」
僕は彼女の腕を掴んでグイっと手前に引っ張った。
「きゃっ」
小田さんは僕の正面から倒れてきて、僕は受け止める。
髪の匂いか、スーツの匂いか、汗の匂いか、彼女の匂いがした。
「ほら…座って」
小田さんの手を握った。
「う…うん」
頷く彼女の手を握ったまま、隣に座らせる。
きっと僕は小田さんについて知らないことがあるようだ。
だから――
僕は彼女の手をギュっと強く優しく握った。
「話し合おう、お互いのことを」
「こ、これから?」
「うん。今すぐ」
「そ、早急に?」
「早急に」
赤くなった小田さんの顔を見て、顔を近づけた。
すると彼女は反射的にのけ反ったのか、ソファーの上で後ろへ倒れた。
手を繋いでいたので僕も倒れて、彼女を押し倒す形になる。
「は、はひぃ…」
「話せるかな?」
追い詰めた僕は――重力に従って自分の頭をゆっくりとおろして、追撃した。
「は、話します!話しますぅ!」
「わかりました」
長い夜になりそうだ。
観念した小田さんはポツポツと話し始めた。